http://www2u.biglobe.ne.jp/gln/35/3505.htm 【竹文化】 より
祭られる竹
△神の依代ヨリシロ
かつて天照大神が天の岩戸に閉じ篭られましたとき,八百万の神々の代表として天鈿
女命アメノウズメノミコトが天の香具山カグヤマに生える笹葉をとって舞い踊られ,その楽しさの騒
ぎに誘われてついに岩屋から大神をお連れ出すことに成功しました。これが神楽の始ま
りです。神楽を舞うときの「ささ・ささ」というかけ声を神楽声ササゴエと呼び,万葉集
には神の枕詞に神楽浪ササナミというところからみますと斎小竹イワウササ,すなわち笹を神聖
なものと考えた証左とみることができます。笹は神の言を人に伝える呪力を持つものと
して,巫女が笹の枝を持ち,村里に現れて神楽を演じたのが能楽,舞楽の始まりになっ
たといわれています。
このように笹は神の依代ヨリシロとして,一番神がのりうつりやすく,悪魔を追い払おう
として何千年後の今日まで神聖なものとして地位を守り続けています。例えば地鎮祭で
は,祓所の四方に斎竹イミタケを立て,注連縄シメナワで張り渡し,不浄を防ぎます。
近畿地方の新盆の家では,新葉をつけた4本の竹を軒下に組み,中程に青竹か笹葉で
小屋を組いで位牌をお祭りします,霊魂の昇天のためのアラタナ行事があります。
中国地方から北陸での頭屋カシラヤの神宿では,1年生のマダケかハチクの青竹の先に御
幣や神符をつけてお祭りする頭屋神事が行われています。
豊年を祈願する田植祭りでは,皇太神宮の竹取神事や,田んぼの水口に笹を立てて神
々に祈る神事,1年生の青竹に新苗を立てて清めたり,神田に立てて穢れるものの触れ
ることを禁じる神事,笹を畑に立てて野菜の虫除けする神事などがあります。
四国石槌山のイシヅチザサで無病息災や作物の防虫の祈願,七夕には青竹に願いごと
の短冊をつけたり,お正月には松とともにマダケを門口に並べて立てて新春の寿ぎと無
病息災の祈願などもあります。
竹をご神体とする笹神様や竹神様,竹箭をご神体とする矢祭神社,箆宮ヘラノミヤ神社な
どがあります。神社の境内に熊笹の神事,又は湯立てがあります。青竹に注連縄を張っ
た中で神事が進みますと,大釜に沸かした熱湯に神主又は巫女が熊笹の小枝を束ねたも
のを入れて,その湯だまを軽快な囃にあわせて,参詣人の善男善女に振りかけます。そ
の湯がかかった人はその年は無病息災で過ごせるといわれています。
秋田県仙北郡のマタギの留守家族は,無事と豊猟を祈って,「コヤマダケ ネザサ
サネノタマリミズ ワガミニサンド アブランケン ハカ」と唱え,笹葉を水に浸して
体にかけて清める笹垢離ササゴリをします。愛知県では笹垢離をすると,灯火による火災
を免れると伝えられています。
このほか前述の笹舟信仰などもあります。
△清涼殿の竹(呉竹と河竹)
兼好法師の「徒然草」に,”呉竹クレタケは葉細く,河竹カワタケは葉広し,御溝ミカワに近き
は河竹,仁寿殿の方によりて植えられたるは呉竹なり。”とあります。
この河竹は,御溝竹ミカワタケの前略で,この竹はいつまでも竹の皮を落とさないところ
から皮竹から派生した名前で,メダケのことです。
現在の呉竹はホテイチクですが,これは中国渡来のものでその後に植え替えられたも
のです。当時は筍を貴重とし,また観賞価値からハチクであるとは明白です。
〈文化財として〉
△竹紙
正倉院文書などに竹幕紙チクバクシが使われています。これを再現してみました結果では,
マダケなどの皮の下部の軟らかく白い部分を漉いて作りますと,黄色で染紙ソメガミのよ
うに仕上がります。
△物差作り
兵庫県氷上ヒカミ郡山南町は物差しの産地です。マダケの直径8㎝以上の3~4年生の
ものを使用することになっていましたが,最近ではモウソウチクが使われています。
△うちわと竹
団扇ウチワは,始めは各神社の神官の内職に作られた高位高官の使用するものでした。
江戸時代以後からは庶民も使用するようになり,香川丸亀で主に作られています。マダ
ケの青竹を用い,骨は32本と決まっています。
扇は滋賀県安曇アド川町が有名です。団扇は寒伐り,竹稈の下の方1~2mのところを
使いますので高くつきますが,扇は薄く剥ぎますので伐る時期を問わず,稈も細いとこ
ろまで使えます。
△名作―柄杓
茶の湯のときの柄杓ヒシャクは,マダケの稈を用います。通常,湯を汲み入れるために柄
がついていますが,その繋ぎ目を合ゴウといいます。ここが一番力の入るところですの
で,竹材の最も硬いところへ柄を挿入することとなります。この一番硬いところは芽の
ある位置(芽溝部)になり,竹筒の内側を見ますとかすかに上から下へ突きだした線が
ありますので,その部分に柄を取り付けます。
△麻雀碑パイ
麻雀碑の裏打ちしてある竹は,無施肥のマダケ薮から4~5年生の太い傷のないもの
を冬期に伐り出します。モウソウチクは2級品で,かつ音が冴えないです。
〈文化遺産として〉
△馬連バレン
馬連は,木版に紙を載せ,紙にまんべんなく墨がつくように紙の上(紙の裏地)をこ
する道具です。
