立春やキリンのこぼす草光る

川越歌澄・句集『キリンは森へ』 俳句アトラス

立春やキリンのこぼす草光る  川越歌澄

百合の花咲く幾夜を寝そびれて  同  

竹の春いま来た道の消えてをり  同

錬金術師またきのこ殖やしてしまふ  同

シリウスが燃える限りは待つてゐる  同


https://tenki.jp/suppl/m_yoshino/2019/03/10/28912.html  【「知って得する季語」──「風」はなぜ「光る」のか?】 より

3月に入り、雨の日が多くなりましたね。春は気温が上がるにつれて水蒸気が発生し、遠くがぼんやり見える「霞」が風物詩のひとつ。気温の寒暖差があるのもこの時季の特徴です。

今は冬眠していた昆虫などが動き出す二十四節季の「啓蟄」ですが、同時に多くの植物が芽吹き出す明るい季節であり、日も伸びて、晴れた日には太陽がまぶしく、心地の良い風も吹いてきます。

さて、「風光る」という春の季語はご存じでしょうか? これは夏の「風薫る」と類似した言葉なのですが、そもそも風は光りませんよね(笑)。

そこで今回は、なぜこのように表現するのか、ほかにも似たような言葉がないのかなどを調べてみました。

まず、春の風とはどのようなイメージでしょうか? 言葉から想像すると、暖かくて、やさしくて、ほんわかする、そんな感じですね。四字熟語の「春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)」は、春の風が穏やかに吹く様子から転じ、性格や態度が温和な人を指す言葉ですが、やはり春の風は“気温の暖かさ”がキーワードかもしれません。

一方、「風光る」の暖かさは「春風」よりも少ないイメージはありませんか? 「光る」という動詞には、『光を反射し輝く』という意味があります。つまり、風は自ら光るのではなく、太陽の光に輝いて見える、ということなのです。

では、どんなときに「風は光る」のでしょうか?

そもそも「風光る」という季語は、江戸時代から使われ始め、明治時代に盛んになったそうで、現代でも好んで使われています。いつ使われるのかは限定できませんが、立春を過ぎた2月後半頃~3月頃になると寒気が弱まり、南からの風「東風(こち)」や「春一番」が吹くようになります。南風は同時に湿った空気を含んでいるので、今頃のような「春の雨」を降らせながら、また晴れた日には「うららかな」日和と、寒暖を繰り返しながら本格的な春になっていくのです。日差しは徐々に強くなっていき、鋭かった風もやや弱まり、風も光ってみえるようだ、という感覚的な季語の一つなのです。

「名詞」+「動詞」のユニークな春の季語

「風光る」は春を感覚的にとらえた季語でしたが、春の季語には、ほかにもユニークな季語がたくさんあります。なかでも「名詞」+「動詞」の代表的な季語をご紹介しましょう。

まだありそうな「冴返る(さえかえる)」

いったん暖かくなってから、また寒さが戻ることをいいます。「冴」は、冬の季語「冴ゆ」で、透き通るような寒さ。それが返ってきたような春の寒さのことで、暖かさに慣れた身にはこたえそう。人は甘い環境にすぐになびいてしまいますからね、ご注意を!

いくらなんでも「山笑ふ(やまわらう)」

「風光る」同様、山が笑う訳ないとお思いでしょう。が、山は笑うんです(笑)。春になると山の木々が芽吹き、花が咲き、明るく生気に満ちてきます。その山の様子を擬人化したのが「山笑ふ」。ユーモアがあり洒落た感じがありますよね。

『臥遊録』の「春山淡冶にして笑うが如く、夏山蒼翠にして滴るが如く、秋山明浄にして粧うが如く、冬山惨淡として眠るが如く」が語源で、夏は「山滴る」、秋は「山粧ふ」、冬は「山眠る」として使われています。

まさかの語源!? 「下萌え(したもえ)」

季語では「下萌」と書いて(したもえ)と読みますが、類語に「草萌(くさもえ)」や「草青む」などもあります。早春の冬枯れした大地からわずかに草の芽が萌えだすと、庭も野原も春の訪れを感じます。草萌より、大地の息吹に焦点をあてた季語ですが、どこかで聞いたことがありませんか? そう、アニメの『萌え~~!!』は、これが語源なんだとか!?

(参照:俳句歳時記(春~新年) 角川学芸出版 角川文庫/入門歳時記 大野林火・著 角川学芸出版/広辞苑/水牛歳時記)

小さな「春」を見つけよう!

いかがでしたか?一見しただけでは分からない言葉も、まさかの意味がありましたね。──言葉や漢字の成り立ちを知ることは、日常生活に膨らみを持たせてくれるはず。

目に見えない風や、四季の折々に言葉を持たせているのが歳時記です。ただ単にカレンダー通りの生活を送るのではなく、日々の生活に合間に少し意識するだけで季節の移ろいを感じることができそうですね。まずは足元にある小さな植物から見つけてみませんか?