お互ひに傘を差し出す蕈かな 五島高資
— 場所: 高原山
Facebook・清水 友邦さん投稿記事
森に降った雨は地下へと染み込んで湧き水となって出てきます。
湧き水は川となって海へと流れ、海の水が蒸発することで、雲ができます。
雲は雨となって、大地に降りそそぎます。
森林は土にしみこんだ水を吸い上げ、葉から蒸発させて大気に戻していきます。
水は循環しています。
宇宙は円環になっていて、その輪の中で生死は循環しています。
自然の中に身を置くと、人間は独立した存在ではなく自然に依存している一部にしか過ぎないと言う事がわかります。
自然の中で沈黙をすると見えないものが見え、声なき声が聞こえて来ます。
森の中にいると、人間が本来備えている力が湧いてきます。
http://www1.u-netsurf.ne.jp/~tamu/243takaharayama.htm 【高原山】
猛暑の東京を早朝に発ち、東北自動車道を走り、宇都宮から日光宇都宮道路へ左折して今市I.Cで降りる。新車のカーナビは快調で、助手席の妻の佐知子は所在なさそうにウトウトしている。間もなく鬼怒川温泉から塩原温泉を結ぶ27.5Kmの山岳道路(日塩有料道路)へ入る。通称「日塩もみじライン」と呼ばれるこの道路は両側がずっと緑深い樹林帯で、目も心も和むロケーションだ。そのほぼ中間地点で右折して、白御影石造りの大鳥居(一の鳥居)をくぐると間もなく、鶏頂山荘前のガラーンとしてただっ広い駐車場に着いた。エンジンを止めると辺りはしーんとしていて、そよ風の中にセミの声と小鳥のさえずりだけが聞こえている。ここは既に標高1295mだ。
「鶏頂山登拝口」の大きな看板の立つ鶏頂山荘は、ここ数年は休業中とのことで、建物などの施設や設備は荒れているようだった。 「お化け屋敷ね、まるで…」 などと云いながら、スキー場のゲレンデ跡の開けた草原をゆるやかに登り始めたのは午前8時10分頃。数は少ないが青紫色のウツボグサ(シソ科)や黄色のオオマツヨイグサ(月見草・アカバナ科)の花などが咲いている。ここはスキー場の林間コースのような緩斜面で、両側はカラマツの植林帯のようだった。林縁にはツルアジサイやヤマアジサイがまだ咲いている。朝露をたっぷりと含んだ草がズボンの裾を濡らすので、佐知子は先頭を歩きたがらない。ちょっとした“かけひき”が続いたが、気が付くといつも私が露払いの先頭を歩いている。
間もなく木道が出てきて、尾瀬ヶ原のミニュチアのような湿原(枯木沼)を通過する。とてもいい感じの処だが、季節のせいか咲いている花は少なくて、淡いピンクのチダケサシ(ユキノシタ科)の花のみが目立っていた。
鶏頂山荘の南側に位置するメイプルヒルスキー場からの登山道が合わさって、暫らく進むと大沼(鹿沼)への分岐があった。片道2~3分の距離なので、ちょっと寄ってみた。大沼は小さな沼で、浅くて透明な水をたたえてひっそりとしていた。その奥の樹林の頭上には鶏頂山の三角形の山頂部が雲の切れ間から見え隠れしている。
大沼を辞して本道に戻る。やがて小広く開けた弁天沼のほとりに着いた。中央には御神木と思われる大きなミズナラの木が1本あり、辺りにはいくつかの祠や石碑や鳥居や釣鐘などが所狭しと並んでいて、この山が修験道の山であることをあらためて実感する。周囲をよく見ると、何時の間にかカラマツやヒノキの人工林からミズナラ、ハウチワカエデ、ヤマハンノキ、オオカメノキなどの自然林に植生が移り変わっている。林床や登山道沿いにはずっとササ(クマイザサ?またはニッコウザサ?)が続いている。ここは釈迦ヶ岳と鶏頂山への分岐にもなっていて、初夏にはレンゲツツジの花が美しい処でもあるらしい。
弁天沼を背に右手の鳥居をくぐってまず鶏頂山を目差す。間もなく水場(霊泉御助水授所)の標柱を右手に見るが、ザックの水筒にはまだたっぷりと水が残っているのでそのまま進む。徐々に山道らしくなってきた。私達は既に“神域”を歩いている。
山頂近くになってくるとダケカンバが優勢になり、ツガや五葉のツツジ(ヤシオツツジ)も目立ってくる。急坂を登り切り、最後の鳥居をくぐると鶏頂山のこじんまりとした山頂で、猿田彦を祭神とした立派な社(鶏頂山神社)が建っていた。裏側に回ると山頂標識のある開けた小広場があって、東側の近くに釈迦ヶ岳が大きく見えている。曇っていて遠望が利かなかったのが残念だ。晴れていれば日光連山などの眺めが素晴らしいという。足元ではニガナがひっそりと黄色い花を咲かせ、目の前では“避暑”にきているアキアカネがたくさん飛んでいる。
分岐まで下って戻り、東の方向に登り返すと御岳山と呼ばれる小ピークで、さらに進んだ急登の終点が高原山の主峰、つまり一等三角点と小祠のある釈迦ヶ岳の山頂だった。休憩していた3組のハイカーたちは、偶然だったのかもしれないが何れも私達同様の中(高?)年カップルだった。 「こんにちは~」 と声を掛けたら、それぞれのカップルから 「こんにちは~」 と返事をされた。そのうちの一組からは自家栽培したという美味しい“枝豆”を分けてもらったりして、相変わらずの曇天で遠望はなかったが、ほんのりと温かくて幸せな気持ちになった。この山は何故か中年夫婦に人気があるらしい。