馬連は,はじめバレンの細根を用いて刷毛としたといわれていますが,その後改良さ
れて竹の皮を裂いて細い縄としてこれを渦状に巻き,円い板を添えて竹の皮で包んだも
のです。竹の皮はカシロダケ(皮白竹)といってマダケの竹の皮の黒斑のないものがい
いとされています。これは柔軟性が最も大きく,強靭だからです。
△篠懸スズカケ
篠懸は,奈良県大台が原大峰山オオミネヤマの山伏が登山修行のとき,雨霧を防ぎ,2~3
mにも及ぶスズタケの硬い葉で手足の傷つくことを防ぐために着たものです。
△竹簡
竹簡は,中国で105年に紙が発見される以前に用いられた書写材の一つです。竹簡は,
バンブーの節を切り落とし,長さ20~50㎝,幅数㎝に揃えて切って札をつくり,これに
一行書きします。札の上端,又は両端に穴をあけて革紐などを通して点綴テンサツしたもの
を策とか冊といいます。
わが国では木簡は見つかっていますが,竹簡は発見されていません。
△エジソンと日本の竹
明治12年,エジソンが白熱電球の実験中,その発光体として使用した炭素は,塵捨て
場で焼け残った炭化した日本産のマダケの団扇の骨でした。
△鯉のぼり竿
竿の長さは,鯉のぼりの長さの1.5倍程度です。マダケやモウソウチクの青竹がよく,
枯れると弾力がなくなって折れやすいです。
△継ぎ竿
継ぎ竿の産地としては,埼玉県川口市や和歌山県橋本市などが有名です。
継ぎ竿は5~6本を継ぎますが,細い先端はマダケを細く削ったヒゴか,ノホテイを
用います。2~3番目はスズダケ(高野竹),4番目以下は次第に太くなりますのでヤ
ダケ,ときに5番目にメダケを使うときもあります。
△桂離宮の竹の利用度
桂離宮の,正面入口に立ちますと,竹垣は左右に延々と伸び,縦に巨竹を,横にモウ
ソウチクの小枝をあしらって力強い簡素な美しさを表現しています。桂川の流れに沿っ
た左岸には,マダケを生きたまま曲げて作った生垣,この生垣はマダケの枝条が美しく
おおらかな曲線をつくり,盛り上がったじゅうたんのように逞しい生命力を内蔵してい
ます。その美しさにまず圧倒されます。
一方,屋敷内に入りますと,簡素ながら美しい御幸門ミユキモンで,この屋根裏の繊細な
押さえ竹,屋根には強く,どっかり乗った太い飾り垂れなど,太さが部位に応じて変わ
っています。ここの門をくぐりますと,書院の姿が見えますが,檜皮ヒカワ葺の竹釘,廊
下の天井の桁と竹釘,竹の窓,それに竹桶が見事な建築の美しさを醸し出しています。
続いて新御殿の前に立ちますと,床下の背高の竹格子を使った清潔さに溢れる美しさが
あります。御幸門の仕切り塀を飾った竹の押さえの利いた土塀,竹天井の押さえの利い
た山上のまんじゅう亭など,竹の巧妙な使い方は,ただ感動の一語に尽きる日本建築の
美しさです。
松葉亭を覗きますと,すすけた竹の蓮子窓,下地窓など,侘びで囲まれた小座敷から,
突き上げの月光窓には,縦横に古びた竹の幾組かが乱雑に混じっているのに,静寂と明
るさが漂っています。
蛍池の路地を歩きますと,敷石に沿って割竹を曲げて作った弱々しいたけ垣の繊細さ
が,美しさをいやが上にも引き立てています。
また,峠の茶屋の賞花亭の高さ3mにあまる大きく丸出しにした壁骨を開いた窓の趣
向も,明るくて面白いです。さびた竹,苔むした水鉢の環境など,一層の風情を添えて
います。
月波楼へ入りますと竹の桶,濡れ縁の丸竹の四角な竹の窓,天井の細い竹でススキの
茎を押さえた軽快な美しさは,草屋根の陰気さがなく明るいです。いま,濡れ縁の前に
立って,敷き詰めた竹を眺めていますと,ほぼ等しい竹が芽のある側を横にして並び,
節の位置の違いは,一見乱雑なようですが,節の一つ一つが集まってとても美しいです。
縦と横のアンバランスがかえって全体としての豊かな調和を生み出しています。
桂離宮全体を見学していえますことは,竹の桶が多く,とかく陰気になりやすい萱葺
きの室内を,明るく静寂にするために,いろいろな形式の竹窓が多く,桶とともに,実
用的な必要を満たしていると同時に,見事な建築の形式をなしていることです。
〈竹の伝承〉
△白と黒
白と黒の違いです。
白 黒
高知の竹材業者 白とはハチク材 黒とはマダケ材
竹材の油抜き ハチクは真っ白に乾き上がる マダケは黒味が残る
京都の竹材商 硬い良材を白といい 軟材をアオコという
筍の味 ハチクは皮が薄紫色で美味しい マダケは皮に大きい黒斑ができ苦
みがある
白い丸々とした紡績形で,中央部 黒味で株元が太く味のえぐいもの
の著しく太いものをシロコという をクロコという
土中のものは黄白色 砂質土壌や,地表に出て日が当た
ると黒味がかる
黒味とえぐ味のホモゲンチジン酸
とは平行して表れる
京都産のものをシロコという 東京辺りの火山灰産の黒いものを
熊という
熊はアクが強く肉がしまって男性
的で水分が少なく,しなびること
が少ないので遠方へ輸送しても味
が変わりません
参考 「竹」法政大学出版局
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