改訂版 「神の図形」

プロローグ 「神の図形」に秘められた二つの比率とは?

■ダイヤモンドの美しさの秘密

「宝石の王様」といえば、言わずと知れたダイヤモンドであろう。

 人間がダイヤモンドに魅了されるのは、何よりもその光り輝く美しさに心惹かれるからに違いない。しかし、輝きの美しさということなら真珠もルビーも、サファイヤだって決して負けてはいないはずだ。なのに、なぜダイヤモンドだけが、これほどまでに人間の心を虜にしてしまうのか。古来よりダイヤモンドが宝石の王として君臨し続けてきた理由は、一体どこにあるのだろうか。

 もちろん輝きの美しさが群を抜いている点が、一番の理由であることは疑いようがない。

 美しい角度でさまざまな色を綾なす石、それが宝石というものの実体だが、ダイヤモンドの場合、何よりもその結晶構造が群を抜いて美しいのが、特色である。

 結晶構造が美しいからこそ、その輝きも美しい。また、光り輝く美貌は全世界の女性の常なる願望でもあり、ダイヤモンドはその永遠の美を象徴する精神的アイテムとしての一面も大きいに違いない。

 しかし、多くの人が気づいているかどうかわからないが、結晶構造が美しいゆえにダイヤモンドはある種の神秘パワー、すなわち波動エネルギーを放射しているという事実を皆さんはご存知だろうか。

 このダイヤモンドが放射する神秘パワー、波動エネルギーに知らずしらず人間は魂を吸い寄せられればこそ、それは宝石の王として君臨してきたのではないか。そう私は推察するのである。

■ダイヤモンドのエネルギー源は正多面体パワー

 ダイヤモンドが神秘パワー、波動エネルギーを発しているという説には、もちろん根拠がないわけではない。

 実は私は長年、水晶を中心とした超自然的なパワーの研究を続け、水晶の立体的な構造の中に、ある種の神秘パワー、波動エネルギーを発生させるメカニズムがあることを実証的に解き明かしてきた。

 古来より人類が、水晶のエネルギーを生活の重要なアイテムとして活用してきたのは、周知の通りで、古くは医療や占術の小道具として利用し、近代に入ると水晶発振子として無線通信機器、有線通信機、放送装置、計測器、マイコン、ファクシミリ、コンピューター部品、時計など、精密機械にはなくてはならないものとして利用されてきた。

 こうしたすさまじい水晶のエネルギー効果は、一体どこから来るのか。

 それが私のおもな研究課題であったが、研究の末、水晶を構成する「酸素」と「珪素」の化合物(二酸化けい素)は、正四面体上にらせん構造になって配置されていることがわかった。

 そして、この多面体構造こそが、水晶の美しさと神秘パワーの源であることを突き止めたのである。

 そこでダイヤモンドの話に戻るが、ダイヤモンドの結晶構造は図2のように、一つひとつの炭素原子の結合角は109度28分を保ちながら整然とつながっている。

 この角度109度28分は、どんな意味を持つのか。これは1:√2という特別な比率を持つ正六面体や正八面体などをかたち作る幾何学構造を有しているということなのである。結論を述べれば、ダイヤモンドもまた、正多面体の要素を内包した宝石だったのだ。

 ならば水晶の正四面体パワーと同じく、正多面体を内包するダイヤモンドも当然、何らかのパワーや波動エネルギーを放射していると考えるのが自然で、この構造的なメカニズムによって人は知らずしらずのうちに影響を浴び、結果的にダイヤモンドが人を虜にする所以になっているのである。

 水晶にせよダイヤモンドにせよ、美しさとパワーの本質は見えない構造的な部分に隠されている。特にダイヤモンドが正六面体や正八面体をかたち作る構造的なメカニズムを持っているという事実はあまり知られていない。

 と言うより、『図形という形がエネルギーを発生させる』というメカニズムは、意外にも現代科学でさえ長らく見落としてきた側面でもあるのだ。

 これまでの科学は物質や現象ばかり見て、物質の構成要素のみに関心を寄せ、基本的な構造、形に対してあまりにも無関心だった。

 ことに神秘パワー、波動エネルギーといった分野に関しては、証明不可能であるがゆえに余計になおざりにされてきた傾向が否めない。

しかし、もともと科学が発達する以前、古代人はシンプルに物の形や構造に着目していたことは、歴史が証明しているところである。

 詳細は本文にゆだねるが、もともと古代エジプト人やギリシャ人たちは、この世の真理をすべて喝破していた。プラトンしかり、アルキメデス、ケプラーしかり……。

 偉人、賢人と呼ばれた人間たちは、大いなる創造力と知恵を駆使してこの世の真理を説き、数学、哲学、天文学、医学などを飛躍的に発展させていった。

 それができた理由は、彼らは物事や現象を決して平面構造でとらえず、目で見えぬ部分は想像力で補い、物事や現象を立体構造でとらえていたからに違いない。

 そういうイメージ力、観察力が及ばなければ、決して古代に天文学など発達しなかっただろうし、またあれほどまでに見事な過去の建造物も生まれることは、なかったはずだ。

 たとえば、古代の建造物の代表的なものと言えば、ピラミッドがすぐに思い浮かぶが、『図形そのものがエネルギーを発生させる』という点では、まさにピラミッドはその典型的建造物だと言ってもいいだろう。

