http://karapaia.com/archives/52221285.html より
最近、脳についての研究の多くが誤っている可能性があるという報道がなされ話題となっている。脳の活動の状態を視覚化するために利用されていた磁気共鳴機能画像法(fMRI)用のソフトウエアの一部にバグがあったという。これにより過去15年間にfMRIを用いて発表された4万件もの研究結果をもう一度見直さなければならない必要があるという。現在は問題点が修正されているというが、長い間放置状態にあったことは事実で、医学研究に利用されるソフトウェアそのものに関する研究が十分に行われていないことが問題視されている。
ということで、脳に関する研究が15年前まで巻き戻される可能性も高いわけだが、もともと脳については未解明の部分が多い。
わかっていることは、脳は人生で起きる体験を味わううえで中心的な部分だということ。思考能力から筋肉の制御まで、人体のコントロールを処理しているということ。しかも私たちが意識しなくても勝手にあれこれと世話を焼いてくれるということだ。ここではそうした無意識のうちに脳が行っている10のことを見ていこう。
10. 情報の選別
私たちは日々、常に膨大な情報に触れている。それはもはや処理できる量を超えている。あなたは今朝はいた靴下の色を覚えているだろうか? 今日初めて会った人が着ていたものはどうだろう? 覚えていなかったとしても、それは記憶力が衰えているからではない。脳が情報を選別していることが原因だ。
このおかげで私たちが大切な事柄に集中することができる。例えば、サッカーの試合を見ているときに、観客のことはほとんど意識しないだろう。脳はその情報を知覚しているにもかかわらずだ。
このことを選択的注意といい、情報の洪水のせいで気が狂うことを防いでくれる。だが中にはこのバリアを超えて侵入してくるものもある。他人の会話の中に自分の名前が登場すると即座に反応する理由だ。これに関する面白い実験がハーバード大学で行われた。
下の動画では、映像には、白い服を着た白チーム4人と黒い服を着た黒チーム4人が登場する。両チーム入り乱れてバスケットボールをパスしあうが白チームがボールをパスした回数を数えてみよう。その答えに驚くことだろう。
9. まばたき
まばたきはおよそ10秒に2回の頻度で行われる。だが、それはほとんど無意識のものだ(……が、おそらくこのリストを読んでいる間、それについて意識することになるだろう)。まばたきは自動反射運動であり、目を守り、水分を保つ役割がある。
目の外側の端では常に涙が流れている。この涙はまばたきをしたときの瞼の動きで、目の潤滑にし、汚れを落とす。まばたきのパターンを制御する自動システムは、顔に何かが当たったときに瞼を閉じさせたりもする。意識すればこれを止めることもできるが、いずれはまた自動的にまばたきが行われるはずだ。
8. 発音に応じて舌を動かす
話をするとき、私たちが意識するのは話す内容だけだ。舌や口の筋肉を連携させて動かそうなどとはちっとも考えない。
会話はまずそれを真似することで学習される。必ずしも一文全体ではなく、意味を理解できなくても耳にした断片的な異なる単語の組み合わせを真似すればいい。真似や新しい単語を覚える際、脳は思った通りの音を出すための舌の位置を意識して考えなければならない。
しかし、音を出す発音能力が十分に発達すれば、舌や唇を動かすプロセスをいちいち意識する必要がなくなる。これが会話をするときに舌がどこにあるか考えなくてもいい理由だ。その動きは筋肉がすでに学習しており、私たちが何かを言おうとするとき脳は自動的にその動きを再現してくれる。
7. 自分が優れていると自らを騙す
あなたに将来芸術家になりたいと願う子供がいたとしよう。その子があなたに誇らしげにどう見ても落書きにしか見えない作品らしきものを持ってきた。なんと声をかけるだろうか? ほとんどの親は嘘であってもそれを褒めるだろう。やがて、その子の成長の折々で絵を見るにつけ、あまりの上手さにゾッとすることになる。
誰かが自分について肯定的な評価を下すと、人はその評価通りの自分だと思うようになる。これは自己の見方を変え、自分が実際よりも優れているかのように思わせる。
このことは科学的に測定できない才能以外でも当てはまる。『(不)誠実:嘘にまつわる真実』というドキュメンタリーで行われたある実験では、テストを首尾よくこなせたと思い込んだ人が、知識レベルや難易度に変化があるわけでもないのに、その後のテストでも自信を持って答えることを実証している。
実験では被験者に2回のテストを受けてもらった。最初のテストでは問題用紙の一番下に解答が与えられており、被験者は自由に見てもいいことになっていた。当然、テストの成績は良好だ。2回目のテストでは解答が与えられなかった。だが、被験者は自分たちがきちんと正解できると思い込んでいたために、素早く答えを書き込み、それに対する修正も少なかった。無論、その自信とは裏腹に最初のテストのような成績は残せていない。
6. 体温の調整
体温もまた脳が無意識のうちに調整しているものだ。私たちが健康でいるためには体温が36.5度前後(個人差もある)に維持されていることが不可欠である。この温度は消化酵素が働くうえで最適であるなど、体が様々な処理を行う際にぴったりの条件なのだ。だが、一体脳はこれをどのようにして実現しているのだろうか?
