五・四・四・五リズム

http://www.cna.ne.jp/~mirai-mu/rizumu1.htm 【五・四・四・五リズム(1)】

向 井 未 来 より

春風のスカーフ帝国ホテルかな         山田みづえ

夏芝居監物某出てすぐ死              小澤 實

待ち呆け噴水立つたり坐つたり         藤田今日子

水打つてそれより女将の貌となる        鈴木真砂女

瀧守の猿股三枚干してある             飯島晴子

少年に蝉の木だんだん増えてくる        小林万年青

一詩まだまぎれてもも色桃ばたけ        河野多希女

これら好吟句のリズムにお気づきでしょうか。そう、五・四・四・五のリズムです。四・四の部分に下線を引きましたが、一句全体の字数は五八五となって字余り句です。だが、すらすらと滑らかに読み下せるので、字余りだとはちょっと気がつかない構成です。

しかし、単なる中八となってしまった字余り句ではありません。中八を分解する場合、計算上は一・七、二・六、三・五、四・四、あるいは逆に、五・三、六・二、七・一と区切ることが可能です。特別な場合として八・〇もあり得ます。そして四・四の場合だけが何故か心地よいリズムなので、たいていの場合すらすらと読み下してしまいます。このリズムを持った句を意識して拾ってゆくと、意外にたくさん作られていることを発見します。

霊跡の無患子むくろじ高きに仰向ける           河野多希女

春泥をゆたかに子の靴父の靴             沢 知子

万緑やどこまでいつても千曲川           鈴木真砂女

梅雨寒や海鳥遠からざる沖に             大屋達治

三代の黄金分割月見酒                 櫛引晴穂

湯豆腐に葱味噌たつぷり三世代            安田龍泉

冬終る尾長が紙漉く小屋に来て            皆川盤水

帰省子の荷物にスケッチブックかな          小林敏子

黄落や鴎外漱石此處に住みし             辻 美祢

冷酒飲み君が代・日の丸論激す           有馬ひろこ

初旅や未来図雲海抜けきれず           高橋希世女

髪刈つて晩夏のさとき身黄昏へ            藤田湘子

春立つや指より生まるる飴の鳩            要ひろみ

掃苔の雑巾大事に持ち帰る               林  翔

婚の鐘りんろんコスモス揺れ交し           木村春江

昔から不調の一枚障子張る             鈴木六林男

白い服で女が香水匂はせる              高屋窓秋

暗黒や関東平野に火事一つ              金子兜太

また人に産まれる確率石蕗の花            蔦 悦子

百日草がんこにがんこに住んでいる          坪内稔典

こおろぎは黒いか白いか云うて見い          永田耕衣

中七が字余りや字足らずとなる句は嫌われるのが普通です。中七が損なわれることによって、五七や七五のリズムが一句の中から完全に消えてしまうからでしょう。

ところが、中八となる字余りで、しかも四・四のリズムが保たれる場合だけは別格です。一句全体がこの五・四・四・五のリズムで作られた句は昔からあります。

恋しさも暑さもつのれば口開けて           中村草田男

鰯雲ひろがりひろがり創痛む               石田波郷

死が近し枯野を横切る一列車             秋元不死男

雀の子そこのけそこのけお馬が通る           小林一茶

おもかげもかはらけかはらけ年の市           与謝蕪村

白梅に明くる夜ばかりとなりにけり            与謝蕪村

中村草田男は、一時的だったでしょうが上五や下五の字余り句を量産した時期があったようで、中八で四・四のも結構あります。

屈竟の橡の実つかむや水去来            中村草田男

桜の実紅経てむらさき吾子生る            中村草田男

雲雀の音曇天掻き分け掻き分けて          中村草田男

百日紅乙女の一身またたく間に            中村草田男

五・四・四・五のこのリズムで詠まれた句の内容はさまざまです。しかし、心地よい軽やかなリズムですので名称をつけてみたらどんなものかと、前々から考えていました。このリズムは左右対称、上下対称といいますか、折りたたみ式になっています。

