アサガオは《危険すぎる〇〇》?! 涼しい顔の意外な横顔は・・・

https://tenki.jp/suppl/usagida/2016/07/29/14131.html  【アサガオは《危険すぎる〇〇》?! 涼しい顔の意外な横顔は・・・】  より

涼しい顔で朝活中♪

夏休みの花といえば、アサガオ。どなたでも一度は育てたことがあるのではないでしょうか。じつはこの花、もともと薬として日本にもたらされた植物だったのをご存じですか。その薬効とは? 江戸時代には鑑賞用として大ブームになり、世界でも類をみないほど多種多様に変化して現在に至っています。 日本中の小学1年生が育てる「夏の顔」。その意外な横顔が見えるかもしれませんよ〜!

アサガオは『朝容』と書くのがもともとの漢字なのだそうです。

容(かお)とは「美しい容姿」という意味。アサガオは「朝の美人さん」だったのですね。

『安佐加保』などの名で万葉集にも登場するほど、先祖代々の美人家系・・・と思ったら、じつは当時「あさがお」は特定の植物を指す名前ではなくて、「ムクゲ」や「キキョウ」を指していた可能性大ともいわれています。

とはいえ、夏の朝に咲くアサガオには特別な美しさがありますね。

ところでアサガオ、ちょっと早起きすぎると思いませんか・・・午前5時、4時どころか3時頃でも、もう咲いてる?!

なんと、アサガオの開花は暗闇の中で始まります。午前1時には巻き畳まれていた花びらがほぐれはじめ、それからゆっくり数時間かけて開くのです。なので、私たちがよく見かける朝の姿は、アサガオ的にはすでに(美人の)ピークを過ぎている状態なのかもしれません。

真っ暗なうちから朝活(婚活?)するなんて。アサガオは、朝が好きすぎるあまり、朝の足音を感じ取って起きてしまうのでしょうか。

じつは、アサガオは「朝が来るから咲く」のではないらしいのです。

アサガオの体内時計は、日没に合わせてセットされ、8〜10時間後に花が咲くようにプログラムされているといいます。朝日はむしろあまり関係ないようで、気温さえ高ければ晴れでも曇りでも雨でも、花開くのだとか・・・いかにも「朝を感じて」咲くかのような名前を持ちながら、実際は「夜を感じて」咲いていたのです!

秋になって日没が早くなると、そのぶんアサガオの開花時間は早くなることがわかっています。ただ、気温が下がると つぼみはゆっくり開くので、日中いっぱい咲いていたりすることも。

アサガオの開花を見たい場合、大人の皆さんは早起きするより夜更かしした方が確実かもしれませんね。また、咲きそうなつぼみに紙で作ったキャップをかぶせておき、朝とると、すぐ咲き始めるという裏技もあるようです。睡魔に弱い方やお子さんは、お試しになってみては。

ほとんど危険レベルの薬効で伝来?!

奈良時代終わり頃(または平安時代初期)に中国からアサガオが伝来したのは花を愛でるためではなく、種を薬として用いるためでした。漢名は「牽牛子(けんごし)」。どんな効用があったのか、『今昔物語』巻第28を紐解いてみましょう。

今は昔。

越前の国守・藤原為盛(ふじわらのためもり)さんは、役所に支給するべき米を不作で滞納していました。とうとうある日のこと、屋敷の前に取り立ての官人たちが集結! なんと早朝からテント(天幕)をはり、「徴収するまで帰らない」というではありませんか(奥さんや子供はおびえてしまいますね)。

季節は6月の炎天下。主人が出てこないまま半日が過ぎて午後2時ともなると、みんな暑さでフラフラに。と、そのとき、門が細〜く開いて年配の侍が顔を出し「主人はまだ出てこられないんですが、とりあえず中で休憩でも」。予想外のお招きに、官人の皆さんも嬉しそうです。

中に入ると、そこには干し鯛・塩鮭の切り身・鯵の塩辛・鯛のひしお(なめ味噌)など「しょっぱい系」のご馳走が並べられていました。 小腹の空いた官人たちは、このおもてなしによってますますノドがカラカラになってしまいました。

