http://niwazekisho.blog.fc2.com/category3-1.html より
桃やもう少し先に咲くツツジに、よく「しぼり」という花色が見られます。
例えば白の花に、ピンクの筋が入っているみたいなもの。これを「白地にピンクのしぼりが入った花」などと呼んだりします。
今回はこの「しぼり」を遺伝子で解説します。
まず、遺伝子とは
DNAと遺伝子って違うの?(*・ω・)と聞かれることがよくあります。
私も高校の頃はよくわかっていませんでした(えらくない
結論から言うと、違います。
生き物の体を料理のフルコースだと思ってください。
だいぶ無理がありますね。
でもこの例えが好きなんです、おいしそうで楽しいじゃないですか…!
皆さんのたくましい想像力を信じて先に進めると、フルコースというからにはたくさんの料理から成っています。
この料理の一つ一つがタンパク質。
そしてその料理を作るためのレシピが遺伝子です。
そしてDNAとは、このレシピを記述している文字のひとつひとつのことを指します。
実際には、そのレシピはA・T・G・Cの4つの文字だけから書かれています。
「動く遺伝子」トランスポゾン
さて生物のゲノム(ある生物の持つDNAの一揃い、レシピで例えるとレシピ本)の中には、トランスポゾンというものがあります。
これはいくつかの遺伝子がセットになって、ゲノムの中を勝手に飛び回っているという代物。
レシピで例えると、本の中で、あるレシピが無くなってると思ったら、気がつくと別のページに挟まってるというイメージです。しかも、時には別のレシピの中に。
①野菜と肉を切る。
②肉を炒める。
③野菜を加える。
…
と続き、カレーが完成するはずだったレシピの中に、ある日突然
①野菜と肉を切る。
②肉を炒める。
③チョコレートは湯せんで溶かしておく。
…
といった具合に別のレシピが入ってきて、わけのわからない料理が完成する何かになってしまいます。
細胞の中でレシピから料理を作っているコックはいつもレシピに忠実なので、こうなると「そうか!チョコレートを湯せんで溶かすのか!」と鼻息荒くカレーとチョコレートケーキが混ざった得体の知れない何かを錬成するか、途中でわけがわからなくなって投げ出すかします。とにかくカレーが完成しなくなってしまうのです。
花のしぼりの話に戻る
花の話に戻ります。
桃を例にすると、ピンクの花にはピンク色の色素があります。一方白い花には色素がありません。
花ができる過程では、まず花のもとになる細胞が一つできて、それがどんどん分裂して花の形になっていきます。
最初の細胞がピンクの色素の遺伝子を持っていると、その細胞が分裂して形成された花びらはピンクの色素を作ることができ、ピンク色になります。
一方最初の細胞でピンクの色素の遺伝子が壊れている(レシピがちゃんと書けていなくて、どこかがおかしい)と、その後できる花びらはピンクの色素を作ることができずに、白くなります。
※実際には最初の方の細胞には色はついてません。ピンクの色素の遺伝子を持っている細胞でも、それが花びらになるまではピンクの色素を作らないのです。イメージしてもらいやすくするため、もっと初期の細胞にも色をつけました。
何事も起こらずにこれだけの話になると、できる花はピンクか白のどちらかです。
しかし花ができるまでの細胞分裂のどこかでトランスポゾンがたまたま色素遺伝子の中に入り、ピンクの色素の遺伝子を破壊してしまうと(さっきの例えのカレーのレシピの状態)、同じ花の中で、
その細胞と、それが分裂してできる細胞では、ピンクの色素が作れず色が白くなります。
イラストでは分裂のごく早い段階でトランスポゾンが入っているため花の半分が白くなっていますが、もっと遅く、細胞がもっと分裂してから入ると、白くなる部分はもっと狭くなります。
これが「ピンクの中に白いしぼりが入った花」のできる仕組みです。