ご存知のように、似たような構造の句の呼称に「観音開き」があります。両端が名詞になっていて、その名詞で中七を挟んでいるような構成なので、観音堂の扉を開くような形ということでしょう。そこで、五・四・四・五のリズムには別の呼び名を考え出さなければなりません。このリズムは屏風のようなので、私ははじめ「屏風構え」と思いつきましたが、「アコーディオン・リズム」「蛇腹折り」などもあるかなと後で考えました。なにか別のスマートな呼称があったら、それでもよいと思います。

この五・四・四・五というリズムを持った句は、意識して作ろうとしなくとも、自然にできてしまうようです。五・四・四・五のリズムを持った句には結構好句が多く、極端な悪句、凡句がありません。中八の字余りでも、四・四のリズムを持っている場合は、正規の定型句にくらべて少しも見劣りがしません。みな、無理して中七に直す必要のない句ばかりです。むしろ、リズム感が活かされている句が多いように見えます。そういえば、「赤信号みんなで渡れば怖くない」も五・四・四・五リズムです。

どなたか、このリズムにぴったりの呼称を提案してみてください。ぴったりの呼び名が決まったら、その呼称を定着させようではありませんか。〖 俳誌『あざみ』2000年9月号掲載 〗

http://www.cna.ne.jp/~mirai-mu/rizumu2.htm  【五・四・四・五リズム(2)】

向 井 未 来 より

─ 以下は『あざみ』誌に掲載されたものではなく、このホームページでの筆者の追加付記です。─

中八で四・四リズムとなる句は、『あざみ』誌へ投稿の短文に掲げたほかにもたくさんありましたし、さらにその後も出会っております。

包帯をほどけば人参畑かな               あざ蓉子

心太恋文横丁曲り角                   畑中史郎

花人に囲まれ娘らフラフープ              拓殖芳朗

ルオーの絵見しよりオーバー重たしや         石谷秀子

秋霖やころぶな厚底ブーツの子            吉岡伯馬

若きらの白服北大練習船                千葉 仁

淋しければ木の実を遠くへ投げもする       荻原都美子

新緑や兄欲る東大構内に              秋元不死男

夏未明インターネットは渋滞す             野尻正樹

妹と言はれて四ツ葉のクローバー         片山佳代子

三鬼の忌文学青年死滅せり            光部美千代

滝音に包まれいつしか合掌す             大石歌子

東京の転校生だよ稲雀                 伊藤昌子

ダリのパンガリガリ食べたい夜の秋        八木三日女

句会あと素麺流しに並びけり              井上秀子

男鹿半島ゆさぶる鰰起しかな              藤原星人

祭客ばかりの最終電車かな              石崎敬子

尺蠖やバルカン諸国の地図忘る           神谷冬生

威し銃鴉は飛ぶ真似したるのみ            逵原耕雲

昼寝子や生れし日のごと髪濡れて          石川桂郎

落語家の司会のあいさつ桃の花          伊集院香子

大方は徒労の生涯鳥雲に               原田青児

欠伸して暗誦番号忘れたり               山根恵子

卒業子おのれを卒業したる顔              石川 久

三月のキムタク黒目のよく濡れて          津田このみ

筋金の入らぬ男へ水を打つ             有馬ひろこ

板木打つて立春大吉ひびかせる          長谷川 櫂

ひろい読む表札ローマ字秋日和            山口初江

霊柩車左折し落葉の中を去る             大屋達治

マスクして不思議な話の中にをり            益永涼子

啓蟄の地上に降りたき星ばかり           高野ムツオ

春の日に二人のおふとん差し出して          岩崎洋子

日向ぼこ一人は体操始めけり            刑部賢次郎

欠伸する赤子を抱きよせ微笑みぬ          亀田幸美

昼もなほ露けき荒木田守武忌             鷹羽狩行

柏餅テーブルいつぱい俳句かな            永山和江

青嵐板前見習募集中                 葉玉久美子

風波の遠巻き睡蓮まだ覚めず             熊谷ツサ

花明り東京タワーのふもとより             堤亜由美

あたらしき枕に晩夏の髪ゆだね           藤 志津子

