http://minato.sip21c.org/oldlec/ecology.html 【生態学(高崎経済大学非常勤講義)】より
第1回 「生態学とは何か」
講義概要
ヘッケル(Ernest Haeckel, 1869)の造語:oikos(家庭) + logos(学)/economicsとの関係 oikos(家庭)+ nomics(管理)
生態学の定義:「生物とその環境との相互作用の科学的研究」の意味で,“生物の家庭生活” by Haeckel (1869)/「生物の分布と豊富さを決める相互作用の研究」 by Krebs (1972)/Krebsの定義のそれを,個体,個体群(同種の生物の集まり),群集(複数の個体群からなる)という3つの水準で扱う。 by Begon/Harper/Townsend (1990)
個体(organism)レベルでは…:どのように個体がその生物的あるいは非生物的な環境によって影響されるか,そしてまた,それらに影響を与えるかを扱う。
個体群(population)レベルでは…:特定の種の存在あるいは不在,その種が豊富か稀か,その個体数の変化の傾向や変動を扱う/2つのアプローチ=まず個体の属性を扱い,それからこれらがどのように結合して個体群の特徴を決定しているのかを考える vs 直接個体群の特徴を扱い,それからその諸側面を環境と結びつける
群集(community)レベルでは…:群集の成分あるいは構造を扱い,それから群集がどのようなエネルギー,栄養素,他の化学物質の経路を通るのか(群集の機能)を扱う/2つのアプローチ=その群集を構成する個体群を考えることでパタンやプロセスの理解を追求 vs 直接群集自体の性質(種多様性,バイオマスの産生速度など)を観察
生態学の広がり:生物学の中心分野の1つというばかりでなく,他の分野(遺伝学,進化学,行動学,生理学など)と重なる学際性をもつ,ただし,出生,死亡,移住といった,分布や豊富さに影響する特徴に最大の注意を払う/自然界の個体,個体群,群集だけでなく,人工の環境や,人間の影響を受けた環境や,人間の自然への影響(環境汚染や地球温暖化など)も扱う
研究の過程:観察と記述/説明あるいは理解(第1の目標)/モデルの構築/予測(第2の目標)/制御(第3の目標)
講義予定(2~8):生物と環境の相互作用(個体レベル)/生物多様性を生み出す環境条件(環境の話)/資源としての生物~生物ピラミッド(群集を記述し理解するための1つの方法)/生存と死亡の生態学(個体群レベル)/種内競争(個体群レベル)/種間競争(群集レベル)/被食捕食関係~食う,食われる関係はどういう意味をもつか?(群集レベル)
講義予定(9~13):分解者の役割(群集レベル)/寄生と病気(群集レベル)/共生(群集レベル)/人間化された生態系(発展)/人類生態学入門(発展)/後期は,「環境生態学序説」の事例を使って具体的な話を主にする予定。
第2回 「生物と環境の相互作用(主に個体レベル)」
生命が存在するための環境条件
暑すぎず寒すぎない
水が存在する→多様な地形,多様な環境
生命が利用するエネルギーは太陽エネルギーを使った光合成を元にするのが主流。
熱帯は暑いので光合成効率はよいが,蒸発量が多く,水が乏しいところが多い(とくに砂漠),極地方は寒いので水は豊かだが,凍ってしまうので液体の形で生物が利用できる水は少ないし,光合成効率は悪い。
適応放散
世界のさまざまな物理化学的環境(地形,地質,気温,湿度,降水量など)に応じて,その環境に適した生物種が存在すること。
裏を返せば,ほとんどの種は,多くの時代に大抵の場所にはいないということ。世界は,時間的・空間的な生物群集のパッチワーク。
ダーウィンは,ガラパゴス諸島のフィンチの嘴の多様性(後述)を見て,さまざまな島の環境に広がるため適応進化したと考えた。その意味で「適応放散」という
適応進化の考え方=進化論
1つの種の個体群を作っている個体は同一ではなく,形質にばらつきがある
このばらつきは遺伝する
すべての個体群は地球上に広がれる潜在能力をもっているが,そうならないのは,多くの個体が子孫を残す前に死ぬから
個体によって残す子孫の数(=適応度)が違う
その環境に適した個体ほど残す子孫の数が多い
その環境に適した形質をもった個体が増える
生殖隔離によって種分化が起こる=その環境に適した形質をもった種が固定
生物の拡散への制約条件
歴史的制約
収斂進化(まったく系統が違っても,同じ環境では似たような形に進化すること。例:海に棲む大型肉食動物は,魚類の鮫,爬虫類のイクチオサウルス,哺乳類のイルカ,鳥類のペンギンという全く違った系統の生物が,似たような流線型の体制をもっている)と平行進化(異所的であっても,同じような広がりをもって適応放散が起こること。例:約9000万年前に他の哺乳類が単孔類しかいなかったオーストラリア大陸に辿り着いた有袋類の祖先は,他の大陸での哺乳類(有胎盤類)と正確に平行した適応放散をした。似たような環境条件の場所には似たような形や大きさ,行動特性をもった生物が進化して,そのニッチを埋めたと考えられる)
バイオーム(biome):生物地理学者が認識していた地球上のいくつかの植物相と動物相の塊(ツンドラなど),海のバイオームと淡水のバイオーム
群集間の収斂と群集内の多様性
種内の種分化:エコタイプ(生態型),遺伝的多型
変化する環境(周期的,方向性,無法則)への適応
事例:飛べない鳥の適応放散,ダーウィンフィンチの適応放散(ガラパゴス諸島),亜寒帯の針葉樹林,温帯林,熱帯林,ツンドラ,サバンナ,砂漠
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Q.飛べない鳥は南半球にしかいない?
