https://mag.handkerchief-books.com/fujita-saito2016/202007251051_2518 【いかに「いまに戻れるか」】 より
一照そう、ここにはいない。だから、また同じことをやってしまう。皆のマインドも感じられないし、ボール来ているのにタイミング遅れたりして、蹴り損なったりするわけだよね。
多分、メンタルが弱いという実態は、考えに引きずられて実際に起きていることがおろそかになるから、パフォーマンスが当然落ちるだろう、ということだよね。だから、どうすればいいかというと、自分を叱咤激励するよりは、ここに戻ってくる練習をすればいい。
齋藤間違いなくそう思いますね。失敗しても、そういう時はスッといまに戻る。
一照要は、やるべきことをやればいいということだけど、過去に引きずられる癖がついていると、なかなか「いかん、戻れない、戻れない」と、二重三重に戻れない自分を責めたりして、どんどん離脱していくからね。だから、メンタルトレーニングって、別に根性をつけるとかいう話じゃないと思う。
齋藤どれだけ落ち着けるかですよね。「いまに戻る」、いいですね。やっぱりシュートを外したりすると「あー、ここパス出しとけばよかったな」とか一瞬思いますが、それをすぐ忘れて、すぐに自分の役割に戻れることが、すごく大切になると思います。
一照戻ったほうが早いですよ。こうやって「風が吹いているな。風がこっちからこっちに行っているな」と思っただけで帰っているからね。帰ろうと思わなくても、そこに気づいたらもう帰っている。
齋藤風を感じる……いいなあ。
一照身体はいつも現在進行形ですが、思考はいつも過去形か未来形になるから、この二つのズレが問題になるんです。心が思考に偏ると現在を忘れてしまうんだけど、そこから離れ、感覚に戻ればいつも現在進行形で、いま起きていることは感じられる。その現在進行形のなかで思考も働いてくれればいい、現在から引きはがすことに働かせるのではなくてね。それは精神力とか根性のあるなしとは、ちょっと違う気がしますね。
――根本的に違う感じがしますね。
一照そうしたズレを何とかするのに、精神論を用いても局面は変わらないから、あんまり助けにならないかもしれないよね。解かなくてはならない問題は、もっと簡単なこと、シンプルなことかもしれない。
齋藤そうですね。
一照普段からそういう「心の問題は心で何とかしなきゃ」と刷り込まれていて、その方法しか知らなかったら、手の打ちようがないよね。まさに泥沼、火を消そうと思っているのにガソリンをぶっかけているようなことになってくる。日本の場合、そういうことが伝統になっているのかもしれないよね。
齋藤強いですね。学校教育もそうですし、サッカーもそうですけど。
https://mag.handkerchief-books.com/fujita-saito2016/202007251052_2520 【マインドよりもハートに従う】より
――齋藤君は、そうしたものに染まらないことの大切さにどこで気づいたんですか? それとももともとそういう感覚を持っていたのか?
齋藤もう一人の離れた自分がいるのはずっと感じてきたんです、ちっちゃい頃から。これずっと自分でも謎だったんですけど、もう一人違う自分がいるので、自分はどこか演じているようなところがあって。
一照ああ、僕もそれはあったね。
齋藤だから、試合に負けて悔しくて泣いているんだけど、それを見ている自分もいる。
一照その自分は冷静なわけ?
齋藤冷静ですね。負けて悔しい自分を見せているんです、キャプテン、親に対して。でも、それを見ている自分がいる。……なんかこれ言うの、ヤダな(笑)。
一照はいはい、悔しくも何ともない?
