布斗麻邇(ふとまに・言霊学)講座 ⑨

https://sites.google.com/site/ametutinokagami/wa/bu-dou-ma-er-futomani-yan-ling-xue-jiang-zuo  【布斗麻邇(ふとまに・言霊学)講座】 より

その九

 古事記「島生み」の章の文章を先へ進めます。

 次に津島(つしま)を生みたまひき。またの名は天の狭手依比売(さでよりひめ)といふ。次に佐渡(さど)の島を生みたまひき。次に大倭豊秋津島(おおやまととよあきつしま)を生みたまひき。またの名は天つ御虚空豊秋津根別(みそらとよあきつねわけ)といふ。かれこの八島のまづ生まれしに因りて、大八島國(おほやしまこく)といふ。

 然ありて後還ります時に、吉備(きび)の児島(こじま)を生みたまひき。またの名は建日方別(かたひかたわけ)といふ。次に小豆島(あづきしま)を生みたまひき。またの名は大野手比売(おほぬでひめ)といふ。次に大島(おほしま)を生みたまひき。またの名は大多麻流別(おほたまるわけ)といふ。次に女島(ひめじま)を生みたまひき。またの名は天一根(あめのひとつね)といふ。次に知訶島(ちかしま)を生みたまひき。またの名は天の忍男(をしお)といふ。次に両児(ふたご)の島を生みたまひき。またの名は天の両屋(ふたや)といふ。

 古事記の島生みの章の文章はここで終ります。さて、前号の解説は島生みの始めの淡路の穂の狭別の島に始まり、伊予(いよ)の二名(ふたな)の島、次に隠岐(おき)の三子(みつご)の島、筑紫(つくし)の島、そして次の伊岐(いき)の島と続きました。そして以上の五島が、既に解説を終えております人間精神の先天構造を構成する十七言霊の五段階の組織の、一番上から夫々の段階が精神宇宙の中に占める位置と内容を説明した島の名前であることが明らかにされました。即ち先天構造の天津磐境は以上の五つの島が示す五段階の構造であることが明示されたわけであります。

 そこで今回の講座は、先天構造の内容と組織が明らかにされましたから、当然その先天構造の活動によって生まれて来る人間精神の後天構造のお話に入って行くことになるのですが、古事記の記述が「子生み」より「島生み」を先に取上げておりますので、順序が逆になっておりますから、これより続々と生まれて来る島々の解説をしましても、その島の位置する後天現象の子音が未だ生まれていない今では、文章が混乱すること必然であります。とは言え、今後の島の出現と生まれ出て来る子音の関係について何もお話しないでは更に何が何だか分らなくなることともなりますので、今後お話申上げます島と子音との関係を大雑把にお話して、子生みのお話に入ってから、島と子の関係を詳しく解説することで御了解を得たいと思います。

 心の先天構造の五段階に関係する五つの島が明らかになりました。その次に古事記は次々と九つの島を生みます。そして島生みが終りますと、先天の活動によって三十三個の子音(神)が生まれて来ます。ここで本講座の初めに書きました島生みの文章を御参照願います。先天構造との関係の五島に次いで、三つの島の名が出て来ます。津島、佐渡の島、そして大倭豊秋津島の三島です。この三島が生まれ出て来る後天三十三言霊(神)の三つの区分の位置内容を指示する島名であります。

 それでは残った六つの島の名は何を指示するのか、ということになります。古事記はこの後、生まれた先天十七言霊、後天三十三言霊計五十言霊を総合し、整理し、運用して、最後に人間精神が到達すべき最高の精神性能である「禊祓」の法を明らかにして行きます。その整理、運用の段階が六段あり、その夫々の段階を区切り、説明するために六つの島名を当てているのです。古事記の文章の「然ありて後還ります時に」に続く吉備の児島、小豆の島、大島、女島、知訶の島、両児の島(きびのしま、あづきのしま、おほしま、ひめしま、ちかのしま、ふたごのしま)の六島名がそれを明らかにします。