ゴンドワナランドからできたのは南半球の大陸なので,共通祖先種がゴンドワナランドに住んでいた走鳥類(講義で示したシギダチョウ,ダチョウ,エミュー,キーウィ,ヒクイドリなど)は南半球にしかいません。走鳥類以外にもカカポとかペンギンのように飛べない鳥は南半球に多いのですが,系統的には走鳥類とは遠く,天敵が少なかったことが飛べない鳥が生き残るのに適していたと考えられます。北半球でも,飛ばずに陸上を生活の場にする方が餌を得やすかったり天敵に見つかりにくかったりというメリットがあった場所では,飛べない鳥もいます(例:ヤンバルクイナ)
Q.生殖隔離とは? 形態も遺伝子も違っても同種?
種という概念にはいろいろあって,進化学の最先端の議論では「種という実体はなく,たんに分類上の操作概念に過ぎない」という意見もかなり支持者を集めていますが,少なくとも現在のところ,生物学の主流派は生物学的種概念を認めていて,2個体が同種であるかどうかは,雑種第1代が子孫を作る能力をもっているかどうかで決まります。したがって,形態や遺伝子が多少違っていても,交配種に繁殖能力があれば同種と見なすのがふつうです。
Q.肥満遺伝子があっても体質を変えることは可能?
レプチン欠損とかレプチンレセプター欠損といった場合は困難ですが,セットポイントが違うとかβ3アドレナリンレセプター遺伝子がTrp64Arg変異型だという程度なら環境因子の影響も大きいので必ず太るとは限りません。
Q.言語の違いも環境による?
これはなかなか深い質問です。環境適応が直接言語に影響したことを証明するのは困難ですが,現在見られる地域間の言語の違いは,それを話す人々の遺伝的な近縁関係をかなり反映していると考えられます。気候の変動や環境条件の違いによって人類集団の分布できる範囲が決まり,また移動が起こってきたことで,現在の人類集団の遺伝的な近縁関係が決まってきているのですから,その意味では,言語の違いも環境によると言えます。例えば以下の本が参考になります。
●鈴木秀夫(1988)「気候の変化が言葉をかえた」(NHKブックス607)
●J. グリーンバーグ著,安藤貞雄訳(1973)「人類言語学入門」(大修館書店)
Q.古細菌,化学合成細菌の詳細?
第2回の講義では説明に不明確な点があったかもしれません。ほぼ同じものを指すのですが,古細菌は,系統的に他の生物の分岐より古い時代,おそらく30億年以上昔に,生物の共通祖先から分岐した一群の生物を指します。硫黄泉などの高温・強酸環境でも生存できるものなど,おそらく原始地球の環境に適応したものが,特別な場所で生き残り続けてきたと考えられています。化学合成細菌とは,太陽エネルギーでなく,硫化水素,硫黄,メタン,アンモニア,亜硝酸などを酸化させる反応で生じるエネルギーを使って生きているという意味です。これも,原始地球の環境に適応するには必要なことでした。例えば以下の本が参考になります。
●黒岩常祥(2000)「ミトコンドリアはどこからきたか?」(NHKブックス887)
Q.環境に適さない個体はなぜ子孫が少ないのか?
早く死ぬからというのが理由の1つです。適応度という概念を説明しましたが,逆に,多くの次世代に寄与する子孫を残した種類の生きものがその環境に適応していたのだ,と考えるわけです。
第3回 「生物多様性を生み出す環境条件」(2001年4月26日)
講義概要
環境条件
定義:
時間的空間的に変化し,生物がそれらに対して違ったやり方で反応するような,非生物的な環境因子
例:
温度,相対湿度,pH,塩分,流速,汚染物質濃度
考え方:
生物種それぞれにとって,その条件でその種が最大限の能力を発揮するような最適な濃度あるいは水準が存在
温度と個体の関係~温度との関係による生物の分類
温血動物 vs 冷血動物
主観的で不正確
恒温動物 vs 変温動物
区分が曖昧
内温動物 vs 外温動物
より正確「自分の代謝を利用して体温調節のためのエネルギーを生み出すものを内温生物(endotherm),体温調節を外部の熱源に頼るものを外温生物(ectotherm)と呼ぶ」内温生物は鳥類や哺乳類,植物や菌類や原生生物は,ほぼすべて外温生物(例外はある)
外温生物における熱交換:体内の代謝,地表との熱伝導,他の生物との放射,空中への放射,太陽光線の直接放射,雲などを介した反射的放射,太陽熱で暖められた岩などからの放射,風による空中への熱放出など,外部環境の影響をダイレクトに受ける
時間と温度
生理学的時間(physiological time)
外温生物の代謝時間は,外部環境の温度によって変わって来る。そのため,外温生物を調べるときは,時間と温度を組み合わせた「生理学的時間」で考える必要がある。
例(day-degreeという次元)
例えば,ある種のバッタは外気温20℃(成長可能な閾値より4度高い)では成長に17.5日かかるが,外気温30℃(成長可能な閾値より14℃高い)だと5日で十分。4 x 17.5 = 5 x 14 = 70(=日・温)という次元で考える
刺激としての温度:冬を越さないと芽が出ない種は多い→低温曝露が発芽刺激として必要(一定の波長の光が同じ役割を果たすこともある)
