ピアノ鳴る家や西日の鬼瓦

八月の鯨のやうな精神科

拾遺放光 柿本多映句集 〈高橋睦郎 選〉

柿本多映句集・高橋睦郎編『拾遺放光』深夜叢書

ピアノ鳴る家や西日の鬼瓦  柿本多映

満水の池を覆へり春の空  同

何喰はぬ顔の出てくる氷室かな  同

陽炎を跨いで入る非常口  同

八月の鯨のやうな精神科  同


鬼瓦は鬼門を守らないのでしょうか??


https://www.thebecos.com/apps/journal/onigawaranogimon/  【家の守り神「鬼瓦」とは~歴史、種類や産地、鬼師について~】 より

鬼瓦の一大産地である愛知県の鬼瓦製造メーカーさんとお仕事をさせていただく中で、私自身全く知らなかった鬼瓦について教えいただき、とても奥が深く面白いものだと感じております。今回は、私の当初疑問に思っていた「鬼瓦」の疑問について書いていきたいと思います。

熟練の職人である「鬼師」が製作

家の守り神として玄関などのインテリアとして最適

鬼瓦は昔から家や家に住む者たちの守り神として愛されてきました。

鬼瓦が厄災を払うとされたためです。しかし鬼瓦は恐ろしい顔をしています。

そんな瓦がどうして守り神となったのでしょうか。

なぜ大切な家に鬼の顔をした瓦を置くことになったのか、種類や産地はどうなのかなど、さまざまな疑問が浮かびます。

今回は多くの謎を持つ鬼瓦の疑問について答えていきます。

鬼瓦ってそもそも何?

鬼瓦とは、日本式建築物の棟の端などに設置される板状の瓦の総称です。

厄除けであるだけではなく飾りでもあります。屋根材に雨水を防ぐ役割を持っているため実用的にも優秀です。

精巧な形は芸術作品として評価されていて、神社やお寺、一般の日本式家屋の屋根などに置かれています。

鬼の顔をしたものだけを指すのではなく、いろいろなデザインがあります。鬼瓦の起源は、ギリシャ神話で有名なメドゥーサをシリアのパルミラ遺跡にある入り口の上に設置していた文化からきています。

シリアではメドゥーサを使っていたわけですが、日本では鬼が代わりとなりました。

共通するのは恐ろしいものを置くことで、恐ろしいことから守るという考え方です。

厄除けの意味で鬼の顔をした鬼瓦が使われていましたが、隣近所をにらみつけるような姿が次第に敬遠されるようになり、縁起物である七福神や、火災を防ぐために水という文字を取り入れた鬼瓦などが使われるようになりました。

鬼瓦の歴史

日本最古の鬼瓦と言われているのは、今から約1400年前の飛鳥時代に奈良法隆寺の寺院跡『若草伽藍(がらん)』から発掘された蓮華文鬼瓦(れんげもんおにがわら)です。

蓮華文とは8枚の花弁の付いた花をかたどった紋様のことで、鬼のいない鬼瓦でした。

現在のような2本の角が付いた鬼面(きめん)の鬼瓦が登場したのは、室町時代になってからです。法隆寺の瓦大工、橘国重(たちばなくにしげ)の作品がその始まりと言われています。

その後も橘一族は何世代かに渡って近畿一円で活躍し、鬼瓦文化の土台を築きました。

そうして寺院や城郭に使われていた鬼瓦は、江戸時代後期に火災対策として瓦葺き屋根が普及したことから、やがて一般の家にも鬼瓦が普及しはじめます。

しかし眼光鋭くあたりをじっと睨みつけるような表情の鬼瓦は、庶民が暮らす住環境には似合わず不評でした。

そのため福の神や打ち出の小槌などの『願いを込めた鬼瓦』が多く使われるようになりました。

鬼瓦の作り方

鬼瓦はどのようにしてつくられるのでしょうか。大まかな製造工程を紹介します。

瓦が焼かれて縮むことを計算して図面を描き、型紙を制作したら型を取り、土台(ベース)をつくります。その際鬼師によって使われる道具はさまざまです。鬼瓦づくりは基本的に手と道具によって行われ、電動の機械類は一切使いません。