この釈迦ヶ岳山頂の奥には御影石造りの、等身よりひとまわりも大きい釈迦如来像が鎮座していたが、いったいどうやってこの山頂まで運んだのだろう? と佐知子と訝った。 「ヘリコプターを使ったのかしら…?」 と佐知子は云っていたが、修験道の(信仰の篤い)山へ来るといつものことだが、宗教の力の凄さに驚かされる。“宗教の力”が自然を破壊することもあるが、その多くのケースは結果的に自然を守っている。この国の良さと面白さはまさにそこいら辺のところにある、と私は思っている。
ウィークデーにもかかわらず案外とハイカーの多い山だった。何時もの通り途中で何組ものパーティーに追い抜かされて、閑散とした鶏頂山荘前の大駐車場に戻りついたのは午後4時近く。前を歩いていた中年夫婦のRV車がちょうど立ち去ってゆくところだった。そして…、今朝と同じような静けさの中に、私達の新車だけがポツンと停まっている。
* 高原山とその登山コースなどについて: 高原山(たかはらやま)は栃木県矢板市の北西にあり、大雑把に云うと、那須連山と日光連山の間に位置する小さな山塊、ということになるだろうか。高原山という単独のピークは無く、釈迦ヶ岳、鶏頂山、西平岳、御岳山、中岳、明神岳、剣ヶ峰、などの総称が高原山ということになるらしい。活火山ということだが“ランクC”ということは殆ど休火山、と考えてもいいと思う。
登山コースについては、 西側の「日塩もみじライン」からの3コース(ゴンドラリフトを利用した明神岳経由のコース・本項の鶏頂山荘からのコース・メイプルヒルスキー場からのコース)、レンゲツツジで有名な東側の八方ヶ原(大間々台)から剣ヶ峰を経由するコース、南側の東武鬼怒川線新藤原駅方面から西平岳を経由するコース、などがあるようだ。
殆どの登山コースは公共の交通の便が悪く、この山はマイカー登山が主流であると思われる。実際、時間的な制約のあった今回、私達もマイカーを使わざるを得なかった。塩原温泉など、周囲に有名な温泉が目白押しなのは、温泉好きの私達には嬉しい限りだ。
最も標高が高く“主峰”と思われるのは一等三角点のある釈迦ヶ岳1795mだが、宗教色が濃いのは鶏頂山神社のある鶏頂山1756mだ。今回の私達が選んだ鶏頂山・釈迦ヶ岳登山のコースについて、私達は古いガイドブックに従ったので鶏頂山荘(鶏頂山登拝口)を基点にしたが、同山荘が休業中ということもあり、現在では少し南のメイプルヒルスキー場(西口登山口)から登るのが正しいルートらしい。ただ、この場合は(ちょっといい感じの)枯木沼の小湿原を通らないので、それがスポイルされるのは残念だと思う。
みかえり温泉「彩花の湯」 みかえり温泉「彩花の湯」: 高原山登山の帰路、「日塩もみじライン」を北上して、8年前(2000年4月)にオープンしたという「彩花の湯」に立ち寄ってみた。塩原温泉郷にはいくつかの日帰り温泉施設があり、何れも野趣あふれる素朴な名湯だが、そのほとんどは“混浴”で、ご婦人方にはなかなか縁遠い存在だ。そこでインターネット検索などでいろいろと調べて、妻の佐知子がGoサインを出したのがこの「彩花の湯」だった。
内湯も露天も食堂もある立派な施設だが、泉質などについてちょっと気になることがある。カルシウム・ナトリウム硫酸塩泉の弱アルカリ性の泉質、らしいが、それは公式のチラシやHPには書かれていない。(無色、透明、無味、無臭だったが…。) そして私が最も気にしているのは、この温泉施設を管理しているのは“誰”なのかな、ということだ。公営なのか私営なのか、私営だとしたら法人なのか個人なのか、あるいは第3セクター的なものなのか、公式HPやチラシなどからはまったく見えてこない。このような(管理の主体をはっきりさせないような)施設のサービスには“いい加減”なものが多い、というのが私の経験論的な予感だが…。さて、私達夫婦のこの温泉施設への評価は、というと、スーパー銭湯的というかゴルフ場の風呂場的というか、従業員たちの対応やサービスを鑑みても、現時点ではまぁまぁだった、ということになる。塩原温泉郷では案外と少ない、ご婦人も安心して日帰り入浴のできるこの施設を大切にしたいと思う。入浴料の700円は、もうちょっと安くならないものかなぁ、とも思う。
塩原温泉のフアンだからこそ、今回はちょっと辛口のコメントになってしまった。それとも…、ここはあくまでも「みかえり温泉」であって、「塩原温泉」とは(良いにつけ悪いにつけ)一線を画しているのかもしれない…。
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