順化(acclimatization):外温動物の温度への反応は,過去に経験してきた温度によって影響を受ける。例えば,数日間25℃で飼ったカエルは,数日間5℃で飼ったカエルに比べて10℃に置いたときの活動量が低くなる。こういう現象が実験室条件で見られるとき順応(acclimation)と呼び,自然条件で見られるとき順化(acclimatization)と呼ぶ。
高温:
●生物にとって酵素が活性を失って危険なほどの高温環境では,生物は生存できない
●高木が生えるところとしては夏は世界最高温度のカリフォルニア「死の谷」は,昼間の気温が50℃にも達する。desert honeysweetという多年生草本は急速な蒸散によって葉の温度を45℃以下に保ち,かつ極めて急速な光合成が行われている。
低温
●氷点下1℃未満におかれると死んでしまう生物が多い。
●植物の多くは冬になると水分を減らして硬くなり耐寒性を増す。
●10℃未満におかれると膜構造が壊れて寒冷障害を示す植物もある(熱帯性の観葉植物など)。
内温動物:内温動物は温度を効果的に調節するが,そうするために大量のエネルギーを消費する。
内温動物にとっての環境温:考えるべき要因としては,緯度の違いと季節差,高度の多様性,連続性,微気候,地中温度,といったものがある。
温度,分布,豊富さ~垂直分布と水平分布の違い
水平分布
内温動物については,近縁の種で比べると,Allenの法則(高緯度地方ほど突起部が減る)とBergmannの法則(高緯度地方ほど大きい)が概ね成り立つ。つまり,高緯度地方は寒いので,放熱しにくい形になっている。
垂直分布
ケニア山の例。低いところではアカシアの木が生える暑いサバンナとなっておりゾウのような大型草食動物が生存できるが,高いところは降水量が少なく寒冷で土壌も豊かでないので木本が生育せず,ハイラックスのような小型の動物しか生息していない。
温度の影響まとめ
●致命的な温度条件が分布を限定するかもしれないが,そこまで広がろうとするのは時々である
●分布は最適でない条件の影響を受け,繁殖,死亡などに影響する
●最適にちょっと足りない条件は種間関係を変えることで分布に作用
●上記のメカニズムが多様性をもたらす。寒冷地では最適でないが生きられるような温度範囲が狭いので,多様化はしにくかったと考えられる
その他の条件:地表環境の水分=相対湿度,土壌中または水中のpH,塩分,流速,干潟のゾーニング,汚染物質濃度など(時間の都合から詳しい話は省略した)
生態的地位(ecological niche)
●Hutchinson (1957)の考え方
●温度,湿度,流速などその生物の生存に必要なすべての条件の組み合わせ(複数次元空間として理解される)をいう
●非生物的な条件のみでfundamental nicheは決まるが,天敵がいたり十分な個体数を維持できる空間がなかったらrealized nicheとはなりえない。
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Desert honeysweetを見たい。
カリフォルニア大学バークレー校のCalPhotosというDigital Libraryのプロジェクトから参照できます(一覧)。
「死の谷」に外温動物は?
至適温度が37.5℃,砂の中を泳ぐように移動できるMojave fringe-toed lizard (Uma scoparia)のような,高温環境に適応したトカゲの類が生息しています。しかし,このトカゲも44℃あたりを超えると生存が難しいため,昼間は砂の中の湿ったところにいるようです。
極地方に外温生物は?
魚類や甲殻類,藻類などが生存しています。これらは氷点下でも体液が凍結しないように特殊なタンパク質をもっているといった,低温条件への適応をしています。
外温生物の「生理学的時間」のベースは,なぜ成長可能閾値との差であってピークとの差でないのか?
成長可能閾値より上なら,外温動物の成長速度がほぼ温度に比例して増加するためです。厳密にいえば緩やかなS字状の関係ですが,直線とほぼ一致します。バッタだけでなく,外温動物の成長はすべて基本的に「生理学的時間」で考える必要があります。
ヒトが生存できる閾値は?
ヒトは,服を着るとか,建物を作るとか,火を使うといった文化的適応手段が使えるので,氷点下70度の世界にも行けますが,裸だったら案外弱いものです。痩せた人なら,裸で動かずに2時間,5℃の外気に曝されると,意識がなくなる可能性が高いです。下北半島のニホンザルが北限のサルとして知られるように,ヒトを含む霊長目は熱帯起源なので,内温動物の中でもあまり低温環境への適応はしていないようです。
内温生物と外温生物の生存可能温度幅の差は?
基本的には内温生物の方がさまざまな環境下で安定して生存するには有利なのですが,外温生物の方が歴史が古いので,厳しい環境に適応して特殊な進化を遂げたものがいます。1つの種でいえば,一般的には内温生物の方が生存可能温度幅は広いと考えていいと思います。
外温生物でない植物は?
例えば,フィロデンドロン属の花はその代謝熱によって,比較的一定温度に保たれています。
5月3日は国民の祝日なので講義はありません
第4回「生物にとっての資源」(2001年5月10日)
講義概要
生物にとって資源とは?
