子どもと皮膚と感情

Facebook・大西 真さん投稿記事 子どもと皮膚と感情

人間が感情を生み出すのは、実は脳ではなく、むしろ皮膚や、(腸などの)内臓であるともいわれています。

ニューギニアの部族を研究した文化人類学者であるマーガレット・ミード博士は、赤ん坊と肌を密着させた部族と、バスケットに入れて肌を密着させていない部族の研究調査をしました。結果、前者の肌を密着させるアラベッシュ族は、非常に穏やかで、争いごとがないことがわかり、一方の肌を密着させない放任的なムンドグモール族は、攻撃的で争い事が好きであることがわかりました。

1910年代のアメリカのある養護施設では、一年間に9割もの乳児の死亡率があったため、栄養状態の改善や高度な医療を施したにもかかわらず、やはり3分の1は死亡してしまいました。これは、当時の流行の「触れない育児」が原因であり、スキンシップがないことのストレスで、成長ホルモンの分泌が止まってしまっただといわれています。

特に、赤ちゃんや子どもの頃に親からのスキンシップが足りず、甘えられなかった子どもの多くは「愛されてなかった」という愛され感の不足が問題行動につながってしまったり、乳児に至っては死に至ることもあります。

戦前まで主流だった日本の伝統的な育児方法は、母子密着のべったり育児です。昼間は家事においても紐を使って赤ちゃんを背中におんぶをし、夜は川の字になって赤ちゃんと添い寝をしていました。母親が忙しい時には、代わりに祖母や娘にも赤ちゃんを抱っこさせることも日常でした。

江戸時代には「小児あんま」といって赤ちゃんを全身マッサージしていた育児方法もありました。これは、循環器系、泌尿器、免疫系、神経系、呼吸器官、胃や腸の消化器官をすべて刺激します。動物においては、特に哺乳類などが赤ん坊の前身をきれいになめる行為がそれにあたるといわれています。

しかし、明治時代から戦後に入ってきた欧米式の育児方法により日本も今では変わってしまいました。赤ちゃんが泣いてもすぐには抱っこしてはいけない、ある程度放置しておくことで自立的な人間をつくっていくという考えです。

赤ちゃんはどうしても泣くものというイメージが特に先進国の中ではありますが、実は古来からの伝統的な生活をしているイヌイット(エスキモー)やアフリカの先住民系部族の赤ちゃんは無駄に泣くことはありません。伝統的な生活を維持しているイヌイットやアフリカ部族では、もし赤ちゃんが泣き始めたら、何か特別な問題や原因があるのだとされています。

イヌイットの育児方法では、赤ちゃんが生まれると、トナカイの毛皮で出来たおむつをし、その上からさらに毛布で固くラッピングするように巻き、背中におんぶをします。このラッピングは赤ちゃんにとって子宮のような感覚に似ているとされています。また、添い寝やスキンシップが日常的です。これにより赤ちゃんの心理的安定をうみます。戦前の日本の育児方法でも似たような方法をしていますね。

赤ちゃんは産まれる前には、羊水の中で成長します。羊水が体温と同じ温かさであることと、ほとんどが水分から成る人間の体が羊水のような水中にいることから、赤ちゃんの皮膚の感覚は羊水の中ではほとんど刺激されません。私たちが体温と同じお風呂に入った時に感じる膨張したような心地よさと同じ感覚が赤ちゃんにもあるわけです。

赤ちゃんは、この極楽のような羊水と、お母さんの子宮の壁にとてもべったりになります。その居心地のよい母胎の液体からいよいよ産み出されると、体温よりずっと低い温度の気体に包まれます。そうなると、赤ちゃんは皮膚感覚が刺激され、敏感になっていきます。ここから、赤ちゃんの子宮回帰が始まります。つまり、子宮のような空間や温かい人肌を求めていきます。

人は温かいスキンシップをすると脳内でオキシトシンが作られ、これが増えてきます。オキシトシンは、心がやすらぎ、幸福感や愛情も深まって、人とのきずなを強める働きがあります。また、オキシトシンが幸せホルモンと呼ばれるセロトニンを活性化させ、ノルアドレナリン(不安・恐れ)の働きをコントロールして、心のバランスを安定的に保ちます。子どもが幼いうちにオキシトシンの影響をたくさん受けるとこのセロトニンが出やすい脳になり、一生つづくことになるようです。

そうはいっても、現代社会では、共働きも増え、子どもと触れあう時間や心の余裕がなかなかとれない方も多いと思います。しかし子どもは案外賢いもので、両親がいないときには、保育園での先生との接し方、祖父母との接し方など、子どもなりに良い関係を築いているものです。そして、お母さんやお父さんにはいっぱい甘えたいわけですから、接する時間がどんなに短くても、スキンシップで甘えさせることで親子の愛着関係を大切にしていけばいいのです。

いつからか「抱きぐせ」というネガティブな言葉がありますが、抱っこされたいという欲求は本能的なものですし、実際に抱きぐせがつくことよりも、むしろ幼いころに抱かれたりなかったことによる、将来的な心の不安の方がずっと深刻です。

育脳が注目されたり優先される今日ですが、哺乳類はすべて肌を触れ合わせるスキンシップ育児です。肌と肌が触れあうことによって愛着が生まれ、親子のきずなが深まり、安心感の中で子どもがスクスクと育っていきます。

子どもの幸せの根っこはスキンシップからつくられているのです。それは大人である私たちにも言えることかもしれませんね。

※山口創著などを参考

※再掲載

吉富信長さんの投稿より

https://www.facebook.com/100005111323056/posts/497582700422103/

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