◆権威的誘導法
image1光るオブジェクトに一点集中させてトランス誘導しているジェームズ・ブレイド(James Braid)
権威的な催眠誘導法は古典催眠といわれている中世の催眠たちが使用したテクニックから引き継がれています。もちろん、ジェームス・ブレイドが「催眠」と名付ける前の時代から、人の潜在意識にアクセスして変化を起こす手法はずっと行われてきましたが、ほとんどの場合、権威的に行われてきました。
つまり催眠をかける方は権威がある存在であり(医者など)受ける方は立場的には弱い立場に置かれます。このことが受ける側の被暗示性を高めます。まるで医師と患者、という関係です。特に中世の催眠家たちにはお医者さまが多かったので、ほとんどの催眠誘導は権威的に行われていました。先ほど紹介したドクターフラワーズ法は、権威的催眠誘導法に分類されます。
もっとも古典的はやり方は、ジェームス・ブレイドがよく使っていた方法で、何らかのオブジェクト(例えばろうそくの火など)をじっと凝視させるやりかたです。特にブレイドは、一点集中こそが被暗示性を高める重要な要素だと考えました。確かに、人は何か一点に集中することで、トランス状態に入っていきます。近代の催眠家で権威的催眠を使用していた代表的な催眠家は、カナダのコルゲート大学で教鞭をとっていて、また、アメリカの軍事心理学分野を担当していた、ジョージ・エスタブルックスGeorge Estabrooks)が有名です。
◆許容的誘導法
ミルトン・エリクソン氏
「そこの扉を閉めてください。」これが権威的な指示であれば、「もしよければ、そこの扉を閉めていただけますか?」という指示は、許容的な指示、ということになります。
権威的な催眠誘導はどちらかというと、権威者から一方的に行われる命令という要素が強いのですが、許容的な誘導法とは、クライアントに選択肢を与えながら、お互いが協力しあって催眠に誘導するようなイメージです。
なので、「段階的リラクゼーション誘導法」は典型的な、許容的な誘導法に分類できるのですが、許容的誘導法の代表は、なんといっても、「ミスター許容的」と呼ばれている、ミルトン・エリクソンでしょう。
彼の誘導法は、古典催眠から続く形式的なやり方とはかなり違った、独自性の強いものでした。その手法は、「利用的アプローチ」と呼ばれていて、とても自由度の高いものになっています。
目の開閉を利用した、エリクソン催眠誘導例
楽に見つめていたくなる一点を、見つけることはできますか?
いいですよ。
楽に、しばらく、その一点を見つづけていると、まばたきをしたくなりませんか
?いいですよ。
まばたきは 一度だけおこなうのですか・・・・あるいは、まぶたがいっせいに閉じられる前に、二度、あるいは三度、くりかえすのですか?
いいですよ。
それは、すばやく行われるのですか、あるいは、もっと、ゆっくりですか?
いいですよ。
まぶたは、今、閉じられるのでしょうか? あるいは、もう少し、パタパタさせてからになるのでしょうか?
もっと、もっと、リラックスするにつれて?もっと、もっと、まぶたは閉じてきませんか?そうです。まぶたを、ただ、閉じた状態にすることはできますか?
そうしていると、あなたの心地よさが・・・
もっともっと深まってくるのを感じることはできますか、まるで、あなたが眠りに入っていく時のように
権威的催眠誘導がクライアントに対して、指示的であったのに対して、エリクソンの誘導法は、相手に選択権を与えながら、クライアントにあるもの(この場合はまばたき)を利用して徐々に誘導していくというものです。なので、許容的誘導法と呼ばれています。
エリクソンはこのような方法だけでなく、たとえ話(メタファー)をつかったり、ある特定の言語パターンをつかったり、その人がもつ体験など、利用できるものはなんでも利用してクラインとをトランスへ導いていました。そして彼の手法は、現在、多くの催眠家たちによって研究されていますし、人の無意識に影響を与える絶妙なスキルは、NLP(神経言語プログラミング)という手法のモデルにもなっています。
◆混乱法
混乱法の考え方は、論理的な思考が強くなかなかトランスに入れない人に対して使うのが一般的です。論理的に考えるということは、つまり、顕在意識の働きと、クリティカル・ファカルティの働きが強い場合が多いので、顕在意識にわざと何かするべき仕事を与えます。そして、顕在意識が仕事をしている間に、潜在意識とコミュニケーションをとってトランスに入れるという方法です。その代表的なものが、「黒板誘導法」です。
黒板誘導法
「目を閉じて、あなたの手の届く、すぐ前に、黒板があると想像して欲してください。
それをこころの目で見てください。
そして数本のチョークがあります。黒板消しもあります。
黒板の中心には大きな円がチョークで書かれています。
直径30センチほどの円です。
円の中には、大きなXがチョークで書かれています。
Xが円の中いっぱいに書かれています。
そして、4つの足、つまりXのそれぞれの先端が円に触れています。
そして今、黒板消しに自分が手を伸ばすところを想像してください。
黒板消しを手にすると、あなたは円の中のXを消し始めます。
まだ始めないでください。
と言うのは、そんなに簡単ではないからです。
Xは円の中に、いっぱいに書かれています。
Xのそれぞれの先端の4か所は、それぞれが円に触れています。
Xを消すときは、円までを消してしまわないようにすることが大切なことなのです。
Xは円に触れていますので、それほど簡単なことではありませんよ。
そこで私からの提案なのですが、黒板消しの角で、まずはXのそれぞれの先端、つまり円に触れている部分を消して行くのです。