●「生物によって消費されるすべてのもの」(Tilman, 1982)
●「消費」の意味が曖昧。食べられる,バイオマスに取り込まれる,という意味だけでなく,排他的に利用されれば「消費」
●例えば,リスが木の穴に住んでいれば,その穴には他のリスは入れないので,リスにとってその穴は資源といえる
資源の種類
●放射線(主として太陽光線)=生物の活動のためのエネルギー源:可視光線に限らない。緑色植物のもつ葉緑体が利用できる波長(380-710 nm)は,ほぼヒトの可視光線と同じだが,光合成細菌がもつバクテリオクロロフィルが利用できる波長のピークはは800, 850, 870-890 nmにあって,ずっと長い。可視光線は全放射線の44%。
●無機イオン,無機分子=生物体を形作るもの:二酸化炭素,硝酸,燐酸など。金属元素もいろいろ
●生物=生物体を形作るもの:植物食の動物なら植物は資源。リスにとっての木の実など
●場所あるいは空間=生物が生活史を展開する場:蜂やリスにとって木材に開いた穴など
資源としての放射線
●放射線エネルギー:太陽から植物への直接,間接の放射線の流れ。植物は光合成によって放射線をエネルギーに富んだ炭素化合物に変換し,後でそれを呼吸で使うことでエネルギーを取り出す
●植物によって捕まえられない限り失われる(最大利用効率は3~4.5%,熱帯林で1~3%,温帯林で0.6~1.2%。
●時間的(日内,季節),空間的(緯度,高度)に変動
●波長の違ういくつもの放射線の連続体。
●水供給と密接に関係
水損失を制御しつつ放射線を効率よく利用するための様々な戦略
●砂漠の一年草のように,水の豊富な時期のみ光合成をして活動し,その他の時期は種などの状態で休眠している
●雨緑樹林(例:アカシア)のように水の豊富な時期のみ葉を付け,他の時期は葉を落とす,あるいは葉の形状を季節変化させる
●水を失いにくい肉厚の葉をつける(ただし多量には光合成できない)
●植物は,光合成の中間産物となる有機酸の炭素数の違いによってC3(コケ,小麦など), C4(トウモロコシ,サトウキビなど), CAM植物(ウチワサボテンなど)に分かれるが,C4植物は細胞内の二酸化炭素濃度が低く,気孔からの蒸散が少なくても光合成効率が高い
●実は,光の強さに対する光合成効率の関係がC3植物とC4植物では大きく異なる。C3植物は弱い光でも効率が悪くない反面,光が強くなっても効率が上がらない。C4植物はその逆。至適温度もC4植物の方が高い。CAM植物は中間的(昼夜,あるいは季節的に気孔開閉を制御して水利用効率が良い)
資源としての無機イオン,無機分子
●二酸化炭素~濃度は300 ppm程度だが,毎年0.4~0.5%増加している(地球温暖化に関連)
●水~雨や雪が溶けてリザーバとしての土壌に溜められ,そこから根を通して吸い上げる。土壌中の水分布に応じて根の発達度合いが違う
●ミネラル~土壌あるいは水から直接取り込む
動物のみ必須:Na, Cl
微量元素:Mn, Zn, Cu
ある限定された生物群にのみ必須:Bo, Cr, Co, F, I, Se, Si, V
(注)この分類は,栄養学と異なるので注意,
(注2)植物が必要とするミネラルは種類としては共通で,構成比が植物毎に異なる
●酸素~呼吸に用いる
資源としての生物
●独立栄養生物を除けば,他の生物を資源として利用する
●食性による生物分類
雑食(omnivore)
植食(herbivore)
動食(carnivore)
●炭素窒素比:植物の方が動物よりも炭素/窒素比が遙かに高い。植物では40:1くらいなのに,細菌,菌類,動物では8:1~10:1程度。植物にはセルロースからなる細胞壁があることが大きいが,細胞壁以外の部分でも窒素が少ない。
●多くの植食動物は細胞壁はそのまま利用できず,腸内にいるセルラーゼという酵素をもつ細菌が分解した産物を利用する
●植物は大きく組成が異なる部分(根,種,茎,花,果肉など)の集合体だが,動物の組成は比較的均質。
●食べられないための防御を発達させている場合もある。物理的に棘をもつとか堅果とか,化学的に毒物(シアン化合物など)を含むとか,警戒色とか擬態とか。但し,「蓼食う虫も好きずき」。
資源としての空間
●空間,というのはいわゆる「かばん語」であり,空間そのものではなくて,その空間内にある他の資源が本質である場合が多いが,空間そのものを指す場合もある
●同じ資源を共有する2種の生物が共存する場合,2種は直接相手の存在に反応するのではなく,各々が作り出す資源枯渇状況に反応する(分捕り合戦=exploitation competition)のが普通だが,高等動物や鳥類では,空間をなわばり(territory)とするという形での直接の妨害競争(interference competition)に移行する
●トカゲが岩の上の暖かい場所を取り合うような場合,温度条件は消費される資源ではなく,好みなのだが,この暖かい場所は排他利用されるので,定義によって資源といえる。
資源の分類~2つの資源の関係で
●本質的な資源:置き換え不可能なもの。緑色植物にとっての窒素とカリウムなど。
●置き換え可能な資源:鶏にとっての小麦の種と大麦の種など。
●相互補完的な資源:一緒に消費すると利用効率が上がるようなもの。ヒトにとって,ある種の豆と米を一緒に食べるとタンパク利用効率が上がることなど。
●拮抗阻害的な資源:一緒に消費すると利用効率が下がるようなもの。俗にいう食べ合わせが悪いという。
●禁止的資源:一緒に消費すると致命的なもの。少量なら必須だが多量だと毒になるような資源が高レベルで消費される場合(資源でなくむしろ制約条件となる)。
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コンクリート以外のものでも二酸化炭素を吸収する? コンクリートに吸収された二酸化炭素はどうなる?
