http://www.dalailamajapanese.com/news/2018/20180906/amp 【第二回『ブッダパーリタ註』法話会 3日目2018年9月6日】 より
インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ
今朝、ダライ・ラマ法王は法座に着かれると、「今日はこれから、一切有情を三悪趣(地獄界・餓鬼界・畜生界)への転生から解放する、如意輪観音菩薩(カサルパニ)の許可灌頂を授与することにしました」と告げられた。そして灌頂の儀軌次第に沿って、まず在家信者戒(人を殺さない、盗みをしない、邪婬を犯さない、ひどい嘘をつかない、飲酒を慎むという5つの戒律)と菩薩戒の授与を行なうことをつけ加えられた。それに先立ち、祈願文の読誦と真言念誦が行われている間に、法王は灌頂に必要な前行修法(準備の儀式)を執り行われた。
タイの僧侶たちがまず『吉祥経(マンガラスートラ)』をパーリ語で唱え、次にベトナム人の僧、尼僧、在家信者のグループがベトナム語で『般若心経』を軽快に誦経した。さらに、インドネシア語で『般若心経』が唱えられ、最後にシンガポールのグループが英語で『般若心経』を朗読した。
法王は、今日の法話で説かれる内容の手引きとして、最初にアーリヤデーヴァ(聖提婆)の『菩薩瑜伽行四百論』より、次の偈頌を引用された。
まず不徳の行ないを慎む
次に〔粗いレベルの〕自我を滅する
そのあとすべての〔間違った〕見解を滅する
これを知る者は賢者である(第8章190偈)
そして、法王は次のように説明された。
「不徳の行ないとは、避けるべき悪い行為のことです。まずそのような行ないを慎むことから始めて、対象物に実体があると思って執着することなど、すべての間違った見解を取り除いていきます。愛と慈悲に基づいて育まれる菩提心は、一切有情を苦しみから解放し、究極の幸せの境地に至らしめようという意図に焦点を置いて修習しますが、一方で、智慧を育む修行の目的は、空性を理解することによって悟りを成就することです。智慧を含む六波羅蜜の修行を実践しながら菩提心を育むことにより、空性を理解する鋭い洞察力が生み出されていくのです」
ツクラカンで行なわれた法話会3日目、ダライ・ラマ法王の説法に耳を傾ける聴衆。2018年9月6日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・チュンジョル / 法王庁)
法王は、しかるべき因を積むことによって成就される三つ、あるいは細かく分けると四つとされる仏陀のお身体について言及され、顕教で説かれる修行道では真理をあらわすお身体(法身)だけが成就可能なのに対して、密教の修行道を歩むことにより、利他をなすための形あるお身体(色身)をも成就することができ、それは密教に特有な結果であると説明された。
そして法王は次のように続けられた。
「現象の究極のありようを理解することが、無知を滅するための対治方法になります。すべての現象は原因と条件に依存して生じるという縁起の見解を理解することで、空性を理解し、無知を根絶することが可能になるのです。そして空のなかから、利他の行ないをなすための色身が立ち現れます。しかし真理のお身体である法身を成就しなければ、色身を得ることはできないので、まずは法身の成就を目指さなければなりません」
「過去において、般若波羅蜜(完成された智慧)の教えは釈尊によって説かれたものではないと主張する人々がいました。同様に、サンスクリット語に基づく伝統の教え全体(大乗仏教)が仏陀の教えではないという人々もいます。このような主張に対してナーガールジュナ(龍樹)は『宝行王正論』において、菩提心、六波羅蜜と空性は釈尊ご自身が直接説かれた教えであると述べられています」
ツクラカンに集まった参加者たちに向けて説法をされるダライ・ラマ法王。2018年9月6日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・チュンジョル / 法王庁)
