チベット医学 四部医典医学タンカ詳解(全6巻) 上製 オツァンツォクチェン 監修

http://www.toho-shoten.co.jp/toho-web/search/detail?id=4861941467&bookType=jp より

【主な内容】

第1巻 ダライ・ラマ5世、薬師如来像と人体の樹木の根

  ダライ・ラマ5世と薬師如来、その弟子、名医などを紹介。また、「人体の樹木の根」から「生理」と「病理」の2本の幹が生えているというチベット医学の基本を解説。

第2巻 人体の生理と急所、疾病の内因と侵入経路

  人体の急所、死兆、疾病の内因、疾病の侵入経路、飲食物の心得、薬物など。

第3巻 草本類薬物、動物薬物の特性

  「草木類薬物」と「動物薬物」に分けて、薬物の性質と効能を解説。また手術器具を紹介。

第4巻 灸、穿刺、瀉血部位、各疾病の病因と症状

  医師の素質、分類、職責、善果などのほか、灸、穿刺、瀉血の位置をタンカによって説明。

第5巻 チベット医学最大の特徴「脈診」

  毒の種類と中毒症状、および脈診について。

第6巻 尿診、舌診、四部医典総括と伝承

  男女の尿を亀の図と照合してどのドゥン(鬼神)が祟っているかを推察する「尿診」などについて。

【出版にあたり】

チベット医学タンカー『メンタン』(メンは薬、タンはタンカつまりは絵画のこと)は、チベット医学の基礎理論と臨床実践の内容を絵で表現した一種の絵巻物です。チベット族は、この「タンカ」という手法を通して、チベット医学を伝承し続けてきました。その歴史は西暦8世紀のチベットの著名な医薬学者であるユトク・ユンテン・ゴンポが編成した『四部医典(ギュー・シ)」の根本タントラにおいて、医学を樹木に見立てて説明していることからも、非常に長いものであるとわかります。

医学タンカの発展は17世紀にピークを迎えました。ダライ・ラマ五世(1617~1682年)の発願により摂政サンギェー・ギャムツオ(1653~1705年)を主とする多くの名医とタンカ画家の手により、まず当時のチベットで力を誇った二大医学学派-チャンパ派(北学派)とスル派(南学派)の薬草、脈絡の位置などを描いた医学タンカをもとに、『四部医典』の注釈本である『青瑠璃』の内容をタンカに加えた『四部医典系列医学タンカ』(全80幅)が作成されました。この医学タンカは、『四部医典』の根本タントラの内容より、「タナトゥク」薬王城、人体生理と病理の樹、診断の樹、治療の樹の計4幅と、論述タントラの内容より、人体生理(16幅)、病理(1幅)、起居行為 (1幅)、飲食(2幅)、薬物(8幅)、補充薬物(3幅)、手術器具(1幅)、保健と診断(1幅)、治療法(1幅)、医者の心得(1幅)の計35幅と、秘訣タントラの内容より、炎、穿刺、瀉血の穴位(2幅)、ルン病から婦人病までの各病因(7幅)、外傷の原因(4幅半)、毒物(1幅)、養生と壮陽(2幅)の計16幅、後続タントラの内容より、脈診(9幅)、尿診(4幅)、薬剤(半幅)、排泄療法(2幅)、瀉血と灸の経絡(6幅)の計22幅がタンカとして作成されています。さらに『四部医典』の総括と伝承(2幅)、『四部医典系列医学タントラ』を伝承した12名のラマや名医、護法尊が描かれた1幅を加えた合計80幅の医学タンカからなります。

独特なチベット医学理論とチベット族の伝統文化の反映した医学タンカを伝承し、チベット医学分野の発展と革新を推し進めるために、青海省チベット医薬研究院では2006年より『四部医典医学タンカ詳解』の編纂プロジェクトが始動しました。編纂チームは青海省、チベット自治区、四川省、甘粛省などの多くの学者の指導と支援のもと、『四部医典』の注釈本である『青瑠璃』をベースとし、そこに『月王薬診』、『医学八支』など数多くの古書文献の内容を加え、さらに現代チベット医学者チャムパ・ティンレ教授が翻訳編集した『四部医典曼唐』『藏医四部医典八十幅曼唐釈難·藍瑠璃之光」を参考にして編纂しました。また80幅ある『四部医典系列医学タンカ』より、6,487か所にクローズアップし、さらに内容を深く掘り下げて解釈し、一般の方でも読みやすく、わかりやすいように解説を付け加えました。多くのチベット医学専門家による校正と査定を繰り返し行い、8年の歳月を経て、ついに出版することとなりました。

【本書の特徴と翻訳原則】

1.医学タンカの各図の解釈は、文字が多くなりすぎないよう4行以内にまとめました。方言や古い言葉は極力避け、チベット医学の専門用語と常用語を使用し、なるべく簡素かつ解りやすく説明するように心がけました。

2.医学タンカの各図の内容は、『四部医典』の注釈本である『青瑠璃』をベースとしています。現在でも研究者の間で争論されている箇所については、古書の考証文献を参考にし、さらにチベット医学専門家の論証を経て決定しました。

3.医学タンカの図1~7の上端には薬師八仏、薬師如来の四大系統徒弟の中からチャンパ派とスル派などの218名の伝承者像が描かれています。各人物の詳細については「チベット医学の相承系譜」の中にも書かれていますので、参考にしていただけます。

4.医学タンカの各図の下方に書かれた注釈の字句については、位置のズレや誤字などがありましたため、各図の表題の中に新しく訂正して記載しました。

5.医学タンカの図31~33の単味生薬の中に描かれている「チュツェ」「シェルマリ」「アヒシャ」などの希少な生薬については、『青瑠璃』などにも記載がないため、医学タンカに描かれた絵の形状や色などを参考にして生薬名を特定しました。

6.医学タンカの図47の小児疾患の病因については、同じ名前の「ドゥン(鬼神)」が多く、明確な特定が困難でしたので、略述してあります。図52の外傷の原因については、『輪経』と『律経』の述べるところの「脈気点の計測法」の診察は比較的難しくわかりにくいため、注釈はなされていません。

7.チベット語から日本語への翻訳については、「原文の作風を損なわせない」ことを原則とし、「ルン」「チーパ」「ペーケン」などのチベット医学で使用される基本用語や、地名、人物名、書籍名、手術器具名および特殊な生薬など翻訳が困難な用語については、チベット語の音訳で記載しました。未集録あるいは研究者の間で論議されている用語については、翻訳原則に基づきました。