新樹光バージンロードに立つ二人           米屋道子

ガリ版の学級新聞水温む                李原寛子

昼蛙二センチ四方の座布団に           大和田栄治

一人では泣けても笑へず秋寂びぬ          池川聖也

茶を献ず宗匠遠見に夏祭                大竹 公

炊きたての飯の香八月十五日             佐藤 翠

熱帯夜つぎはぎだらけの夢抱え           岩田風雅子

卯波よす長崎出島のオランダ語            小倉晶子

ふさはしくしなひて紫式部の実              伊藤敬子

逢えばただ無口になる夜の白水仙           勝村茂美

咳をしてテレビの俳句を考える             加本泰男

浅草のからくり時計も春の色            伊集院みのり

白魚の背中に経文らしきもの              神 春雷

さよならは菜の花畑に手をふって      石川智枝子(高1)

秋の朝透明人間歩いてる           西ケ花 梓(高2)

煎餅を片手にこたつで本音いう        松井史織(中学)

渡り鳥穂高のじいちゃん元気かな       大沼正季(小学)

プラタナス影までゆっくりゆれている      富田さくら(小学)

春になり虫たち出てきてぶらり旅         タックー(小4)

月色に咽せつつ一木音もなし            中村草田男

月明の梯子に腰掛け空近し             中村草田男

熱帯魚薄き身吊り上げ吊り上げて         中村草田男

春の風ルンルンけんけんあんぽんたん        坪内稔典

筆者がこのようなリズムに気が付いたきっかけは、公募時事川柳の入賞発表新聞広告でした。96年の春頃でしたか、「シティバンク金融御意見川柳大募集グランプリ決定」の記事をふと目にし、受賞句を読んでみて何気なくリズムを数えて驚きました。

まず、賞金30万円なりのグランプリ獲得句が、

国民を無理矢理連帯保証人               西海 博

そして、グランプリに続く優秀賞10万円3句が、

このところ頭も金利もアメリカン             鈴木尚武

転んでも起こしてもらえる金融業             鎌上 努

金融界あなたの常識非常識            宇都宮由美子

なんと、五・四・四・五のリズムが上位入賞を独占してしまっていました。だが、最後の佳作10句はこのリズムがぐっと減って、10句中2句だけでしたが。

あの銀行昔の名前は何だっけ              常念武博

菅大臣各省歴任願います                 春名節夫

それがきっかけで、その後注意してこのリズムの俳句を拾っておりましたら、結構たくさん集まってきました。五・四・四・五とリズムが分解できる中八の字余り句に限っては、五七調や七五調に次いで日本人に心地よく響く何かがあるのではないかと、そんな気がしてくるわけです。近代になって、海外音楽の影響でも受けて染み込んできたリズムなのか、ごく僅かですが蕪村や一茶にも見られたように、昔から日本人の体内に潜んでいたものが呼び覚まされているのか、筆者には分かりませんが、単に近頃、「定型にルーズになってきただけの現象」でもないようです


http://www.cna.ne.jp/~mirai-mu/rizumu3.htm  【五・四・四・五リズム(3)】

向 井 未 来  より

以下は俳誌『天為』(主宰:有馬朗人)の「天為集」小・中学生の部に掲載された中から抜き出した五・四・四・五リズム句です。

( ※ 2000年2月号から2000年10月号まで )

大シャワー十びょう数えるがまん会            しば田大き(小1)

夏の空たいようひかって海あそび             こがまなみ(小2)

プールびらきたくさんおよぐぞさあいこう       まつながゆうし(小2)

水あそびじごくのシャワーへさあいくぞ          きしだふみ(小2)

くらげさんキラキラ光ってにじみたい          まつ本やよ生(小2)

すばらしく大きくなってね夏やさい           小のりょうへい(小2)

夏の山杉の木ぞろぞろ歩いてる              江田苑可(小3)

かたつむりなかなかしゅくだいおわらない         久谷真莉(小2)

ミニトマトみどりのぼう子の赤い顔            黒木はんな(小2)

お父さん豆まきしないでのんびりと             梶 高認(小2)

めんこうつひっくりかえしてはるがくる        さわ木こうすけ(小1)