円に接しているところを、黒板消しの角で消すのです。さあやってください。
-慎重に。
4か所全てに対して同じことをしていきます。
2つ目の足、3つ目の足、4つ目の足、そうです。
これで、あなたはXを円から切り離しました。
これで、この残っている2本の線を安全に消し去ることができます。
さあ、消しましょう。
これで、円の内側には何もなくなりました。
ひょっとすれば、Xのあったところにチョークの跡がうっすらついているのかもしれません。でも大丈夫です。
では、黒板消しをもう片方の手に移してください。
あなたの利き手でチョークを取って、円の中にAを書きます。
そして黒板消しを手にとって、Aを消してください。
そして今度はBを書きます。
そして同じように黒板消しでBを消します。そ
して今度はCを書きます。そして、Cを消します。
ここでちょっと手を止めて、わたしの指示に従ってください。
わたしが「はじめてください」、と言えば、アルファベットを書く作業を再び続けてください。
Dを書いて消し、Eを書いて消し、そのまま先へ進んでいきます。
しかし、一度その作業を始めたら、それから先は私の言うことに耳を傾けないでください。つまり、わたしの言うことを聞こうとする努力は一切しないでください。
もちろんわたしは話し続けます。
そして私が話すことは、あなたに聞こえてはいますが、私の指示に従おうとしないでください。
なぜなら、私はあなたの潜在意識に話しかけているからです。
潜在意識は、いつでも耳を傾け、注意を払っています。
よって、あなたの仕事は、アルファベットを書いては消すという作業をずっと続けていくことです。
順番に、一字書いては消し、わたしの言っていることには何の注意も払わずに、最後までやり終えるまでその作業を続けます。
Zの文字を書いて消したら、黒板消しとチョークを黒板のトレイに戻して、仕事が終わったというサインとして右手をあげて私に知らせてください。
そして、仕事が終われば、再び私の言うことに耳を傾けることができます。その時までにあなたは催眠に入っており、前回のセッションよりもっと深いレベルに入っているでしょう。いいですね。
では、「はじめてください。」Dの文字を書いて、消して、続けてください。しかし、わたしの言うことには何の注意も払わないでください。ただ文字を書いて、その文字を消します。次の文字を書いて、その文字を消す。それぞれの文字を書いて、消して行くごとに、あなたはどんどんリラックスします。それぞれの文字を書いて消すと、もっともっと楽に、簡単に、深い催眠に入って行きます。
そして、Zの文字に近づいていくにつれて、さらに深い催眠に入って行きます。
一字書いては、消していくごとに、深い、深い催眠へ入って行きます。―深く深く入って行き、それぞれの文字を円の中に書いて、そして、消していくにつれ、さらに心地が良く、平和で、穏やかで、澄み切った気持ちになります。
アルファベットを書いては、消すという、全ての作業が終われば、あなたは右手をあげて、わたしにその作業が終わったことを知らせてください。
するとあなたは、再び、わたしの言うことに耳を傾けることができます。
それまでの間は、ただひたすら文字を書いては、消してください。文字を一文字書いて消すごとに、あなたはどんどん深い催眠へ入って行きます。
私はあなたの潜在意識に直接語りかけています。あなたがしなければならない事は、今やっている事が終わるまで、やり続けることです。」
◆即効系の誘導
即効系の誘導はセミナーなどで時間を短縮するために使われたり、すでにトランスに何度も入っているクライアントに対して時間をかけずにトランス誘導するためによく使用されますし、もちろん初めての方にも使用することができます。
この方法でトランスにいれると即効でトランスに入るので時間をかなり短縮できるというのが長所ですし、お互いのラポールが強い場合はすぐに深いトランスにいれることができます。
この誘導法の理論的な根拠は、顕在意識をびっくりさせることで、クリティカル・ファカルティの働きを弱めます。
但し、初めてのセッションでラポールがないままに使用すると逆に不快感をあたえる結果になる可能性が高いので、時と場合をわきまえて上手に使うことが大切です。
デーブ・エルマンの催眠誘導法
デーブ・エルマン氏
◆デーブ・エルマンの催眠誘導法
デーブ・エルマンの催眠誘導法はとてもユニークです。それは権威的でもあり、許容的でもあり、しかも、催眠に入るすべての権利をクライアントに授けた状態で行い、且つ、意識と無意識の逆説を利用するという高度なものです。
この手法を使えば、とても短い時間の間に、誰でもがソムナンバリズムという深い催眠状態を達成することができます。
デーブ・エルマンは元々催眠術師の父親から生まれ、医学を学んだわけでもなく、心理学を学んだわけでもありませんが、彼はお医者様限定で催眠を教えていました。
その影響からが、21世紀の現在も、アメリカの医療に携わるお医者さまの多くが、デーブ・エルマン誘導法を好んで使っています。
この方法は、一見、とても簡単に使えるように見えるのですが、その裏にある理論をしっかり理解しなければなりませんので、催眠の世界では、上級テクニックとして認識されています。
ここで紹介した誘導法はあくまでも誘導に関する手順のサンプルを示したものです。催眠誘導法をマスターするためには、しっかりした理論的根拠と、繰り返すことで身に付ける熟練したスキルが必要になりますので、是非、スクールでしっかり学んでから行うことをお勧めします。
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