 以上のような訳がありますので、古事記の島九つの名前の示す位置、区分、内容の解説は、生まれ出て来る後天子音の説明、並びにその整理、運用の区切々々に島名の説明を差し挟む形で解説して行くことにいたします。御了承下さい。

 古事記の文章を「子生み」の章に進めることとします。

 既に国を生み竟(を)えて、更に神を生みたまひき。かれ生みたまふ神の名(みな)は、大事忍男(おほことおしを)の神。次に石土毘古(いはつちひこ)の神を生みたまひ、次に石巣比売(いはすひめ)の神を生みたまひ、次に大戸日別(おほとひわけ)の神を生みたまひ、次に天の吹男(ふきを)の神を生みたまひ、次に大屋毘古(おほやびこ)の神を生みたまひ、次に風木津別(かざもつわけ)の忍男(おしを)の神を生みたまひ、次に海の神名は大綿津見(おほわたつみ)の神を生みたまひ、次に水戸(みなと)の神名は速秋津日子(はやあきつひこ)の神、次に妹速秋津比売(いもはやあきつひめ)の神を生みたまひき。

 「既に国を生み竟(を)えて、更に神を生みたまひき。」生れて来る神即ち後天の子音の宇宙に於ける位置が定まりましたので、いよいよ先天活動が起こり、後天現象の要素である子音が生れる段階に入りました。右の古事記の文章で計十神が生れます。総合計三十三の子が生れますが、その中の十神であります。言霊子音で表示すれば「タトヨツテヤユエケメ」の十箇の言霊子音です。そしてこの十神、十言霊が精神宇宙の中に占める位置を「津島」と申します。津とはここより海へ船が出て行く処の意です。現在でも三重県に津、滋賀県に大津なる町があります。どちらも海や湖に接しています。津はまた渡す、の意を持ちます。渡すとはどういうことなのでしょうか。

 十七言霊で構成された先天構造が活動を始め、何かの意図が発現しました。けれどこれは先天構造内のことでありますから、何であるかは分りません。それが何であるか、を明らかにするには後天の活動が必要です。その何だか分らない発想が実は何であるか、を一つのイメージとして捉える働き、それが津島に位置するタトヨツテヤユエケメの十箇の言霊現象の働きであります。先天現象の漠とした分らないものを、一つのイメージにまとめ上げる働きです。何だか分らぬものをイメージ化する働き、これが津島(つしま)です。この津島の働きを担う十言霊を一つ一つ解説して行くことにしましょう。

 大事忍男(おほことおしを)の神・言霊タ

 昔の人は人の言葉を雷鳴(かみなり)に喩えました。頭の中でピカピカと雷光が走ると、口からゴロゴロと雷鳴である言葉が鳴りわたる。その形容はキリスト教、新約聖書、ヨハネ伝の冒頭の言葉「太初に言あり、言は神と偕にあり、言は神なりき。この言は太初に神とともに在り、万の物これに由りて成り、成りたる物に一つとして之によらで成りたるはなし。(はじめにことばあり ことばはかみとともにあり ことばはかみなりき このことばははじめにかみとともにあり よろずのものこれによりてなり なりたるものにひとつとしてこれによらでなりたるはなし)……」を思い出させます。また古事記の神名、大事忍男の神とは「大いなる事を起こさせる(忍)主体(男)の実体(神)という意味で、仏教の「一大事因縁」という言葉に似ています。古事記の編者太安万侶は先天構造から一番初に出て来る言霊タの指月の指に大事忍男の神なる神名を当てました。言霊タとは宗教的に、芸術的に、全宇宙がそのまま現象となる音と説明しました。正しくその表現にふさわしい音であります。

 言霊タとは宇宙の中で「タ」と名付けるべき一切のものを表現します。そのタに漢字を付すと田(た)、立(たつ)、竹(たけ)、滝(たき)、高(たか)い、平(たい)ら、種(たね)、戦(たたか)う、頼(たの)む……等々が浮かびます。