めんこうつぱちっと一ぱつはるの土          山千よわたる(小1)

なんでだろう春だけ大きいお月さま             井上 舞(小2)

はるがきたいっぱいいっぱいあそぶんだ      まつながゆうし(小1)

えんそくでいっぱいいっぱいあそんだよ        いとうあや花(小1)

そつぎょう生七年生まであったらな            大さきけい(小1)

はるかぜがみんなの手つなぎしゅうぎょうしき     クインこうじ(小1)

たこあげてじぶんもとびたい空たかく        草やなぎひかる(小1)

ゴムとびしともだちいっぱいはるのひる         よし田みお(小1)

はるかぜといっぱいあそぶよじてん車で          きし田文(小1)

なわとびがいっぱいとべたよふゆの日に     ひやむ田しょうご(小1)

なわとびを百かいできたよさむいふゆ          こがまなみ(小1)

一りん車たくさんのれたよふくはうち         み川たかみつ(小1)

山眠りその上またたく一等星               山口由香里(中3)

朝日あび新たなくつ音入学式                渡部祐太(小6)

ゆきがっせんころんところがりはじまるぞ      小のりょうへい(小1)

ゆきのあさつもってないかとまどあける          さかいりさ(小1)

かきぞめはゆっくりゆっくりかめさんに          大さきけい(小1)

よいとしをむかえてください二千ねん           なかみおな(小1)

ふゆのよるこっそり空からゆきがふる         あずまひろ子(小1)

なんでかなぜったいいのこりおにはそと        たかはしゅう(小1)

ゆきだるまちっちゃくなったらだるまさん         の口ゆう太(小1)

サンタさんちきゅうをまわってつかれないの        千葉凜平(小1)

もちつきを楽しむ兄弟顔にこな               田中 創(中2)

初げいこなまった体に竹刀振る               里見 慧(中2)

銀世界かがやくほうせきちりばめて           佐々木文子(小1)

ハモニカのいいおとなったよふゆの日に     ひやむ田しょうご(小1)

どんぐりさんいっぱいいるならおちておいで       こがまなみ(6歳)

すべりだいもみじもいっしょにすべろうよ        山ちよわたる(7歳)

どんぐりくんぼうしをかぶっていってきます         きし田文(6歳)

あきのよるかいものがえりのねむいみち       たかはしゆう(7歳)

のこのしまコスモスいっぱいいろのうみ      ひやむ田しょうご(7歳)

もみじのはほっぺがあかくて大わらい          なかみおな(7歳)

あきのかぜ子どもといっしょにおにごっこ       つつみゆうき(7歳)

いもほりしうんとこごっこいかえりましょ      くさやなぎひかる(6歳)

あきのかぜ木のはをとばしてたのしいの       木むらまどか(7歳)

赤や黄の葉っぱのじゅうたん七五三         立久井絢子(11歳)

以上、五・四・四・五のリズムの句は47句あります。『天為』の掲載句の合計が195句でしたから、このリズムの句は約24%の頻度で出ています。一般の大人の頻度に比べた場合、少なくはないなという感じがします。

成長して俳句世界により深く親しんでくると、たとえば、「ちっちゃく」は「小さく(ちさく)」に、「ぼうしをかぶって」は「帽子を被り」に直ってきて、定型の中七になりましょうし、「なったよ」、「のれたよ」、「できたよ」、「とべたよ」、「あそぶよ」、「ないかと」などの「よ」や「と」は外して3音に整えることでしょう。

子どもたちが自由に作りますと、実に伸び伸びと言葉を使っているように見えます。「いっぱいいっぱい」など、大人が言うリフレインなどというテクニックを知らず知らずに使ってしまい、感激を思う存分に表現しようとしている気持ちが伝わってきます。

五・四・四・五のリズムは、日本人の体内に生まれつき宿っているような気もします。体内リズムだとしてもこのリズムは、宇宙の星々の運行、特に太陽系の動きからきている身体的リズムなのか、人類の言語獲得後の脳活動リズムなのか・・・。

その後、しばらく疑問を抱きながら、このリズムについて究明の機会もないまま過ぎたある日、2001年の2月でしたが、突然、ネット上でその解決の糸口に接したように思われました。