●コンクリート以外にもアルカリ性の土壌などなら吸収する可能性はあります。コンクリートが二酸化炭素を吸収した場合,コンクリート中の水酸化カルシウムと反応して炭酸カルシウム(石灰岩)になります。バイオスフィア2以前からコンクリートが二酸化炭素を吸収することはわかっていましたが,バイオスフィア2の中では空気中の二酸化炭素濃度が高く,そういう状況では外界での10倍も多くの二酸化炭素をコンクリートが吸収し,酸素と炭素を物質循環から奪ってしまったために,空気中の酸素濃度が(元々外界と同じ20.9%だったのが)14%まで低下してまずいことになったというのが予想外の事態だったようです。
【参考文献】アビゲイル・アリング/マーク・ネルソン著,平田明隆訳「バイオスフィア実験生活 史上最大の人工閉鎖生態系での2年間」講談社ブルーバックス,税別816円,ISBN4-06-257147-1
可視光線以外の放射線(赤外線,紫外線,俗にいう放射線)の生物にとっての意味は?
紫外線は,例えばヒトの体内でビタミンDが活性型ビタミンDに変化する反応に関与しています。多くの毒蛇は獲物が発する赤外線(700 nmから100000 nmの波長の電磁波で,熱作用をもつので熱線とも呼ばれます。熱をもつものは赤外線を発しています)を感知して襲います。X線などの電離放射線は細胞障害作用をもつ反面,突然変異を起こすことに寄与する可能性があるので,進化の原動力の一つとえるかもしれません。
化学的に証明されている食べ合わせは?
あまりありません。貧血対策で鉄剤を飲むとき,お茶と一緒に飲むと無機の鉄分の吸収が阻害されることは知られていますが,微々たるものです。多量に摂取すると他のものの摂取が妨げられるケースはあると思いますが,その作用は非特異的なので食べ合わせとは呼びにくいように思います。
ハエ等を食べる植物はどのような食性による生物分類になる? それらは光合成をしている?
ウツボカズラとかムジナモとかハエトリソウのような,いわゆる食虫植物と呼ばれるものは,主に取り込んだ動物を窒素源として利用し,炭水化物,つまりエネルギー源としては,他の植物と同じく太陽エネルギーを光合成で固定しています。従って,エネルギー的に見ればやはり独立栄養生物です。食虫植物にもまったく系統の違うものがあるので,これは収斂進化の一例といえます。
光が長い間空気を通ると力を失うのはなぜ?
可視光線に限らず,距離と時間と遮蔽が放射線防護の3原則と呼ばれています。放射線の影響は距離が遠いほど,曝露する時間が短いほど,遮蔽物があるほど,小さいということです。空気が遮蔽物として機能すると考えれば,太陽光が長い距離の大気を通過しなければならない高緯度地方の方が地表に到達するエネルギーが小さいのは当然でしょう。
警戒色とか擬態をする動物を見てみたい
画像の著作権の関係でイメージを表示するわけには行かないので,リンクしておきます。
自衛する蝶(擬態)では,【メスアカムラサキの♀,タテハチョウ科で無毒】と【カバマダラ,マダラチョウ科でトウワタを食草とするため有毒】の事例がわかりやすいと思います。
コスタリカの展示案内及びユカタンビワハゴロモ(頭部の拡大写真へのリンクあり)も面白いです。天敵がワニと見間違いをすることは実際にはないにしても,こんなに奇妙な形をしていることには,何か適応的な意味があったのでしょう。
CAM植物,C3植物,C4植物についてもっと説明希望。
種類 C3 C4 CAM
二酸化炭素と反応する物質 リブロース二燐酸(C2) ホスホエノールピルビン酸(C3) ホスホエノールピルビン酸(C3)
二酸化炭素固定時期 昼間 昼間 夜間
固定後最初にできる物質 3-ホスホグリセリン酸(C3) オキサロ酢酸(C4) オキサロ酢酸(C4)
光の利用 光が弱くても光合成できるが強くてもすぐ飽和 光が弱いと光合成能力は低いが強いほど活発 昼間,有機酸を分解して高濃度二酸化炭素を作り光合成
事例 イネ,コムギなど多くの植物 トウモロコシ,サトウキビなど サボテン,ベンケイソウなど
C4では,葉肉細胞中でオキサロ酢酸ができ,それがアスパラギン酸かリンゴ酸に変化し,維管束鞘細胞に運ばれて高濃度の二酸化炭素を放出し効率的に光合成を行うことに寄与。CAMではオキサロ酢酸からリンゴ酸などの有機酸に変わって液胞中に保存され,昼間の利用に供される
第5回「生存と死亡の生態学」(2001年5月17日)
講義概要
生命の生態学的事実
これまで生物同士あるいは生物と非生物環境の相互作用の話をしてきたが,今回の焦点は個体数を決めるプロセス
生命の生態学的事実として,現在の個体数Nnowは直前の個体数Nthen,出生数B,死亡数D,移入数I,移出数EとNnow=Nthen+B-D+I-Eという関係をもつ。未来についても同様。
生物の分布と豊富さを記述し,説明し,理解しようとするのが生態学の主目的だから,それに決定的影響を与えるこの人口学的プロセスは重要。
個体とは何か?
簡単に個体数と言ってしまったが,では個体とは何か? どの個体も同じように出生,死亡,移住すると考えていいのか?
