https://www.ic.nanzan-u.ac.jp/NINKAN/gp2005/program/laboratory.html より
●「ラボラトリー方式の体験学習」とは何ですか?
1947年にグループダイナミックス研究の創始者でもあるK.レヴィンと仲間の研究者が開発したトレーニングです。彼らは、一人ひとりの存在を大切にし、学びあう関係づくりと態度形成に取り組むことによって、いかに民主的で信頼し合える風土を創り出すことができるか、という目標を達成しようとしました。現在、自己理解や他者理解のために、また、社会的感受性とコミュニケーション能力の開発やリーダーシップのトレーニング、組織開発など様々な領域で応用されています。
●どんな「体験学習」をするのですか?
野外活動やフィールドワークなども体験学習と呼ばれますが、ラボラトリー方式による体験学習は、小グループの中で、その時、その場にいる人々とのコミュニケーションやグループワークなど、そこに生じた人間関係の体験を素材とし「今・ここ」で起こっていることに焦点をあてる学習です。
自分自身を深く見つめ直す、他者との関係や自分の傾向に気づく、リーダーシップや聴く態度などの新しい行動様式をグループの中で試す、グループや組織の人間関係を変えるためのさまざまな試みをする、といったように他者との関係の中での主体的・体験的な学習を行う場です。
その学びの過程として、「体験」(やってみる)→「指摘」(気づく)→「分析」(考える)→「仮説化」(成長の課題を見つける)→「新しい体験」(試み&成長)と続く、学びのステップを考えています。
●「ラボラトリー」ってどういう意味ですか?
ラボラトリーとは、直訳すると「実験室」という意味になりますが、第三者が、誰かを実験するという意味ではありません。ここでいうラボラトリーとは、「自分、他者、グループの成長のために自らが目的をもって行動を試みる場」という意味であり、実験する(試みる)主体は自分であるということなのです。
●どんな効果が得られますか?
児童・生徒にとっては
自ら問題を発見し、それに取り組み解決していくといった自立的・能動的な学びの態度や問題解決能力を形成するとともに、自分をふりかえる力、人間関係を豊かにする力を身につけること、まさに、生きる力を育てることを可能にします。
教員にとっては
日々の教育活動における体験を内省し、自分の教育的関わりをチェックし課題を考え改善していくことができる、内省的実践家になることをめざしています。また、学級や組織の一人ひとりを生かし、持てる力を発揮させるリーダーシップの在り方についても考え、ファシリテーターとしての資質を身につけることを可能にします。
問題解決のステップ 学び方を学ぶ 生きる力を育てる 内省的実践家
ファシリテーター 学習者の可能性を共に探り、生徒一人ひとりの自己実現を促す教育者
「体験から学ぶために」
(1) どのように学ぶのか
・体験学習を分解してみると
「体験」(グループ活動)→「学習」(体験活動から主として人間関係に関して学ぶ)
・どうやって学ぶか
ふりかえり
(個人で)体験におけるデータ(起こっていること)を拾い上げる、丁寧に扱ってみる。
気づきを忘れずに定着させていく。
(グループでの分かち合い)データを共有化し、気づき、考察を広げ、深める。
新たな気づきを生む。
いろんな見方をあわせていくことで真実に近づく。多面鏡(いろんな視点・角度)で見る。
・学びを次の体験につなげる
「体験」→「学習」 「次の体験」→「学習」 「さらに次の体験」→「学習」
話し方の特徴、コミュニケーションのあり方など、学んだことを日常に生かしていく。
(2)何を学ぶのか
「ラボラトリー方式による体験学習では、主に、プロセスに関して学ぶ」
・「コンテント」・・・グループ活動の課題や作業という内容的側面
・「プロセス」・・・グループ活動で起こっている人間関係的側面
・自分たちのグループにおける「今・ここ」のプロセス
・グループプロセス・・・リーダーシップ、雰囲気、意志決定、ルール(ノーム)など
・コミュニケーションプロセス・・・話す、聴く、観る
・個人のプロセス・・・個人の気持ちや思い、言動(グループにどう影響を与えているか)
・コンテントとプロセスの統合的(総合的)な学習を目指して
学校教育では、教科の学習にどのように取り入れていくか。
(3)どのような成果が期待できるのか
・個人の成長・・・自己理解、対人関係能力の向上、スキルアップ
・関係やグループ(班・クラス・学校)の成長・・・相互啓発的なラーニンググループ
(お互いがお互いの学習のサポーター、相手の学びに役に立つ存在に)
・学び方を学ぶ・・・自主的・想像的に学ぶ力の向上、学び取る力
(4) 実習「なぞのマラソンランナー」
実習の意味、実習実施、ふりかえり(個人で、グループでの分かち合い)
(5) 研究協力校10校選考プロジェクトの説明と質疑応答
協力校希望の申請は、2月10日締め切りです。
今回のワークショップの目的は、ラボラトリー方式の体験学習を、小講義と実習を通して紹介し、この学習方法を知っていただくことにありました。実習は、7人グループになり、「なぞのマラソンランナー」という絵で描かれた情報を伝えあって課題を解くというエクササイズでした。絵を言葉にすることやグループとして非一つの課題に取り組むことの難しさや楽しさを実際に体験することにより、初めて出会った人同士が協力し合うことや一人ひとりの働きの大切さを味わいながら、お互いにうち解け合い親密感を多くの方々が実感されたようです。
ふりかえりでは、実習の中で「どれくらい自分の意見や考えを述べることができたか」「どのくらい他のメンバーの意見や考えを聞くことができたか」、そして「メンバーの発言や動きについて」をまず自分でふりかえり、その後、グループで分かち合いました。特にメンバーが、互いの印象や言動を通じて感じたことなどを互いに伝え合うことにより、自分の特徴や傾向が明確になったり、新たな自分を発見したりする機会となったのではないでしょうか。
アンケートには、「小講義だけでは、よくわからなかったことも実習を通してわかった」「教員自らが体験することが重要」「他校や他校種の人と語り合える機会となった」更には、「学校現場に取り入れたい」「体験学習によって生徒の人間関係が豊かになる」との思いを強くされたご意見が多くありました。
この教員養成GPの取り組みが、研究協力校としての申請にとどまらず、大学と学校との連携による教師の教育力の向上や学校改善の契機になったり、現場の先生方が日常抱えている種々の問題を語り合い共感し合える場(オアシス)になったりする有意義な取り組みであるとの確信をもつことができました。
参加校には、おみやげとして「人間関係トレーニング」「ファシリテータートレーニング」「クリエイティブスクール」「協同学習アイデアブック」「体験学習実践研究誌(第1巻~第5巻)」を持ち帰っていただきました。ラボラトリー方式による体験学習の理解と学校現場での実践に役立てていただけることを期待しています。
後になりましたが、快く後援をいただいた教育委員会並びに教育長の皆様、そして、現職の先生方の参加にご配慮いただいた各学校の校長先生、関係者の皆様に感謝申し上げます。今後の一層のご理解ご支援をよろしくお願い申し上げます。
(教員養成GP推進本部 水嶋純作)
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