「四聖諦(苦・集・滅・道で示される四つの聖なる真理)とその16の特徴、そして三十七道品は基礎の教えであるパーリ語の伝統に属していますが、同時にすべての仏教の伝統で共通に学ばれている教えでもあり、サンスクリット語の伝統においても詳しく説明されています。しかしサンスクリット語の伝統である大乗仏教においては、釈尊が直接説かれたというだけでは十分でなく、論理によって分析され、精査されて初めて、それが正当な教えであるとみなされます」
「インド人の学者の中には、護摩を焚くことや脈管・風・心滴(ツァ・ルン・ティクレ)について瞑想する修行などは非仏教徒の伝統宗教にも存在するため、密教は釈尊によって説かれた教えではないと言う人もいます。ですから私は、私の師であるクヌ・ラマ・リンポチェに、仏教徒と非仏教徒の密教の違いについてお尋ねしました。クヌ・ラマ・リンポチェは、仏教徒の密教も他の伝統宗教の密教も、脈管・風・心滴に瞑想する修行をするけれども、空を理解した上で行なうのが仏教徒の密教修行なのであって、空の理解が伴うかどうかが仏教徒と非仏教徒の密教を分けるものである、とおっしゃいました」
「私は高い山の上で裸で生活し、体熱を起こすトゥンモという修行を行なうインド人のサドゥー(ヒンドゥー教の苦行者)についての話を聞いたことがあります。彼らは、仏教徒が修行する、ポワという意識の転移を行なう修行もしているそうです。私はそのような修行者の方たちとお会いし、彼らの体験についての話を聞きたいという願いをもっています」
ダライ・ラマ法王の説法を聞く6,000人を超える聴衆。2018年9月6日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:ロブサン・ツェリン / 法王庁)
「ナーガールジュナとその弟子であるアーリヤデーヴァ、チャンドラキールティはそれぞれ空性についての詳細な著書を残されましたが、一方でまた、密教に関する註釈書も記されています。そのような導師たちはみな、本尊ヨーガは空の理解を土台として修行するべきものだと説明されています」
法王は、シャーンタラクシタ(寂護)とカマラシーラ(蓮華戒)が密教についての著作を残されたかどうかは分からないが、その後でインドを訪れたチベット人の翻訳官たちは確かに密教について言及されていると述べられた。特にマルパ翻訳官は成就者ナーローパに就いて学び、修行されたが、ナーローパはかつてナーランダー大学の北の門を守った偉大な学者であったと話された。
次に法王は、これから授与される、一切有情を三悪趣(地獄界・餓鬼界・畜生界)への転生から解放する如意輪観音菩薩(カサルパニ)の許可灌頂について説明された。この灌頂は持金剛タクプ・リンポチェの清らかなビジョンを通して伝えられた教えに基づいたものであり、観音菩薩から直接ミトラジョーキという成就者に授けられた修行法である。法王ご自身は、この灌頂の伝授を持金剛ティジャン・リンポチェから授かられ、そのリトリートを行なって、その修行に伴う60万回の六字真言の念誦も終えられていることを伝えられた。
一切有情を三悪趣への転生から解放する如意輪観音菩薩(カサルパニ)の許可灌頂を授与されるダライ・ラマ法王。2018年9月6日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:ロブサン・ツェリン / 法王庁)
法王は灌頂授与の儀軌次第のなかで、在家信者戒と菩薩戒の授与も行われた。許可灌頂授与の儀式が完了すると、法王は『ブッダパーリタ註』のテキストに戻られ、「どこまで読み終わったか覚えていますか?」と聴衆に尋ねられた。
そして法王は次のように説明され、3日目の法話会を締めくくられた。
「今回は『ブッダパーリタ註』のテキストの解説があまり進まなかったので、皆さんはがっかりされているかもしれませんね。しかし私は、たとえ90歳になるまで続くとしても、このテキストの解説がすべて終わるまで法話会を続けようと決意しています。明日はゲシェ・ランリ・タンパの『心を訓練する八つの教え』を伝授したいと考えています。また、質疑応答の時間も取る予定です」
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