昆虫など変態するものを考えれば,生活史上のステージによって「個体」が異なることは明らか。
同じステージでも,大きさ,重さ,体脂肪などに個体差があることも明らか。
個体がモジュールの集まりである場合にこの問題は顕著。
単一体(unitary organism)とモジュール体(modular organism)の生物
犬や魚のような単一体の生物は体制が決定的である。犬の脚は4本だし,バッタは6本である。ヒトは単一体の代表。精子が卵に受精して接合体である受精卵になり,子宮壁に着床し,決まったパタンで成長,発達する。基本パタンは環境によらず予測可能。
多くの植物のようなモジュール体の生物は接合子が発達してモジュールとなり,似たようなモジュールを生成する。発達パタンは予測不能で環境と関連している。動物では海綿や珊瑚がモジュール体。原生生物や菌類も。
かつての生態学や進化の理論は単一体の生物に基づいて一般化されてきたものが多いので要注意。
モジュールのカテゴリ
垂直成長する成分と水平に広がろうとする成分の2つに大別される
高木と低木はその成分の割合が違う。多くの高木の構成要素は垂直に広がっているための死んだ組織。
Obelia(オベリア属のヒドラ状生物)のようなモジュール体動物でも植物と同じく有性生殖と無性生殖の両方が行われる
モジュール体での「生命の生態学的事実」
modules(now)=modiles(then)+modular birth-modular death
モジュール体であることは個体を多様にする
モジュール体生物個体は年齢構造をもつ(落葉高木の葉は毎年死ぬが根はそうでない)
個体数を数える
個体数変化のプロセス内部まで踏み込まなくても個体数変化を数えることはできる
「人口」(population)の意味
人口密度の意味
完全な計数
サンプリング(方形区法),リンカーン法(CMR),豊富さの指標
生活史を見る
生命表と生存曲線~死亡
妊孕力スケジュール~出生
いろいろな生活史:図示(1年生か多年生か,一生に一度だけ繁殖してその後死ぬsemelparousな生物か,繁殖しても死なず何度も繁殖するiteroparousな生物か,による区分)
いろいろな生命表(計算方法や考え方は難しいので,わからない学生が多ければ来週フォローする予定)
コホート生命表
静態生命表
生命表と妊孕力スケジュールから計算される基本増殖率 R0=Σlxmx
繁殖戦略と生存曲線:図示(生存曲線の形が,ヒトのように矩形化した上に膨らんだタイプか,対数軸での直線に近い,つまり生活史を通じて死亡率がほぼ一定の植物に多いタイプか,それとも魚のように生まれてすぐに大量に死んでしまうために大量に産卵する,下に膨らんだタイプか,という話)
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リンカーン法について詳細説明希望
正確には一般名称を「標識再捕獲法(Mark-recapture methods)」というのが普通のようです。基本的アイディアとしては,ある集団からn1匹の動物を捕まえてマークをつけて放し,暫く待ってそれが完全に元の集団と交じり合った頃を見計らってもう一度n2匹の動物を捕まえたとき,そのうちm2匹にマークがついていたとすると,元の集団全体の個体数がN(未知)だとすれば,n1/N = m2/n2という比例関係が成り立つと考えられるので,N = n1n2/m2と変形すればNが推定できるというものです(実際には統計的な理由によりN = (n1+1)(n2+1)/(m2+1)-1とします【Petersenの方法】)。チンパンジーなど個体識別ができる場合はマーキングは不要で,1回目にn1個体,2回目にn2個体を観察して,m2個体が重複していたら,上と同じ式で全個体数Nが推定できます。マーキングと再捕獲を繰り返すことで推定精度を上げる方法がいくつも考案されています(例えばSchnabelの方法,BurnhamとOvertonの方法など)。マークとしては,鳥だったら番号を付けた足輪とか,蛾だったら捕獲場所ごとに違う色の何色かのペンキで点をつけるとかいった方法があります。2種類のマークAとBを使えば,マークAが消えた確率は,Bが付いている個体の再捕獲率を,それ自体とAとBの両方が付いている個体の再捕獲率の和で割った値として推定できます。マーキングが死亡率や行動に影響を与えてしまうとまずいので,そうならないような注意が必要です。また,捕獲される個体が偏らないようにするために,捕獲装置の質や量にも注意しなければなりません(例えば目の粗すぎる網で昆虫をトラップすると小さい個体の数を過小評価してしまいます)。また,この方法は基本的に最初の捕獲と再捕獲の間で他の集団との出入りがなく出生や死亡も無視できるくらい小さいという意味で「閉じた」集団であることを仮定していますが,実際にはそうでないのが普通です。Jolly-Seber法など,これを補正するための方法も考案されています。
豊富さの指標(index of abundance)とは?