そこへようやく、お待ちかねのドリンク(お酒)が登場! 少し濁って酸っぱいような気もしますが、この際関係なし!よく熟れた紫色のスモモとともに、うやうやしく注がれるまま、乾きにまかせてもう何杯でもいけそうです♪

ところが。

これは為盛さんが巧妙に仕組んだワナ・・・「暑い天幕の下で何時間も放置してから、空きっ腹に塩辛い肴を食べさせカラカラにノドが乾いたところで、牽牛子入りの酸っぱい酒をたらふく飲ませてやる。ここにいられなくなるようにな」作戦だったのです!!

為盛さんの狙いどおり、お酒をしこたま飲まされた官人たちは、間もなく激しい下痢に襲われます。阿鼻叫喚の黄色地獄と化した一団は、息も絶え絶えに退散。これに懲りたのか、その後米を納入しない国司の元へ官人たちが押しかけていくことはなくなりましたとさ。めでたし、めでたし。

このとき為盛さんがお酒に混入させたのが、粉末状にすりつぶしたアサガオの種『牽牛子』。当時は強力な下剤として一般にも用いられていたようですね。

『牽牛子』の主成分はファルビチン。水溶性ではないので、煎じるのではなく粉末にして用います。強力な下痢の作用があり、飲むとすぐ効くことで知られています。便秘をはじめ、リウマチ、脚気、むくみなどにも効用があるのだとか・・・。

ただし『牽牛子』はあまりにも強力なため、現在漢方薬として単独では用いないほどなのだそうです。もし多量に服用すると、「激烈な腹痛・嘔吐・神経症状・血尿・大便に粘血」といったとても激しい副作用が。『今昔物語』の官人たちは、七転八倒しつつもお互いの様子を笑いあったりと心のゆとりが感じられる描写なのですが、じつは一般人が自己判断で用いるにはあまりにも危険すぎる下剤でした!

ところで、なかなか帰らない連中をみごとな機転で退散させた策士として後世に語り伝えられている為盛さんですが、その一方で国司の身分証明書を無くしてしまうなどミスの多い横顔も持っていたようです。やっていることの残忍さ(?)のわりに好意的に受け止められているところをみると、憎めないタイプの人だったのかもしれませんね。

小学1年生がアサガオを育てる理由とは?

小学1年生でアサガオを育てる学校は多いようです。

いちばんの理由は、種さえきちんと穴に置いて水やりをすれば、生まれて初めて植物をお世話する子供でもちゃんと花を咲かせることができるから! 双葉・本葉と出て、左巻きのツルが伸びて支柱を立て、きれいな花が咲いて、種が収穫できて・・・と、短い間に次々に展開する成長の早さも魅力です。種から種まで、植物の一生を見届けながらいろいろ感じた子供なら、大人になっても「アサガオだったら育てられる」と思うことでしょう。

このように入り口は広いアサガオですが、奥行きはたいへん深いようです。

新しい品種ができても、手を加えないでいるとたちまち元の形に戻ってしまうのだとか・・・薬として伝来した当時は小さくてうすい青色だけだったアサガオの花を、日本人は江戸時代以降、あらゆる色や模様を生み出し大型化させてきたのです。中国原産にもかかわらず、アサガオの英名は『ジャパニーズ モーニング グローリー』というそうです。

早朝に咲いて昼には萎んでしまう儚さも、和の心にマッチしているような。1年生の夏休みは、日本人とアサガオを深く結びつけていたのですね。

7月28日(木)~8月3日(水)、東京の日比谷公園では『超大輪朝顔展』が開催されています詳細はリンク先参照)。早起きして、華やかで大きな顔の美女軍団に会いに行きませんか。

〈参考〉

『色分け花図鑑 朝顔』米田芳秋(Gakken)

『アサガオ観察ブック』小田英智(偕成社)

『アサガオ たねからたねまで』中山周平(あかね書房)