次のホームページにそれは現れていました。

「日本の詩歌はなぜ七五調か五七調か?」(信太一郎) (※ 現在はアクセスできません。)

信太さんの紹介によりますと、「日本語は1拍の語は安定せず、2拍だと落ち着き、さらに2拍の語が2回以上繰り返されるとそこにリズムが生まれ、安定感はさらに増す」らしいのです。「4拍を2回以上繰り返すとリズムがよくなる」

それが、「五や七の奇数拍が定型となっているのは、偶数だと切り方が1種類しかなく、意味的な切れ目と一致させるのが難しい場合が多くなるから、空白拍を入れる」とのことのようでした。このことは、坂野信彦という人の本『七五調の謎をとく』(大修館書店)に書いてあったそうです。

そして信太さんによりますと2拍リズムは、中国やヨーロッパの詩にもみられ、英語では「強弱」や「弱強」などのリズムとなり、「言葉のリズムについては万国共通のものがある」としています。

また間もなく、やはり2001年の2月ですがネットの別ページで、「モロー反射」について知ることができました。

「赤ちゃんは、その成長の一時期、人類進化の経過をなぞるかのような行動を行うという説がある。そのような行動の一つが《モロー反射》だ。モロー反射とは、赤ん坊の体を落とすような感じで大人が手をゆるめた時、その子がとっさに安定を得ようとして行う抱きつき動作の事である。この動作は生後二ヶ月ほどで消え去るという事だ」なのだそうです。そしてそれは、人類が木の上で生活していた時代の名残だとも。

(鈴木健次さんの 「Tour to Babel」 第37話「のにのに」 )

モロー反射について第37話「のにのに」からの孫引きになってしまうのですが、小学生たちの俳句の中に、体内リズムのモロー反射が現れているのでしょうか。

モロー反射は危険を避ける行動らしいのですが、リズムも体感の一つです。この八音が四・四となるリズムはモロー反射の考えを入れますと、大人になってからは消えるはずでしょうけれども、大人の俳句にも五・四・四・五リズムはけっこう見られます。

人類進化の長い歴史年月から見れば言語の獲得はたかだか数万年前に遡る程度のようですが、2拍の連続である四・四リズムはなかなか消えがたく言語獲得の前から持っていた体内リズムのようでもあります。

「プロポーズあの日にかえってことわりたい」

これは、やはり2001年の2月に、新聞記事で見つけましたサラリーマン川柳です。見事な五・四・四・五リズムです。

某生命保険会社が選んだ 「21世紀に残したいサラ川ベスト10  第1位」 の句だそうです。

2001年3月に入り、『出アフリカ記 人類の起源』(クリストファー・ストリンガー、ロビン・マッキー共著 : 河合信和 訳)(岩波書店)という本を購入しました。少しずつ読んでいますが、会話と呼吸制御に触れた部分があり、あることを思い付いたのでした。

まず本の中身を紹介します。第2章の一部分です。(私が少し要約しております。)

「ケニアで発掘された150万年前のヒト(ホモ・エレクトスの少年)の骨の調査によれば、≪日常の会話の際に無意識に恩恵を受けているかなり微妙な呼吸制御を、まだ獲得していなかったのかもしれない≫」

私は、この日常会話と呼吸制御の関連部分を読んで、はっとしたのでした。詩歌のリズムも、考えてみれば確かに呼吸のリズムである、と。そして、「呼吸のリズムは心臓の鼓動そのものと連動している」と。2拍を繰り返してゆくリズムはまさに安寧状態にある心臓の鼓動の反映である、と思い付いたのでした。

そして現在のところ、無意識に出てくる八音が四・四となるリズムは、体内リズムすなわち心臓の鼓動が、人類の言語獲得後は呼吸リズムに連動する形で表われている、と結論してもよいのだとの段階までたどり着いたと考えています。五・七調や七・五調、五・四・四・五調と、心地よいリズムを持った詩歌を読むとき私たちの気持ちが和むのは、無意識のうちに心臓の鼓動と≪息を合わせている≫からなのでしょう。