新年

http://kigosai.sub.jp/archives/category/%E7%94%9F%E6%B4%BB/page/47  【カテゴリーアーカイブ: d生活】より

蓬莱(ほうらい) 新年

【子季語】蓬莱飾、蓬莱山、蓬莱台、蓬莱盆

【関連季語】喰積、幸木

【解説】

正月の蓬莱飾りのこと。三方の上に海老、熨斗鮑、昆布、穂俵、裏白、橘、栗、柿、橙、米、梅干など積み重ね、松竹梅を立てる。本来は歳神の供え物であったが、やがて年賀の客にふるまわれ、おせち料理(喰積)となった。九州や四国に見られる幸木に近い慣習。

【来歴】『毛吹草』(正保2年、1645年)に所出。

【実証的見解】

蓬莱飾りは、古代中国で東の海上にある仙人が住む不老不死の山、蓬莱島を模したもの。平安時代には酒宴などの装飾に用いられたが、室町時代になると来客の肴として出されるようになった。江戸ではこの習慣がなく、もっぱら、喰積という重詰めで賀客を饗した。

【例句】

蓬莱に聞かばや伊勢の初便   芭蕉「炭俵」  

蓬莱にかけてかざるや老の袖   去来「そこの花」

蓬莱の麓にかよふ鼠かな   西鶴「温故集」 

蓬莱や升の中から山が出る  来山「今宮草」

ほうらいの山まつりせむ老の春   蕪村「安永四年句稿」

蓬莱に夜が明け込むぞ角田川   一茶「七番日記」


注連飾(しめかざり) 新年

【子季語】注連縄、七五三縄、年縄、縄飾、飾藁、掛飾、大飾、輪飾、前垂注連、大根注連

【関連季語】 注連飾る、注連貰、飾納

【解説】

正月、門や玄関に張る縄。藁を左に縒り、先を垂らしたり輪形にするなど形はさまざま。昔は、伊勢海老や橙、昆布など縁起物を取り付けたが、最近では簡素なものが多く、車や船などにも掛ける。「注連飾る」は暮の季語。 

【来歴】

『俳諧初学抄』(寛永18年、1641年)に所出。【文学での言及】

天火照大御神、いよいよ奇しと思ほして、やや戸より出でて臨み坐す時に、その隠り立てりし天手力男神、その御手を取りて引き出す即ち、布刀玉命、しりくめ縄をそのみしりに控き度してまおししく、これより内にな還り入りそ、とまをしき 『古事記』

【実証的見解】

注連縄の起源は、天照大神が再び天の岩戸に入らないように、その入り口に張った「しりくめ縄」とされ、清められた神の領域を示し、魔除け、疫病除けの意味を持つ。注連縄には太い「大根注連」と比較的細い「牛蒡注連」があり、いずれも等間隔に幣をたらす。縄から藁を一面にたらした前垂注連が一般的で、藁を輪にして掛けるものは輪飾り、輪注連などという。

【例句】

春立とわらはも知やかざり縄   芭蕉「藪香物」

神風や霞に帰るかざり藁   蕪村「明和九年句稿」

二つ三つ藪にかけるやあまり七五三   一茶「八番日記」

輪飾りや竈の上の昼淋し   河東碧梧桐「明治俳句」

古鍬を研ぎすましたる飾かな   村上鬼城「定本鬼城句集」

仰ぎ見る大注連飾出雲さび   杉田久女「杉田久女句集」


門松(かどまつ) 新年

【子季語】松飾、飾松、竹飾、飾竹、門飾、門の松、門の竹、立松、飾木門木、俵松、長押松

【関連季語】松納

【解説】

正月、家の門口に立てる松飾りのこと。竹や梅などを添えて一対をなす手の込んだものもあれば、門柱に松ひと枝を添えた簡単なものもある。地方によっては楢、椿、榊などを門木として飾るところもある。

【来歴】

『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。【文学での言及】

初春の花の都に松を植ゑて民の戸とめる千代ぞしらるる 前関白『新勅撰集』

今朝はみな賤が門松立てなめて祝ふことくさいやめづらなり 藤原信実『新撰六帖』

【実証的見解】

唐の時代に長寿を願って家の門に松をに飾ったのが始まりとされる。日本では平安時代に始まり、松に限らず楢、榊などいろいろな木を用いたが、しだいに松が飾られようになり、門松と呼ばれるようになった。門松は歳神の依代である。門松に乗移った歳神を家へ招き入れその年の息災を願う。また、邪気や疫病が家へ入らぬための浄めの意味もある。

【例句】

門松やおもへば一夜三十年  芭蕉「六百番発句会」

幾霜に心ばせをの松かざり  芭蕉「蕉翁句集」

月雪のためにもしたし門の松  去来「曠野」

独り寝やはや門松も夜の雨   一茶「七番日記」

門松や月明らかに応へ無し   渡辺水巴「水巴句集」

松立てて空ほのぼのと明くる門   夏目漱石「漱石俳句集」


若水(わかみず、わかみづ) 新年

【子季語】井華水、初水、福水、若井、井開、若水桶、若水汲

【解説】

元日の朝に汲む水のこと。年男や家の長が、恵方を拝んでから汲み上げる。手桶や柄杓は新しいものを使う。

【来歴】『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。

【文学での言及】

君がためみたらし川を若水にむすぶや千代の始めなるらん 源俊頼『千載集』

解け初むるはつ若水の氷にて春立つことのまづくまれぬる 西行『西行法師家集』

【実証的見解】

若水とはもともと、立春の日に主水司(もひとりのつかさ)が朝廷に奉った水をのことである。後に元朝に汲む井戸水を若水とし、それを神棚に供えた。若水は一年の邪気を除くと信じられ、神棚に供えた後、その水で煮炊きをして雑煮を作ったり、口を漱いだりした。

【例句】

若水に智恵の鏡を磨がうよや   嵐雪「戊辰歳旦帖」

若水に皺影笑ふあしたかな   杉風「杉風句集」

若水や冬は薬にむすびしを  野披「三日之庵」

若水やおよそ玉川猪のかしら  白雄「真蹟」

若水も隣の桶でしまひけり  一茶「七番目記」