外部の環境は皮膚の感覚受容器によって感知される。この情報は神経を通じて脳の視床下部に伝えられる。血液の中にも受容体があり、同様に視床下部に情報を伝えている。こうして体温が読み取られると、脳は適切な体温を保つための行動にでる。例えば、外部が寒過ぎれば、腕の毛を立て、体温を逃がさないように命じる。逆に暑過ぎれば、汗を流すよう指示を出し、その蒸発を通じて熱を逃がそうとする。
5. 記憶の改変
何かを経験したら、それをそのまま記憶していると思っている人は多いだろう。出来事から情報を思い出せなくなるのは、その記憶が薄れつつあるからだ、と。だが、真実は必ずしもそうではない。
1974年の実験では、被験者に衝突する車の映像を見せて、それについて質問をした。ただし被験者はいくつかのグループにわけられており、同じ質問であっても少々表現が変えられていた。車の速度に関する質問において、一方のグループでは衝突を「ぶつかった」、他方では「衝突」と表現してたのだ。対照群となるグループには速度についての質問はしていない。
数週間後、被験者に再度映像に関する質問を尋ねた。今回は「ガラスが割れているのに気づいたか?」というものだ。実際の映像では割れていない。すると「衝突」という表現で質問されたグループ(高い速度を想起したと思われる)では、対照群や「ぶつかった」と表現されたグループよりも、気づいたと答えることが多かった。このことは脳が新しい情報から元々の記憶を再構成していることを示唆している。こうして偽の記憶が作り出されるわけだ。
4. バランスの維持
私たちは歩いているとき、それをいちいち考えたりしない。が、安定したバランスをとるために脳がどれだけ働いているかについて思い至ることはない。脳は目、筋肉、関節、前庭器官から伝えられる数多くの感覚を駆使してバランスを保つ。
目は周囲の世界を網膜内にある桿体視細胞や錐体視細胞に当たる光を通して認識する。これは視覚的インパルスとなり、どこに物や刺激があるのか脳に伝える。
筋肉と関節が伝える信号は、歩行時の伸縮や圧力についてだ。前に傾けば、足の裏ではつま先の方の圧力が増す。体の各パーツのあらゆる動きが脳に伝えられ、今いる空間について判断される。足首からの情報なら、表面の質感を検出し、地面の揺らぎを正確に判断できるといった具合だ。
3. クシャミ
あらがうことのできないクシャミの衝動はどこから湧いてくるのだろうか? アレルギーや何らかの刺激が原因ではあるが、大抵はクシャミですっきりするまで鼻の中に何らかの刺激物があるなど気づきもしない。
クシャミが出るとき、刺激物は鼻に並ぶ気道上皮にある。血中好酸球のような炎症細胞など、マスト細胞はヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質を産生する。アレルゲン、ウィルスによる感染、煙などの物理的な物質に刺激されることでこの化学物質が放出されると、鼻の血管から体液が漏れ出し、これが神経末梢を刺激する。するとムズムズと感じ始める。
脳内では各神経末梢の刺激によって反射反応が起きている。感覚神経は首と頭の筋肉を制御する神経を発火させる。鼻から急激に空気が流入し、声帯が閉じながら胸内に圧力が蓄えられる。そして、さっと声帯が再び開くと一気に空気が吐き出され、刺激物を追い出す。これはいずれも反射反応である。
2. 震え
寒い場所に長くいればきっと体がガタガタと震え始めるだろう。この震えもまた体を守ろうとする反射反応だ。これを生み出すのは視床下部で、脳の視床のちょうど上にある。皮膚の感覚受容器が外部の冷たい気温を検知すると、神経が視床下部にこの情報を伝える。すると視床下部から筋肉に向かって素早く収縮するよう信号が発せられる。
震えは体温を上げてくれる。いかに努力をしようと反射反応であるこれを抑えることはできない。視床下部が一定以下の温度を検知すれば、震えを起こすようにできているからだ。ある程度まで温度が上がらない限り止まることはない。
1. 笑い
真面目な場面なのに笑いの衝動に襲われて苦しんだことはないだろうか? それは脳のせいだ! 1998年の論文では、このときの脳について部分的な説明がなされている。ここではてんかんの手術を受けたA・Kという少女について取り上げられている。手術の最中、医師は上前回頭のおよそ4cm2の部分を刺激するとA・Kが笑うことに気がついたという。ここは補足運動野の一部である。話によると、A・Kは笑っている理由を後から考えるのだという。これは一般の人とは逆である。何かがおかしかったから笑うというのが普通の順序だろう。
論文の著者は、笑いは脳のいくつかの領域によって生じており、それぞれの領域がこの体験に別々の要素を与えると考えている。感情的な反応、何がおかしいのか認知するプロセス、最終的な制御不能な反応。ここには笑顔を作り出す顔の筋肉の動きも含まれている。何がおかしいのか解釈した後で、刺激に対する体の反応が脳によって作り出される。それゆえにこれを抑えようと思っても堪えきるのは難しい。
0コメント