齋藤ええ、こいつ(もう一人の自分)のほうは。けれど、こっち側の自分は悔しい。その間を行ったり来たりしていて、でも、こいつは全部知っているんです。いま初めて人に言った、この話(笑)。
一照ハハハ。その感覚ってあると思う。表面の自分とは別に、海面はこう動いているけど、海底の水はずっと静かなままという。(2人の自分と言っても)別に切り離されているわけではないよね。ケンカしているわけでもない。
齋藤はい。だから、試合に負けそうでも、片方は「いや、いける、いける!」となっているのに、「これいけるか? 本当か?」という自分もいて。熱くなればなるほど、こっち(いけるという自分)に引っ張られるんですが、試合が負けたりするとヒュッと出てくるんですよ。「ダメだったな。いま泣いたほうがいいぞ」と、そういうちょっと悪い自分が(笑)。僕、ちゃんとサポーターに挨拶するじゃないですか。
――する、する。
齋藤ああいう時、それが出てくるんです(笑)。
一照『黒子のバスケ』の赤司のような感じだな。そこに、沈んでいる自分が「しょうがない、出るか」みたいな感じで出てくる。
齋藤でも、ちょっとずつメンタルとか栄養の摂り方とかを試していくことで、この波打っているやつがどんどんこっちに近づいてきているんですよ。いま、ちょうどいいくらいの感じでできているんですよね。だからまわりの目を気にせず、いろいろなことがやれている。骨ストレッチもそうだし。
一照マインドとハートという言い方を、僕はしているんですよ。マインドというのは、まわりから条件づけられたものでできている。「お前はこういうやつだ」とか言われてきたでしょう? でも、ハートというのは、そうじゃない。齋藤さんの場合、だからハートに響くものをいまやっているということですよ。
齋藤はい。
一照僕らの世界では、「pass with heart」という、カルロス・カスタネダの『ドン・ファンの教え』のいちばん大事な言葉があるんですよ。「心ある道を歩め」。どんな道でもいいけど、心ある道を歩まなきゃいけないというね。心がなかったら、楽しくも何ともない。心ある道を見つけて、それに従えというのが、メキシコのシャーマンの教えです。ドン・ファンは僕らの頃にすごく流行ったので、何冊も出ています。
齋藤そうなんですか。読んでみたいですね。
https://mag.handkerchief-books.com/fujita-saito2016/202007251053_2523 【「ここにいるよ、私に気づいて」】より
一照マインドではないんですよ。ハートとマインドは明らかに違っていて、マインドというのは「べし・べからず」のかたまりで、外側にあるプログラムに従って役割を果たしていこうとするわけですよ。だから、自分が知っていることしか問題にしない。でも、ハートって、わからないことにワクワクする。
齋藤わかります、わかります。
一照両方いるんだよね。マインドなしで社会を生きていくのは危ないけれど、その下にはハートがあって、ハートを手なづける形でマインドが適切に働けばいい。マインドって悪い癖があって、ちょっと頑張りすぎるんです。
ハートはおとなしいので、マインドがこうやって出張って主人公面してやっているうちは静かにしている。でも、小さい声で「ここにいるよ」「私に気づいて」と、いつでも声をかけてくれていて、静かな時に時々フッと表に出てくる。人を好きになることなんて、そういうことだよね。
齋藤そうですね。
一照マインドのほうは「何であんな人を好きになるの?」「やめときなさい! あんな人」という言葉に動揺するんだけど、ハートはもう知っている。もうfall in loveしちゃっているという感じだよね(笑)。マインドとハート、その両方が僕らにはある。でも、道を行くのなら、サッカーが齋藤さんの道だったら、「pass with heart」ですよ。「心ある道を歩め」ということになるよね。
齋藤ありがとうございます。
一照修行もマインドでやると、もう苦行になるんですよ。親切にしなきゃいけない。慈悲深くならなきゃいけない。これでは「べし・べからず」で、「慈悲深いってこういうことなんだろうな」って自分で命令して無理矢理にやっているから、言葉の端々に「おい! 俺がこれだけ優しくしているのになんだお前、礼も言わずに」とムカッとくるんだけど、これはマインドがやっている証拠なの。
ハートは自分が嬉しくてやっているから、相手は関係ないというか、返ってこなくても別にそれはいい。だから同じ行動をしていても、ハートでやっているか、マインドでやっているかで違ってくる。仕事も多分そうだよ。ハートフルにやっているか、マインドでやっているかで、受け取るものは変わると思いますよ。
