五月というのに朧月

https://plaza.rakuten.co.jp/yk1430/diary/201605200000/  【五月というのに朧月】 より

佐々木信綱が作詞した唱歌「夏は来ぬ」は、2007年に日本の歌百選に選出された。

文語調の「夏は来ぬ」のぬを、古文を習う前の小中学生は否定の「ぬ」と勘違いして夏が来ないと解釈する。

ウツギ(卯の花)・ホトトギス・五月雨・早乙女・タチバナ・ホタル・クイナといった初夏の風物が詠み込まれている。

「ぬ」は完了の助動詞「ぬ」の終止形で、「夏が来ぬ」は「夏が来た」という意味になる。

卯の花は初夏に白い花を咲かせる、ウツギの花の別称である。旧暦の卯月(4月)頃に咲くことから「卯の花」の名前で呼ばれるようになった。

その年に初めて聞くホトトギスの鳴き声が、「忍音」といわれる。「古今和歌集」や「枕草子」にでてくる。

江戸中期の俳人山口素堂(1642~1716)の有名な句では、青葉・初鰹と並べて不如帰を詠んでいる。

ホトトギスの声は、5月下旬ころから盛んに亜高山帯で聞くことができる。忍音はもう少し早く、晩春に聞かれることが多い。

2番の歌詞に五月雨とあるところから、夏の到来を旧暦の5月頃としていることが分かる。

3番の歌詞で、橘と蛍が出てくる。柑橘の花は5月から咲き始め、現在はほぼ咲き終わっている。

蛍が飛ぶのは関東甲信では、6月中旬からである。

「楝(おうち)」は栴檀のことで、富士川の河川敷のところどころに5月下旬の今の時期花を咲かせている。京かるたで「…双葉より芳し」と言うのは白檀を指し、楝に芳香は無い。

5番に五月闇と出てくるのは、梅雨の頃の新月の夜を歌ったものであろう。蛍の観賞には良い条件である。

草や木が新緑に覆われ爽やかな風が吹くころになると、人は初夏の季節になったと感じる。

旧暦では、4月(初夏)・5月(仲夏)・6月(晩夏)と呼んだ。

新暦では暦が約1か月ずれているので、初夏は旧暦の4月から1か月ずれて5月となる。

二十四節気では「立夏」から「芒種」までを初夏としていたことから、5月上旬から6月上旬までの期間が初夏とされ、季節の挨拶として「初夏」の言葉を用いるのはこの期間に限定されるべきとされる。

5月21日は月齢14.3で十五夜、翌22日は満月で十六夜であった。

土曜日は夜の7時に南アルプスの麓の山荘で東の空にかかる月を見たが、霞んでいて赤く見え綺麗な月ではなかった。

高野辰之が作曲したとも伝わる朧月夜では「蛙の鳴き声」「夕月」「朧月」が歌われているが、今の時期田植えが終わった田から一斉に聞こえる蛙の鳴き声と霞んだ月の取り合わせは菜の花の咲く春の季節に戻ったような夜であった。

当日のPм2.5あるいは黄砂の飛来について確認していないが、甲府盆地は早朝から霞んでいて富士山・南アルプス・八ヶ岳も山容の輪郭がぼんやりとしか見えなかった。

22日月曜の早朝3時半には雲一つなく晴れた西の空に、満月が浮かんでいた。

北海道では週末から連日の32℃を超える真夏日となったが、関東甲信では文字通りの仲夏の心地よい緑の風が吹いている。


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