https://style.nikkei.com/article/DGXMZO41511320Q9A220C1000000/【地球外生命、存在は確実 地上と宇宙の探査最前線】 より
近年、太陽系の外に、生命が存在すると考えられる惑星が数多くあることがわかってきた。今や問題は、地球外生命が存在するかよりも、その星をどうやって見つけるかだ。ナショナル ジオグラフィック2019年3月号「地球外生命 探査の最前線」では、その具体的なプランを科学者たちに聞いている。探査技術の進歩で、大発見の可能性はかつてなく高まっている。
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現在、およそ4000個の系外惑星の存在が確認されている。その多くが2009年に米航空宇宙局(NASA)が打ち上げたケプラー宇宙望遠鏡の観測による発見だ。ケプラーのミッションは、空のごく小さな領域にある約15万個の恒星を観測し、惑星を伴った恒星がどのくらいあるかを調べることだった。ケプラー宇宙望遠鏡の観測でわかったのは、宇宙には恒星よりも多くの惑星があり、その4分の1は「ハビタブルゾーン」と呼ばれる領域に位置する地球サイズの惑星だというものだった。
「ハビタブルゾーン」は、生命が存在する可能性のある領域のことで、極端に高温でも寒冷でもない。太陽系がある天の川銀河には少なくとも1000億個の恒星があるから、最低でも250億個は生命を宿す惑星があるとみていい。そして、宇宙には天の川銀河のような銀河が何兆個もある。
銀河系外の惑星を初観測 38億光年先に1兆個?
銀河に惑星があふれていることがわかって、地球外生命の探査に大きな弾みがついた。多額の民間資金が寄せられたおかげで、これまでよりはるかに決定プロセスが迅速で、失敗のリスクを恐れない研究プロジェクトが始動。NASAも宇宙生物学の分野に注力するようになった。大半のプロジェクトが地球外生命の痕跡を見つけることを目指す。新たな探査対象、新たな資金、コンピューターの性能のさらなる向上も見込める今は、知的生命探しが活気づいているのだ。
すばる望遠鏡での挑戦
フランス北部出身のオリビエ・ギヨンは、43歳の今、米ハワイ島のマウナケア山頂にある13基の望遠鏡の一つ、日本の国立天文台のすばる望遠鏡で観測を行っている。反射鏡の口径は8.2メートル、一枚の鏡としては世界最大級を誇る。標高4205メートルのマウナケアでの観測環境は、高さも空気の澄み具合も世界屈指といえる。
ギヨンの専門は、光のゆがみを解消する技術の開発だ。その技術を駆使すれば、すばるの巨大な反射鏡をもってしても見えないものを、垣間見ることができる。
「一番知りたいのは、そこに生物の活動があるかどうかです」。彼は空を指さして言った。「あるなら、それはどんなものか。恒星の光のなかから惑星が放つ反射光を抽出できれば、こうした疑問に答えを出せます」
まばゆい恒星の光のなかから、地球サイズの岩石惑星が反射するかすかな光を取り出そうとするのは、目を細めて、投光器のすぐ前にいるコバエを見ようとするようなものだ。とても可能とは思えないし、実際、既存の望遠鏡では不可能だ。しかしギヨンは、地上に建設される次世代の望遠鏡に特殊な装置を搭載することで、それが可能になると考えている。そして、ギヨンが開発したのは、まさにそんな機能をもつ装置だ。その名も「すばる望遠鏡用極限補償光学装置」。略して、SCExAO(スケックス・エー・オー)と呼ばれている。