一方「白の中にピンクのしぼりが入った花」はこれとは逆に、そもそも最初の細胞で、ピンクの色素の遺伝子の途中にトランスポゾンが入っています。そして花を作る細胞分裂の途中でそのトランスポゾンがどこかへ出て行ったため、その細胞とその分裂でできる細胞で逆にピンクの色素を再び作れるようになったものです。
以下蛇足:
実は私たちヒトにもトランスポゾンはいて、その割合はゲノムの40%以上とも言われています。
そんなにあったら遺伝子という遺伝子はひとたまりもなく破壊されてしまいそうですが、トランスポゾンとしてカウントされている大半は飛び回る能力を失って現役を引退したトランスポゾンの名残です。
しかし時には残ったわずかな現役トランスポゾンが飛び回り、大切な遺伝子を破壊して病気を引き起こすことがあります。
http://www.opack.jp/fair/a/a_6.html より
ナショナルバイオリソースプロジェクト
はじめに
植物の形づくりの機構は特にシロイヌナズナやイネの突然変異体を手がかりとして明らかになってきましたが、これらの比較的単純な体制とゲノムを持つモデル植物を用いた研究だけでは全てを理解することができません。そのため、世界各地で、様々なモデル植物をもちいた研究が進展しています。
アサガオは花の色や模様だけでなく、形に関する変異体も豊富で、活性の高いトランスポゾン(動く遺伝子)があるというのも特徴の一つです。日本で大正~昭和初期にかけて行われた、たくさんの古典遺伝学的研究の成果も利用できます。
ここに展示している植物は、どれも、れっきとしたアサガオです。形はアサガオとは似ても似つかなくても、遺伝子から見るとほんの数個の遺伝子が違っているだけで、普通のアサガオとほとんど差がありません。つまり、形のおかしくなったアサガオと正常なアサガオの遺伝子を比べて、違っている部分を調べる(クローニング)ことで植物の形づくりの仕組みを理解するために研究を行っています。また、これまで取られたアサガオの変異遺伝子のほとんどにトランスポゾンが挿入してたので、そのトランスポゾンの構造や転移機構の研究も行っています。
当研究室はこのアサガオの突然変異系統を1000系統以上保存している世界で唯一の機関で、文部科学省の主要な生物遺伝資源の整備事業、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」の中核機関にも指定されています。そのため、モデル植物としての質を高めるための突然変異系統の収集・保存・解析、連鎖地図の作成等も行っています。
アサガオの歴史
今から1200年ほど前の奈良時代に薬草として日本に渡来したアサガオは江戸時代までは、原種の青花と、色変わりの白花のしかなかったのようです。江戸時代後期(文化文政期;1804~)に、たくさんの変わりもの(突然変異体)があらわれました。
メンデルの法則が再発見された後、主に日本においてアサガオが遺伝学研究の材料としてもちいられました。戦前まで219の遺伝子(対立遺伝子も含む)について調べられ、15群からなる連鎖群のうち、10群についての遺伝子の地図(連鎖地図)も作られました。これは当時ではトウモロコシに次いで詳しく調べられた植物だったのです。その後、花の開花の仕組みなどの生理学的研究以外は研究されていませんでしたが、近年、我々の九州大学と基礎生物学研究所(岡崎)のグループによって分子生物学的な研究が行われています。
これまで用いられていたアサガオの連鎖地図は突然変異体の表現型の組換え価に基づいたもので、精度の非常に低いものでした。
そのため、アサガオとアメリカアサガオのF2集団をもちいて、各種分子マーカー(AFLP, CAPS, SSLP, SSCPマーカー)を使って連鎖地図を作成しました。。古典地図と比較すると、例えば第3染色体後半(South)は実は別の染色体である等さまざまな興味深いことが明らかになりました。また、他の植物遺伝子と相同性のある遺伝子マーカーと表現型マーカーの位置が一致した場合、そのまま遺伝子クローニングにつながることになります。
トランスポゾン(動く遺伝子)の研究(1):Tpn1ファミリー