齋藤(プロに入って)1〜2年目の時というのは、サッカーの試合に出られなかったし、先輩がたくさんいて、怖いなかで練習に行かないとならないので、すごくつらかったんですね。練習所に行きたくないんで、「あー、火事起きないかな」とか。
一照過激だね、それ(笑)。
齋藤「地震とか起きて練習所が潰れないかな」とか同期の奴と言ったり、自分で思ったりするんです。だけど、(レンタル移籍で)愛媛に行って、サッカーというものがなんとなくわかってきて、横浜に戻ってきてずっと試合に出られるようになった時、サッカーをうまくなりたいという思いで練習に行けるようになったというか、苦しくなってきたんです。そうなるとサッカーは楽しいし、だから自主練もすごくやっちゃう。
――すてきだね。サッカーが心ある道に変わってきたんだね。
齋藤でも、友達としゃべっていると、やっぱり仕事が苦痛で、その後の遊びが楽しいと。
一照普通はそうらしいよ。
齋藤そうなんですよね(笑)。だけど、大事なのはいかに仕事を楽しめるかじゃないですか。自分はまだ言える立場じゃないですけど、営業やって落ち込んでいる友達に言ったんですよ。もう本当に死にそうな顔だったんで、どれだけいまを楽しく生きられるか。「もったいないじゃないか」と話したら、目覚めちゃったみたいで一気に成績上がって、「俺に感謝しろ」ってふざけて言ったりしているんですけど(笑)。
一照それくらい違うんだよね。
齋藤僕はサッカーをすごく楽しくやらせてもらっているんですけど、皆が皆そういうわけじゃないじゃないですか。でも、日本が元気になるというのが僕の夢であり、目標なので。そういう感じで一人一人が仕事をしていったら、もっと変わるんじゃないかなと思うんですね。
だから、自分が楽しくやれていることを伝えていきたいし、自分が何か伝えた時に、変わってくるものもあると思う。以前、小学校で食育の講演をやった時に……。
一照そういうのもやっているの?
齋藤はい。食育なんですけど、夢を持つこの大切さと関連させて150人くらいの前で話をしたんです。講演の後に子供たちからたくさんの感想をもらった時に、すごく嬉しくて。自分にとってファンサービスの一つだったとしても、自分がしたことをずっと覚えてくれている人っているじゃないですか。サッカー選手にサインしてもらって、それでサッカーが好きになって、将来、選手になってくれたら嬉しいですし。
一照いま、スポーツマンはそういう役割をしているよね。
齋藤でも、プロの側って、おごりとかじゃないですけど、そういう意識がそこまで強くないんです。僕はその一回がすごく大事だと思っているんですけど。
一照そうだね。
齋藤たとえば、仕事が楽しくなってくると、こうしていま自分が考えているみたいに、(その楽しさが)いろんなことに派生してくると思う。それができていったら、日本も、世界もそうですけど、もっと活気づくかなと思うんです。
一照(世の中とつながる)いろいろなチャンネルがあるけれども、齋藤さんの場合はサッカーでハートに触れるようなことをやっているわけだよね。いま、マインドに追われているじゃない。本当にマインド主流。
齋藤間違いないですね、それは。
一照それではきついよね。だから、仕事でもマインドの下にあるハートにアクセスするような形で、全員が全員できるかわからないけど、そちらの方向を目指して変わっていく必要はあるかもしれない。そうじゃないと、自分を壊すことになるから。
https://mag.handkerchief-books.com/fujita-saito2016/202007251054_2525 【世界に向かって開いていく】より
――最後に、これからのビジョンについて。世界を向き合うという話をしましたが、齋藤君は現実でも世界に目が向いているよね。
齋藤やっぱり、いまというものの積み重ねだと思いますね。いまをすごく大事にしようと思っている最中なので、今回の禅もそうだし、いろいろ体験していきたいですね。
一照いまにベストを尽くしていると、必要なドアが開いていくという感じがわかってくると思いますよ。そういう自分に対する信頼が大事ですね。
齋藤そうですね。なので、人に会うだけでなく、本をたくさん読んだりとか。最近、『アウト・オブ・リム』を読みました。
一照おお、シャーリー・マクレーンね。僕らの若い頃に流行っていたやつ。この名前が出るとは思わなかったな。
齋藤はい(笑)。マリノスの雑誌で自分の読んだ本の一つとして紹介されたんです。たくさん持っていったら、「これは出せない」みたいなのばっかりになっちゃって。
一照宗教関係の本もまずいの?