相対的な集団サイズを示すもので,いろいろな値が考えられます。絶対値を示すものではありません。ショウジョウバエの豊富さの指標は,例えば,標準的な餌を使った誘引トラップで毎日捕獲される数として得ることができます。また別の例としては,捕獲船のトン数・日数当たりのクジラの捕獲数は,クジラの豊富さの指標になります。絶対値はわからなくても,長期間同じ値を調べれば,変化の傾向を知ることはできるので価値はあります。
生活史による生物分類
出生と死亡との関係でいえば,生物の生活史は5つのパタンに分けられます。一年生の生物(図のa~d),世代が重なる一生に一度しか繁殖しない生物(図のeとf,例えば17年ゼミ),個体間に繁殖期のずれがあってずっと子を産みつづけるようにみえる一生に一度しか繁殖しない生物(図のg),世代が重なる,一生のうちに何度も繁殖する生物(図のhとi),ずっと繁殖しつづける生物(j,例えばヒト)です。
生命表と平均余命について
x歳平均余命とは,x歳以後平均してどれくらいの期間生存するのかという値ですから,x歳以降の延べ生存期間の総和(Tx)をx歳時点の個体数(lx)で割れば得られます。延べ生存期間の総和は,年齢別死亡率qxが変化しないとして,lx(1-qx/2)によってx歳からx+1歳まで生きた人口Lx(開始時点の人口が決まっていて死亡率も変化しないのでx歳の静止人口と呼ばれます)を求め,それをx歳以降の全年齢について計算して和をとることで得られます。ヒトの人口学では年齢別死亡率からqxを求めて生命表を計算するのが普通ですが,生物一般について考えるときは,同時に生まれた複数個体(コホート)を追跡して年齢別生存数としてlxを直接求めてしまう方法(コホート生命表)とか,たんに年齢別個体数をlxと見なしてしまう方法(静態生命表,偶然変動で高齢の個体数の方が多い場合があるので平滑化するのが普通)がよく行われます。ヒトの場合は個体数変動が大きいので,現在人口しかわからないような無文字社会での短期的な研究でも,年齢別人口を少なくとも2回調べてその差から年齢別死亡率を推計し,あくまで死亡率から計算します。
生存曲線のType IIについて
Type IIの動物はヒドラなどです。年齢別生残数の自然対数をとった値の年齢別生残数で重み付けした平均値の符号を逆転させたもの(死亡エントロピー指数)が0.5になります。Type Iの実験室のショウジョウバエとか先進国のヒトなどは死亡エントロピー指数が0に近く,Type IIIの牡蠣とか魚などは死亡エントロピー指数が1を超えます。
草食動物と肉食動物で生存曲線が違う?
食性との関係よりも産仔数との関係がはっきりしています。産仔数が多い種は若齢での死亡率が高いため生存曲線の形はType IIIに近くなり,逆に産仔数が少ない種は多くの個体が高齢まで生きて皆同じような年齢で死ぬ「生存曲線の矩形化」が起こってType Iに近づく傾向にあります。
単一体にはモジュールはないのか?
単一体の場合,ある意味では,生殖細胞は体細胞とは別のモジュールと考えていいと思います。
obeliaってどんな生物?
和名はオベリアクラゲというようです。生活史の中で,ポリプ状の無性世代とクラゲ状の有性世代が世代交代します。The double life of obelia(MICROSCOPY UKという英国の顕微鏡写真に関する団体のサイトにある文章),写真(アイオワ州立大学のサイトから),生活史(シカゴ大学のサイトから)などが参考になります。
参考書,推薦テレビ番組の紹介希望。
第1回に回覧したものの他に,もうじき発売される(2001年5月30日刊行予定),鷲谷いづみ「生態系を蘇らせる」NHKブックス,916,227ページ,税別920円,ISBN4-14-001916-6はお薦めです。いろいろな環境に生きる生物を見たい方にお薦めするテレビ番組としては,NHK総合の月曜夜20:00-20:43「地球!ふしぎ大自然」がいい感じです。チンパンジーに関していえば,TBS系日曜夜20:00-21:00「どうぶつ奇想天外」で時折放映されますが,それを監修している西田利貞教授(京都大学)は世界でも5本の指に入るチンパンジー研究者で,物凄く貴重な映像が出ることもあります。
食虫植物の捕虫嚢に昆虫以外のもの,例えば牛肉を入れたらどうなるか?
やってみた事例を知らないので確かではありませんが,タンパク質を分解する酵素を分泌しているわけですから,消化されると思います。
第6回「分布のパタン,移住,拡散,種内競争」(2001年5月24日)
講義概要
移住と拡散の意味
・厳密な区別はない
・どちらも生物の移動のある側面を表すコトバ。
・移住(migration)は,ある1つの種に属する多数の個体が1つの場所から別の場所に一方向性の移動を行うときに最もよく用いられる(例:鳥の渡り,ウナギの成長に伴う回遊,潮干帯の生物の時間移動)
・拡散(dispersal)は,複数の個体が他の個体(多くの場合,親あるいはその他の血縁個体)から離れて広がることを意味するときに用いる。能動的なものだけでなく,受動的なものも含む(例:植物の種やヒトデの幼生が親から離れて漂いだす,草原のハタネズミが他のハタネズミの移動とは反対側にバランスをとるように移動する,列島の上を陸鳥が生活場所を探して移動する)
分布のパタン
・移住や拡散といった生物の移動は,生物の分布のパタンに影響する
・分布のパタンには次のものがある
ランダムな分布:個体同士が互いに他個体の存在に影響しない場合
規則的な分布:互いに他個体を避ける場合
集中分布:生息場所のところどころに個体が好む環境条件や資源が偏っている場合
移住のパタン
・何度も往復する場合
表水層と深水層の間のプランクトンの日内移住
コウモリなどの採餌場所と休息場所の間の日内移住
カエルなどの水と陸の間の年間移住
鹿などの高地と低地の年間移住
カリブーのツンドラと北半球温帯林の年間移住
・1往復のみの場合
ヨーロッパの池や川とサルガッソー海のウナギの移住
ヨーロッパの川と大西洋の間の鮭の移住