展示しているアサガオと思えないような突然変異はなぜ起こったのでしょうか? 生物の形や色などは全て遺伝子(DNA)の塩基配列によって決まっています。私たちは、アサガオの色や形を決めている遺伝子を探し出し、その遺伝子がどう変わっているかを調べてみました。その結果、調べたほとんどの遺伝子にトランスポゾン(動く遺伝子)が飛び込んで、正常な遺伝子の働きを壊していることがわかりました。
トランスポゾンとは、それ自身で動くことのできるDNAの断片で、両側に同じ反復した配列を持つなどの構造上の特徴があります。また、アサガオだけでなくほとんどの生物のゲノム中にトランスポゾンは存在していますが、ふだんは全く動いていないか、動いても見えないことが多いのです。
この写真のようにアサガオの突然変異体は不安定な形質を示すものがあり、トランスポゾンの挿入によって誘発されている証拠です。このトランスポゾンは遺伝子をクローニングするときのタグ(指標)にも使えます。
アサガオで盛んに動いて突然変異を起こしているトランスポゾンは両端の塩基配列が同じであるため、これらはTpn1ファミリーと名付けられています。また、内部の配列はトランスポゾンごとに違っており、それらは、アサガオの遺伝子をコピーしたものでした。この意味はまだよくわかっていませんが、他の生物のトランスポゾンには、ほとんど見られないおもしろい特徴です。最近これらを動かしている自律型因子の単離にも成功しました。
以上のことから、江戸時代の後期にアサガオのTpn1ファミリーというトランスポゾンが突然動き出し、色々な遺伝子を壊し突然変異が起こったことと、アサガオの自家受粉する性質や当時の人々の優れた観察眼などの条件が重なって、たくさんの突然変異が見つかったのでしょう。
トランスポゾン(動く遺伝子)の研究(2):ヘリトロ
ノースカロライナの野生集団から見つかったマルバアサガオの八重咲変異体(fp)の原因遺伝子には新規のトランスポゾン、ヘリトロン(Helip1)が挿入していました。このトランスポゾンは最近のゲノムプロジェクトで様々な生物に存在することが分かってきましたが、これまで動くものは知られていません。しかしこのHelip1は動くのです!
形態形成突然変異の研究(1):獅子(fe)遺伝子
江戸時代の文化文政期には既に記録されており、現在まで保存されている代表的な突然変異体に、獅子(feathered;fe)があります。強い、獅子系統を観察した結果、突然変異体では背軸(裏)側を作ることができないため、葉っぱの両側が表になっていることがわかりました。
トランスポゾンの挿入を指標にして、獅子遺伝子のクローニングに成功しました。
原因遺伝子はやはり背軸(裏)側の器官形成に関わるシロイヌナズナのKAN1と最も相同性の高い遺伝子でした。
またC端側に挿入しているトランスポゾンと融合した獅子変異体の遺伝子産物が野生型と競合して、獅子変異が優性になっているようです。
でも表現型のかなり異なる系統でも獅子遺伝子の構造は全く同じでした。なぜでしょう。
現在の獅子変異を持つ系統は、単一起源(構造)の獅子突然変異に加えて、表現型を強める修飾変異を複数持っていることがわかりました。つまり、観賞価値の高い獅子系統が選ばれてくる過程で修飾変異がたまってきたようです。
形態形成突然変異の研究(2):牡丹(dp)遺伝子
八重咲(pt)と牡丹(dp)変異は、花弁を増やし、花を豪華にするため、多くのアサガオ系統が持っている花のホメオティック変異です。種子の出来ない牡丹変異を最初に保存することがどうして可能だったのか、今までは謎に包まれていました。遺伝子解析によって、実は八重咲と牡丹変異は同じ遺伝子の突然変異で、まず種子のできる八重咲変異が起こって、それからトランスポゾンの転移によって、DP遺伝子のエクソンを欠失した、より表現型の強い牡丹変異が出てきたことがわかりました。
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