 言霊タの説明によく田んぼの田を用いる事があります。それは何故か、を説明しておきましょう。詳しい事は今後の話に廻し、今は簡単にお話申上げます。言霊は何処に存在するか、と申しますと、人間本来授かった五つの次元性能の中の言霊イ(意志)の次元にあります。言霊イの次元には、人間の生命意志の担い手である五十個の言霊と、その言霊の操作・運用法である五十通りの法則計百の原理しか存在しません。言霊はイの次元にあって、現在の五十音表の如き構造で存在しますから、言霊のことを「イの音(ね)」で「イネ」と呼ばれます。これが稲を作る田の形に似ておりますので、稲の語源としても使われます。五十音表は言霊五十音の構造を表わしますので、五十音表は人間人格のすべてと考える事が出来ます。そこで宇宙全体がそのまま現象界に姿を表わしたもの、即ち人格全体を言霊タで表現するのです。

 石土毘古(いはつきひこ)の神・言霊ト、石巣比売(いはすひめ)の神・言霊ヨ

 始めに大事忍男の神以下の十神(十言霊)は先天構造内に起こったものが如何なる事を意図したのかを一つのイメージにまとめる一連の作業だと申しました。ですから大事忍男の神・言霊タに続いて生れて来る神・言霊の解説もその一連の意図に沿った立場からお話をして行くことになります。石土毘古の石(いは)は五十葉(いは)で五十音言霊のことです。土は土壌で育てる働きを表わします。毘古はその原動力である八つの父韻の働きで、チイキミシリヒニ。五十音図は八父韻の両端にイ、ヰが付いて十音となり十を形成します。十(と)の言霊は横に並び、物事を創造して行く時間的な経緯を表わします。先天構造内に起こったものが実際どの様なものなのか、を時の経過に従って調べられる事を示しています。それは先天の意図が言霊の十個の戸を通過するようにして調べられる、ということが出来ましょう。

 言霊トの単音に漢字を付して言葉とすると、次のように書くことが出来ましょう。十(と)、戸(と)、時(とき)、止(とまる)、解(とく)、鳥(とり)、通(とおる)、床(とこ)、樋(とひ)、問(とふ)、遠(とお)、……

 石巣比売の神・言霊ヨの石は五十音言霊。巣は五十音を以って作られた巣の如きもので五十音言霊図。比売は「秘め」で言霊図の中に秘められたもの、この場合は言霊ヨで、世の中を構成している四つの母音性能を指します。世の中は言霊ウ(五官感覚に基づく欲望性能、その根本性能が人間社会に築くものは物質的産業・経済機構)、言霊オ(人間の経験知、その性能が社会化したものが広くは学問、物質的精神的科学)、言霊ア(人間の感情性能、その社会化現象は宗教、芸術)、そして最後の四番目の性能、言霊エ(人間の実践智性、その社会に於ける活動は政治、道徳)。以上の四性能によって築かれた四種類の社会を総合して世(四)の中と言います。

 先天構造の活動によって生れて来た現象の意図は何であるのか、は先ず第一に大事忍男の神・言霊タが全人格として現われ、その実像が次に石土毘古の神・言霊トの現象によるイ・チイキミシリヒニ・ヰの十の言霊によって時間的位置が定められ、次の石巣比売の神・言霊ヨによって現世の人間性能の中のどの性能の働きに属すものなのか、四つの社会の中のどれに入るべき事なのか、が確められます。人間の全人格は五十音言霊図によって表示されます。それ故に先天から姿を現わした現象は先ず言霊図の横の十音(父韻)の時間的変化の法則の網を通り、次に縦四個の次元の篩(母音)を通ってそのイメージ化が進んで行きます。

 言霊ヨの音ヨに漢字を当てますと、四(よ)、世(よ)、代(よ)、節(よ)、夜(よ)、宵(よひ)、酔(よう)、過(よぎる)、欲(よく)、横(よこ)、汚(よごれ)、……等が思い出されます。