「新型コロナウイルス 脅威を制する正しい知識」水谷 哲也 著 東京化学同人 社
2020年5月19日
京都大学iPS研究所の山中伸弥教授が自ら発信されている、新型コロナウイルスに関するホームページの中で紹介されていた本です。
https://www.covid19-yamanaka.com/cont2/main.html
長年、コロナウイルスの研究を続けて来られた、東京農工大学農学部付属国際家畜感染症防疫研究教育センター長の水谷哲也先生が、コロナウイルスの全景から、新型コロナウイルスについて解説された本です。
武漢市で最初の感染者が報告されたのは、2019年12月8日とのことですが、新型コロナウイルスの全ゲノム配列が決定されたのは、2020年1月7日だそうです。
その結果、この新型コロナウイルスは、ウイルス学的には、ニドウイルス目、コロナウイルス科、コロナウイルス亜科、ベータコロナウイルス属に分類されるとのこと。
SARSウイルスやMERSウイルスと同じベータコロナウイルス属に属するそうです。
コロナウイルスは、ヒト以外にもさまざまな動物に感染症を起こすことの紹介から、コロナウイルスの複製の仕組みについても詳しく紹介されています。
コロナウイルスはゲノムは30KBほどもあり、RNAウイルスの中では群を抜いて大きく、その分変異も起こしやすいのだそうです。こんなことまでわかっているのかとちょっとびっくりしました。
そして、この新型コロナウイルスの誕生については、武漢市に生息するコウモリの中でコロナウイルスが変異や組み替えを起こし、その中で野生動物に感染したコロナウイルスからヒトに感染が及んだとするシナリオを考えておられ、このような新興ウイルス感染症を制するポイントは、感染源となる動物(ネズミやコウモリはそのリスクが高いとのこと)との距離を置くことが必要と述べておられます。
ついでワクチンのこと、治療薬のことについても、触れておられます。
そのなかでは、クロロキンが新型コロナウイルスのレセプターになるACE-2に対して糖鎖の付加を阻害することによりウイルスが結合できなくする、またウイルスが細胞内に取り込まれたエンドソームのpHを下げないようにすることでウイルスの細胞内放出を阻害することで、感染を抑えるのだそうで、なんでマラリヤの薬のクロロキンが新型コロナウイルスの治療に使われるのか、やっと理由が分かりました。
早く新型コロナウイルスのワクチンはじめ治療法が出来るのを祈るとともに、コロナウイルスの特性から早晩あらたなコロナウイルス感染症が勃発することも充分予想されます。
水谷先生が指摘されるように、これで終わりではなく、新たな感染症に対する備えが必要だと思いました。
コロナウイルスを専門とされるウイルス学者による、新型コロナウイルスの解説です。
コロナウイルスに関するさまざまな報道に疲れた頭にも、大変興味深く読ませて頂きました。
「長寿時代の医療・ケア ~エンドオブライフの論理と倫理~」会田 薫子 著ちくま新書
2020年の正月に読んだ本で、印象に残る本でした。
会田 薫子さんは、いうまでもなく東京大学の臨牀倫理の先生で、前任の清水哲郎先生とながくこの分野で研究を続けておられます。
この本の書き出しは、ある高齢の慢性の呼吸器疾患を持った患者さんの描写から始まります。
不治の慢性肺疾患にて衰弱が進行し自力で食事摂取ができなくなったがために、経鼻経管栄養をされていましたが、本人はその経鼻チューブをいやがり自己抜去をしてしまいます。
病院では経鼻栄養を続けるために自己抜去を防ぐためにミトンを着けて抑制します。その父親の姿に疑問をもった息子さんの葛藤を描くことから、この本の記述は始まります。
高齢社会が進行し、上述のように、衰弱のために自力で経口摂取が出来なくなる高齢者は今後も益々増加することでしょう。
「自分で食べれなくなったとき、どうするか」という問題は日々の臨牀の現場で繰り返される難問です。
私の印象に残った言葉として、清水哲郎先生が言われる。
「生命の二重の見方」という考え方、すなわち私たちの生命は、「生物学的生命」と「物語られるいのち」が重なりながら形成される。という指摘にはなるほどと納得できます。
ですから自分の意思の表現が困難な人であっても、たとえば家族のようにその人のものがたりを共有するような関係性の濃い人との会話を通じて、その人の意思を理解できると述べておられます。
また、患者の意思決定支援の関りとして、パターナリズムから事前指示(アドバンスデイレクテイブ)への変化。そしてアドバンスデイレクテイブの不備からACP(アドバンスケアプランニング)への進化など、患者の意思決定支援のあり方が変わってきた経緯などを、多くのガイドラインや研究成果を交えて記述されています。
この本を読んで、私は、アドバンスデイレクテイブとアドバンスケアプランニングの違いが少し分かったような気がしました。
終末期を迎えた高齢者への医療とケアを考えるにあたり、医学的に適切な判断を基礎として、そのうえで臨牀倫理的に論理的かつ倫理的に適切な対応の在り方として、「本人にとっての最善」を考えることを中心に置くことが大切であると述べておられます。そして本人にとって最善とは医学的には決められるものではないと述べておられます。
臨牀倫理という哲学の先生であり、実際の臨牀の現場とは少し距離があるのかもしれませんが、臨牀倫理の立場から分かりやすく丁寧に解説されていました。
新書というかたちではありますが、豊富な文献も引用されており、充実した一冊と思います。高齢者の医療とケアに関わるすべての人に読んで頂きたい良書だと思いました。
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