 ピラミッドパワーの秘密は、いまだ現代科学では解き明かされるに至っていないが、その幾何学構造を詳細に観察すれば、私たちは驚くべき叡智に出合うのである。

■ピラミッドパワーの正体は「多面体」にあった

 古代エジプトの王家の墓として建てられたピラミッドから、自然現象をはるかに超えた強力なパワーが発せられていることは、すでに読者の方々もご存知のところだろう。

 安置された古代エジプト王の遺体を永久保存してしまうほどのエネルギーは、一体ピラミッドのどこに隠されているのか。

 多くの研究者が科学的フィルターを駆使して挑んではみるものの、いつも最後に到達する結論は、ピラミッドの形そのものがパワーを発している。すなわち形状こそが、エネルギーの発生源であるという、現代科学では証明できないようなものであった。

 そういう結論に至らざるを得ないという事実が、なおさらピラミッドの神秘性を高めることになるわけだが、このピラミッドパワーは、科学で証明できないことを大きな理由に、いまだ一つの神秘的なムーブメントという位置づけに甘んじているのが、現状である。

 しかし、ピラミッドパワーに関しては、水晶を中心とした超自然的なパワーの研究を続けてきた私は、すでに一つの確信に満ちた結論を出している。

 それは次のようなものである。

 ピラミッドについては過去に早稲田大学古代エジプト調査隊が、ギゼーのピラミッドを測定したことがあった。その報告によれば、図3の∠ABCは51度52分であった。

 これをもとにして、ピラミッドの側面角∠ADBを求めると、58度17分になる。

 この58度17分という角度は普通の人にはピンとこないかもしれない。しかし、正多面体パワーを研究する者にとって、言い換えるなら、物事や現象を立体構造で見ようとする者にとって、これはある種の特別な角度なのである。

 なぜなら図4をご覧になればおわかりのように、これは正十二面体、および正二十面体に共通する傾斜角(=58度17分)に等しい角度だからである。

 つまり、ピラミッドもまた正多面体の要素を内包した古代建築物であったことが、明らかになるのである。

 さらにもう一つ、ピラミッドが正方形の底面を持った正四角錐である点に注目するなら、辺DE:対角線DFの比率はまぎれもなく1:√2の比率になる。この1:√2という比率は、先ほどのダイヤモンドが内在させていた比率に共通するものである。

 つまりピラミッドは、一見何の結びつきもないようなダイヤモンドや水晶と共通した多面体構造を持っていたということなのだ。

 この符合を前にして私は、ピラミッドもダイヤモンドも水晶も、その姿かたちの美しさ、そして神秘的パワーの秘密は、『多面体』という構造的メカニズムに隠されていたと強く確信できたのである。

 もちろんこれらは、科学的に証明されたものではないが、しかし、もとよりそれらが強大な神秘パワーを発しているという前提事実こそが、何よりも多面体パワーの存在を有言に語っているのではないだろうか。

 ここまでの話でおよそおわかりいただけたと思うが、本書は『図形がエネルギーを発生させる』という重要な命題を皆さんにお届けするものである。

 これより読者の方々にさまざまな古代人の知恵と、形を科学すれば、さまざまな謎が解けてくるという実例をお届けしていくが、すべての話に通じるキーワードは、次の三つであることをまず頭に入れておいていただきたい。

*形がエネルギーを発生させる。

*パワーの源は正多面体構造と準正多面体構造にある。

*正多面体には二つの究極の比率が存在する。

 本書は、このうち3番目の『正多面体には二つの究極の比率が存在する』というキーワードに特にスポットを当てようというものである。

 本書を読み進めれば、この二つの比率が、実は万物を創造する根源的な比率であることがわかっていただけるだろう。


この根源的な二つの比率とは、本書で明らかにする「大和比」と「黄金比」であるが、この究極の比率を内包している正多面体を、私は「神の図形」と命名したい。

 ちなみに万物は、すべて五つの正多面体を基本に構成されている。私は、この五つの正多面体の基本比率が「大和比」と「黄金比」であることを発見した。黄金比はすでになじみのある言葉であるが、この比率を内包した図形を「黄金図形」と呼びたい。一方、大和比は、本書で詳しく述べるが、法隆寺などの建築にも使われている日本古来のもので、私が命名したもの。この比率を内包した建築物は、「黄金図形」と対比させれば、「大和図形」と呼ぶことができるのだ。

 つまり、小は原子の世界から大は宇宙に至るまで、正多面体を基本構造にして作られているこの世界は、根源的な部分が、すべてこの二つの比率になっているといっても過言ではないのである。

 宇宙の根源的な二つの比率を持つ図形を、私が「神の図形」と呼んだのは、こういう意味からである。逆にいえば、この五つの多面体を追求していくと、宇宙の基本的な謎も解けるのである。

 それでは、いよいよ「神秘の古代図形」「大和図形」と「黄金図形」について、詳細に紹介していく。

 今回、改訂版を著すにおいて、私は正多面体とともに永年の研究テーマであった「アルキメデスの立体」と呼ばれている13個の準正多面体について“初公開”した(5章参照)。

 ぜひ、本書を通して神秘図形のすごいパワーを感じていただければ、幸いである。

 ちなみに、固体には、結晶のあるものと、ないもの(非晶質)が知られていて、それ以外のものは存在しないと思われてきた。

 しかし、2011年そのいずれかにも属さない固体が発見された。

 私は小学校の頃より固形に非常に興味があったので、昭和61年頃より多くの多面体を研究してきた。その中で、5回対称軸の結晶として、準結晶を2004年『神の図形』(コスモトゥーワン刊)として発表した。

 その7年後の2011年、ノーベル化学賞は、イスラエル工科大学教授のダニエル・シェヒトマン(70)博士であった。

 授賞理由は「準結晶の発見」であった。