俳句と栗

http://kigosai.sub.jp/archives/4045 【栗の花(くりのはな)仲夏】 より

【子季語】

花栗、栗咲く

【解説】

ブナ科の落葉高木。雌、雄同株で長い雄花の花穂の下に短い雌花 がつく。雌花は受粉すると栗のイガになる。梅雨どきに木を覆う ように淡黄白色の花穂が垂れ下がり独特の青臭い匂いを放つ

【科学的見解】

栗(クリ)は、北海道西部から九州の丘陵地や山地に生育している。クリの花は、虫媒花であるため、独特の匂いを放つことでハエやアブなどの昆虫を惹きつけ、効率的な受粉を行っている。クリは、日本原産の果樹であり、縄文・弥生時代の頃から食用もしくは建材として利用されてきた。クリの仲間としては、外国原産のシナグリやヨーロッパグリなどが挙げられる。(藤吉正明記)

世の人の見つけぬ花や軒の栗   芭蕉 「奥の細道」

逗留の窓に落つるや栗の花    去来 「続有磯海」

闘ひし牛とりこめぬ栗の花    河東碧梧桐 「碧梧桐句集」

母屋から運ぶ夕餉や栗の花    杉田久女 「杉田久女句集」

栗の花紙縒の如し雨雫      杉田久女 「杉田久女句集」

門口や夕日に見ゆる栗の花    松瀬青々 「妻木」

むせかへる花栗の香を蝶くぐる  前田普羅 「飛騨袖」

栗の穂のおのおの垂れて月明り   長谷川素逝 「暦日」

花栗のちからかぎりに夜もにほふ   飯田龍太 「百戸の谿」

http://poetsohya.blog81.fc2.com/blog-entry-210.html  【をとこにて栗の花咲く樹下にゐる  鬱情の香の満つる真昼を・・・・・・・・・・・・木村草弥】  より

この歌は私の第一歌集『茶の四季』(角川書店)に載るものである。「栗の花」というと少し説明が必要だろう。栗の花は、ちょうど男性のスペルマの臭いと同じ香りを発する。だから栗の花というと、文学的には「精液」あるいは「性」の暗喩として使われることが多い。

栗の花が咲くのは梅雨前のむせかえるような時期で、男性のスペルマのような特有の青臭い臭いを甘たるくしたような臭いは、嗅いだ人でないと理解できないかも知れない。

だから、私の歌も、そういう「喩」を前提にした歌作りになっている。この歌の収録される項目の名が「フェロモン」というのから察してもらいたい。

写真②は図鑑から拝借したものだが、雄花と雌花を一緒に見ることが出来る。字で説明してあるのでわかり易い。雌花の棘のようなものが、のちに栗のイガになる。

kuli2栗の花

栗咲くと森のいきものなまめける・・・・・・・・能村登四郎

栗咲くと面のすさぶ翁かな・・・・・・・・飯島晴子

栗咲く香血を喀く前もその後も・・・・・・・石田波郷

栗の花ふり乱すなり多佳子の忌・・・・・・・・平畑静塔

栗の花ねつとりと粥噴きこぼれ・・・・・・・・橋間石

まどろめばあの世の栗の花匂ふ・・・・・・・・滝春一

ここに引用した六つの句などは、先に書いた「栗の花」の意味する「喩」のイメージで作られていることは、間違いない。

このような「イメージ」「喩」については西欧文学でも同じことであって、向うでは、もっと徹底していて、それらを「イメージ小辞典」として一冊の本にまとめられていたりする。

以下、栗の花を詠んだ句を引いて終わる。

 栗の花脚の長さは尚ほ仔馬・・・・・・・・中村草田男

 栗咲けりピストル型の犬の陰(ほと)・・・・・・・・西東三鬼

 ゴルゴダの曇りの如し栗の花・・・・・・・・平畑静塔

 赤ん坊に少年の相栗の花・・・・・・・・沢木欣一

 花栗のちからかぎりに夜もにほふ・・・・・・・・飯田龍太

 栗の花匂ふとき死はみにくいもの・・・・・・・・桂信子

 栗咲く香この青空に隙間欲し・・・・・・・・鷲谷七菜子

 中年や栗の花咲く下を過ぐ・・・・・・・・神蔵器

 栗の花より栗の実がうまれけり・・・・・・・・平井照敏

 父いまもゴッホを愛し栗の花・・・・・・・・皆吉司

 老人に花栗の香の厚みかな・・・・・・・・橋本郁子

神代より産したる苔や栗笑ふ  高資

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