すばるをはじめ、地上に設置された望遠鏡は、宇宙望遠鏡よりもはるかに大きな集光力をもつ。何しろ口径8メートル超の巨大な望遠鏡をロケットで宇宙に運ぶことなど、今の技術では不可能だからだ。しかし地上での観測には深刻なデメリットがある。大気が邪魔になるのだ。気温の変動に伴い、大気が揺らぎ、光が不規則に屈折する。星が瞬くのもそのためだ。SCExAOの仕事は、こうしたゆがみをなくすことだ。次世代の望遠鏡にSCExAOを搭載すれば、最終的には目に見える光の点として、惑星を撮像できるだろう。そして、この画像に対してスペクトル分析を行えば、生命の痕跡、いわゆる「バイオシグネチャー」を探す作業に入れる。
生命の痕跡を探せ
鍵となるバイオシグネチャーが酸素だ。地球上では、植物やある種の細菌が光合成の副産物として酸素を生成する。そのため大気中に酸素が見つかれば、かなり有望だ。最も有望なのは、酸素とメタンの両方が検出された場合だろう。生物が放出するこの二つのガスは化学反応でほかの物質に変わりやすいので、両方が存在するなら、生物によって絶えず補充されていると考えられるからだ。
ほかにも生命探しの指標となるバイオシグネチャーはある。いわゆる「レッドエッジ」もその一つ。植物に含まれるクロロフィル(葉緑素)は、人間の目には見えない近赤外線を反射するため、この波長域で反射率が急激に上昇する。赤外線望遠鏡による観測で惑星のスペクトルにレッドエッジが見られれば、そこには植生があると考えられる。ただし、ほかの惑星の植物は異なる波長の光を吸収する可能性もある。
スペクトル分析で存在が予測できるのは植物に限らない。米コーネル大学カール・セーガン研究所のリサ・カルテネガー所長率いるチームは137種の微生物の存在を示すスペクトルを調べて論文を発表した。そのなかには、ほかの惑星では当たり前の環境かもしれない地球上の極限環境に生息する微生物も含まれる。こうした研究が進むにつれ、当然ながら次世代望遠鏡の登場に熱い期待がかかる。「十分な集光が初めて可能になり、多くの謎を解明できるでしょう」とカルテネガーは言う。
地上設置型で真っ先に登場する最大の次世代望遠鏡は、チリのアタカマ砂漠で建設が進むヨーロッパ南天天文台の欧州超大型望遠鏡(E-ELT)だ。稼働開始は2024年を予定している。口径39メートルの主鏡の集光力は、既存のすばる級の望遠鏡をすべて合わせたよりも大きい。ギヨンの装置の改良版を搭載し、赤色矮星のハビタブルゾーンにある惑星の撮像も十分可能だ。
地球から約4.2光年、距離にして約40兆キロ先にある、太陽系に最も近い赤色矮星プロキシマ・ケンタウリのハビタブルゾーンには、プロキシマ・ケンタウリbと呼ばれる岩石惑星がある。「興味深い観測対象です」とギヨンは言う。生命が見つかる確率が高いのは、太陽型の恒星を周回する地球型の惑星だとギヨンら多くの科学者は考えている。ただし、地上設置型の巨大望遠鏡では、地球型惑星の光を、それより100億倍も明るい太陽型の恒星の光のなかから取り出すのは不可能だ。
そこで、現在考えられているのが、「スターシェード」と呼ばれる宇宙探査装置部品だ。完成すれば直径30メートル余りの巨大なヒマワリのような装置になる。まさに日よけだ。この装置を宇宙望遠鏡に配置することで、スターシェードの端から差し込む、地球型惑星のかすかな光をキャッチしようというのだ。
スターシェードはNASAのジェット推進研究所で開発されているが、完成は10年ほど先になりそうだ。米マサチューセッツ工科大学の天体物理学者セーラ・シーガーはこのプロジェクトを率いたいと考えている。宇宙空間に巨大な花びらが広がると、遠くにある恒星の光が遮られ、その恒星を周回する惑星の生命の痕跡を探れる。想像するだけでも、心躍る探査計画だ。
(文 ジェイミー・シュリーブ、写真 スペンサー・ローウェル、イラスト デーナ・ベリー、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック日本版 2019年3月号の記事を再構成]
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