ベースとなる背中部分の瓦に、手作業で粘土を盛って顔の形をつくっていきます。その上にさらに顔のパーツ用の粘土を盛ったら、大まかな雰囲気ができあがるまで手だけを使って形成します。

次にヘラや金属を使ってこまかい部分を作り込んでいきます。ヘラなどの道具を巧みに使って行うこの作業は『磨き』と呼ばれており、この時点でかなり表面も綺麗な状態になっています。

磨きが終わったら乾燥させます。ヒビが入らないようにじっくり乾燥させることが大切です。数週間かけてしっかりと丁寧に乾燥させたら、さらに窯の余熱をつかって乾燥の仕上げをします。

そして窯積みし、約1,000℃にもなる窯で丸一日かけて『燻し(いぶし)』という焼成をします。

焼き上がってもすぐには窯出しせず、1日以上かけて冷却してやっと窯出しできます。作り手の判断で異常がなければ完成です。

魔除けとしての鬼瓦の役割

寺院や城郭、一般家屋の瓦屋根に付けられる鬼瓦には、おもに魔除けや厄除けの意味が込められています。怖い魔物扱いされてきた鬼をあえて味方に付けることで、怖いものなしの無敵状態になれると考えられたからです。

鬼瓦を瓦屋根の棟端に付けると、その建物や家をまるごと鬼が守ってくれるようになり、安心して暮らすことができると考えられています。

また棟の切り口を鬼瓦で隠すことにより、雨水の侵入を防ぐという物理的に建物を守る意味もあります。

そのうえで鬼だけがもつ強さがあれば、通常では太刀打ちできない魔物さえも圧倒することができると信じられてきました。

民家の瓦屋根に多く用いられる『鬼の顔ではない鬼瓦』は、飾り瓦とも呼ばれます。基本的には、そこに暮らす人々の家内安全や無病息災、災害回避などの願いがこめられた鬼瓦が選ばれることが多いでしょう。

火災の延焼防止を願い、鯱・菊水・波・雲などの水や雨をイメージさせるもの、縁起のよい鶴や亀、子孫繁栄をあらわす蔓草(つるくさ)や雲竜、福を招く七福神なども人気です。

また家紋の鬼瓦を使うことも多く、その家の象徴(シンボル)の役割も果たしていました。

しかし平成期以降からは、瓦葺きの家屋が大幅に減少したため、鬼瓦のついた屋根の家を見かけることも少なくなりました。

しかし、現代のライフスタイルに合わせて鬼瓦をインテリアとして家に飾っておける商品もあり、魔除けという意味でも密かに人気上昇中です。

鬼瓦の数え方は?

鬼瓦は通常一枚と数えます。

これは瓦も同じですが、形状では一山と数える場合もあります。

ちなみに瓦と関連して屋根の場合はというと、同じく一枚、または一面、一宇(いちう)と数えます。家の場合は一軒、一戸、一棟などです。

鬼瓦の種類はどのような種類があるの?

鬼瓦は屋根で使用される場所や形によって種類が分けられます。2つのタイプをご紹介します。

「足付鬼(あしつきおに)」

破風(屋根の妻側にある三角形の部分や斜めに打ち付けた板)の拝み部分に設置するタイプです。

「切据鬼(きりずえおに)」

降棟(くだりむね・屋根のもっとも高い位置にある水平な大棟から屋根の勾配にそって軒下の方へつくった棟)、隅棟(屋根の面がたがいに接した部分にできる隅に向かって傾斜した棟)などの先端に設置するタイプです。下の部分が直線になっているのが特徴です。

また、形により頭、胴、足の3つに分けることができます。

頭の形には、「波型」「将棋頭型」などがあり、「覆輪」がついたものをとくに「覆輪付(ふくりんつき)」といいます。覆輪鬼瓦は全体的に角がある形で、一般的によく使用されているため馴染み深いです。