齋藤禅は全然大丈夫です(笑)。
一照さっきの(カルロス・)カスタネダとか、静かに目撃しているもう一人の自分がいる系はどう?(笑)
齋藤自分のなかでちょっとずつ一緒になってきているので、読む分には大丈夫だと思います。
一照マインドというのは、いつも批判をするんですよ。「それじゃダメだ」「そうじゃない」って。驚きがあってはいけないので、自分にとってOKのリストとOKじゃないリストがあって、それでいつも見張っていて、何かまずいことがあると、「そうじゃない、そうじゃない」と言っている。
でも、ハートは好奇心の固まりだから、「そうなの?」「そうなの?」という。発する声が「そうじゃない」というのがマインドだとしたら、ハートは「エッ、そうだったんだ!」という。
(ハートを指して)こっちでやると、どんどん新しいことが前に拓けてくる。そういうアンテナを張っているから、自然と必要なものに出会っちゃう。引き寄せの法則とか呼ばれますが、別に神秘でも何でもなくて。
齋藤そうですね。僕もそういう世界があることはだいたいわかってきました。
一照世界に向かって開いているから、どんどん入ってくるんですよ。マインドはそれに影響されたくないんで、さっきも言ったみたいに取捨選択して、外にあるものを内に入れないようにしているんですが、ハートは好奇心があるからいつも開いている。「何でも来てー」みたいな感じで、ウェルカム、ウェルカムで、だからどんどん自分が変わっていくんです。外から影響が入ってきて、それが喜びになっていく。
齋藤それって、完全にここ2年の僕だと思います(笑)。
一照そうそう、マインドで生きている人と、ハートフルに生きている人は違うよね、顔つきから、スタンスから全然違う。
――一緒にいて楽しい人は、確実にハートフルなほうですね。
一照うん、heart to heartだからさ。マインドって、いつも得か損か取り引きをやっているから、「これでOKかな」「こんなこと言っていいかな」みたいなことで頭が一杯になっている。座禅会に来たらマインドをこっちへ置いておいて、ハートになってほしいよね。
齋藤自然の世界もハートじゃないですか?
一照そう、まさにハートですよ。
齋藤なので、自然のなかに入ると空気が変わるじゃないですか。ここ(茅山荘)もそうでしたけど、入ってフッと変わって、ウワッと驚いて。変わりますよね。
一照ただ、マインドも必要なので、門から外に出る時はつけてもらってね。
齋藤はい、現実に戻らないと(笑)。
一照電車に乗る時はピッをやらないと通れないからね。それはハートでは無理だから。齋藤さんは両方がちゃんとあるから、大丈夫だと思いますけど。
齋藤することはちゃんとして、ですね。
一照そうしたら世界のほうがあなたのところにやって来るでしょう。自分から行かなくてもね。本当にそういう感じがしますよ。
――一照さん、齋藤君にお会いしてどうでしたか?
一照まさに、サッカーに育てられてきているという感じなんじゃないかね。そういうサッカーとの出会い方をしている感じですね。サッカーに壊されていく人もいるかもしれないけれど、それはサッカーが悪いんじゃない。齋藤さんの場合、自分が育つようにうまくサッカーと出会えた。だから、なくなっても大丈夫です、サッカーがなくなっても(笑)。サッカーだけで人生を生きちゃダメだからね。
齋藤はい。今日はすごく楽しかったです。どうもありがとうございました。
0コメント