蝶の幼虫の居住環境と成虫の居住環境の間の移住(産卵のときに幼虫の居住環境に戻る)
・片道切符の場合
ある種の蝶(例えばVanessa cardui)の北欧と南欧の間の移住(夏,英国に着いてそこで産卵した個体はそこで死に,卵から生まれた次世代の蝶は南に飛んで地中海に着き,そこで繁殖する。
拡散のパタン~探索的発見と非探索的発見としての拡散
・植物の種の飛散は,非探索的発見。受動的。
・動物にも非探索的発見として拡散するものもいる(池のミジンコなど)。
・中間的な発見として拡散するアリマキ(有翅型でさえ飛翔力が弱いので探索とは呼べない)
・英国のツバメの一種(sand martin)が探索的発見を求めて拡散するなど,探索的拡散は多いと思われるが,何種類の生物に見られるのかはデータがない。
拡散の効果
・分布域を広げ,遺伝的多型をもたらす
・他殖の可能性を上昇させる
・リスクヘッジ(時間的拡散としての休眠,例えば植物が種の状態で休眠するとか)
種内競争~ここからは個体群レベルの話
・同種の個体は生存,成長,再生産のために,きわめて似た要求をもつ。これらの要求を全て満たす資源が十分に供給されないとき,これらの個体は競争を始める。
・一応の定義「競争は個体間の相互作用の1つで,供給が制限されている資源の欲求がかち合うことでもたらされ,それらの個体の生存,成長,再生産を低下させることにつながる」
種内競争の特徴
・究極の効果は出生力低下と死亡率上昇
・多くの場合,新たな資源を開発することにより資源のオーバーラップを避けようとする。しかし,互いに資源利用を妨害する場合も多い。
・一方的相互関係:強くて早い個体が勝つ
・競争が適応度を増す場合もある
・密度依存性
密度依存の死亡と出生
・密度がある程度低いうちは,死亡率は密度と独立。ある程度密度が上がると,密度とともに死亡率が上昇する。これを密度依存の死亡率と呼ぶ。しかし密度依存で死亡率が上昇しても暫くは出生数が死亡数を上回るので密度は上がり続ける。さらに密度が上がると死亡率の上昇が急になり,「過補償」状態になって密度は低下する。ちょうど補償するところで密度は定常になる。
・出生についても,密度がある程度低いうちは独立で,ある程度上がると出生率が下がり始め,ちょうど補償する点に収束する。
人口支持力(carrying capacity)
・ちょうど補償する場合,密度は一定値Kに収束する。この値を人口支持力または環境支持力と呼ぶ。
ロジスティック成長
・人口密度が十分に低いとき,個体群の人口増加速度は,現存量,すなわち現在人口に比例する。dN/dt=rNとなるので,指数関数的な人口増加(マルサス的成長)が起こる。
・密度が高くなってきて人口支持力に近づくと,人口増加速度は,現在量だけでなく,人口支持力と現在量の差の人口支持力に対する割合にも比例するようになる。これによって人口増加はS字状のロジスティック曲線になる。これをロジスティック成長という。dN/dt=rN(K-N)/K
・上記は連続時間で考えていいときに成り立つが,離散時間で考えねばならない場合は,差分方程式なるので,rの値によって大きく人口増加の様子は変わる。いわゆるカオスになる。
・さらに,密度効果がすぐに出生率や死亡率に影響せず時間遅れがある場合も,数理生物学の分野でいろいろ考えられている。基本的に減衰振動となる場合が多いように思う(ちょっと自信なし)。
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時間的拡散としての休眠の周期は? 長いものはどれくらい?
大賀ハス(写真が載っているサイト)というのを聞いたことがないでしょうか? 縄文時代に咲いてできた種が何千年も休眠していたものを,大賀一郎教授が昭和26年に咲かせたものです。その他にも,種の状態でならかなりの長期間休眠していることが可能な宿物はいくつもあります。
チンパンジーはどこで個体識別できる? もし微妙な顔の違いなら,どうしてそれが鳥では不可?
鳥でも個体識別できる場合もあるようです。しかし渡り鳥などでは,個体識別ができるほど長い時間その場所にとどまっていないことが多いです。
ランダムな分布と規則的な分布の違いは分布の形だけ? 基本的には同等では?
ランダムな分布は他個体と無関係な場合,規則的な分布は他個体と避けあう場合に成立します。
種内競争で「早い個体」の意味は?
成長が早いという意味です。
リスクヘッジとは?
危険を分散するということです。
ロジスティック成長は他種との関わりがあるとどうなる?
第7回と第8回にお話しします。
生物の絶滅が予測できるのはどれくらいまで個体数が減ったとき?
保全生態学の分野でMVPという理論があり,50個体を切ると絶滅の危険が相当高いことが数学的に示されています。レッドデータという言葉を聞いたことがあると思いますが,最近のレッドデータはMVP理論に基づいています。
ヒトは種内競争している? 種内競争している有名な種は?
他人の存在が自分の生存に影響しますから,種内競争しています。サバクワタリバッタのように,群集相と孤独相の相変異をする生物は,密度によって見た目が変わるという意味で,種内競争の様子がわかりやすいです。
ヒトが持ち運ぶことで受動的に移動した動物は受動的拡散といえるか?
言われてみれば,そう言えそうですね。
ヒトデなど水中生物は子育てしない? 渡り鳥や鮭は方向感覚や地理感覚をもっている?
この辺りの話に深入りすると動物行動学や生理学の話になってしまうのですが,渡り鳥は視覚で,鮭は嗅覚で場所がわかるといわれています。
プランクトンは何のために日内に上下動するのか?
植物プランクトンが昼間は光合成のために上層へ,夜は燐など他の栄養素が下層に溜まっているので下層へ移動し,動物プランクトンはそれを追うのだと考えられています。
再生産とは?
ほぼ「繁殖」と同義と思って良いです。出生との違いは死亡も考慮することです。
ロジスティック成長と高校で習ったロジスティック曲線は同じ?
同じです。
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