http://www.kenq.net/dic/64.html【セントラルドグマ】
セントラルドグマ(Central dogma)とは、1958年にフランシス・クリック(DNAの二重螺旋構造を発見した科学者)によって提唱された分子生物学の基本原則のことです。
これによると、生物の遺伝情報は、すべてゲノムDNA→複製→DNA→転写→RNA→翻訳→タンパク質の順に情報が伝達されていると考えられていました。 つまり、情報の流れが一方的であり、タンパク質自体がRNAやDNAを合成することができないことを示しています。
しかし、1970年にある種のウイルスにより、RNAからDNAが合成されるという現象が発見(逆転写酵素の発見)されたため、セントラルドグマが一部書き換えられました。
またその後、特に高等生物において、翻訳の前にスプライシング(splicing)の過程があることも判明しました。
この結果、セントラルドグマは3段階から4段階へ修正された概念となりました。
セントラルドグマの概念の分子機構を明らかにしようとしたことで、mRNA、tRNA、遺伝暗号などが発見、解明され、遺伝子発現が定義されました。
https://www.kanehisa.jp/Japanese/tutorial/01-04.html 【セントラルドグマ】
以上述べてきたように、生物の生命活動は、遺伝情報を担うDNAと遺伝情報が発現したタンパク質により維持されています。DNAの情報は複製(replication)されて、親から子へあるいは細胞から細胞へと伝えられます。また、細胞内ではDNA上の特定の遺伝子の部分がタンパク質に翻訳(translation)されて、細胞のはたらきが行われます。翻訳とは、4種類の文字からなるDNAの文字列を20種類の文字からなるタンパク質の文字列に変換することで、コドンと呼ばれるDNAの3文字を単位としてアミノ酸1文字に変換されます。64種類のコドンと20種類のアミノ酸および翻訳停止信号を対応づけるのが遺伝暗号(genetic code)です。この変換の際、DNAの情報は直接タンパク質に翻訳されるのではなく、いったんRNA(ribonucleic acid)に転写(transcription)され、RNAからタンパク質に翻訳されます。RNAについては、転移RNAやリボソームRNAなど異なる役割をするものもあり、ここでのRNAはとくにメッセンジャーRNAといいます。したがって、DNA、メッセンジャーRNA、タンパク質のあいだには、情報の一方向の流れがあることになります。クリッ
クは1958年これを分子生物学のセントラルドグマ(central dogma)と名づけました。
しかしながらその後、レトロウイルスとよばれる特定のウイルスでは、DNAとRNAの間に逆向きの流れがあること、すなわち逆転写(reverse transcription)の現象があることがテミン(Howard M. Temin)により予測され、逆転写酵素が1970年に発見されました。レトロウイルスはがん化やエイズに関連したウイルスで、遺伝情報をDNAではなくRNAの形で蓄えており、遺伝情報はいったんDNAに逆転写されて宿主のDNAに組み込まれ増殖します。ただ、ここでのRNAはゲノムRNAであり、上記のメッセンジャーRNAとは異なるタイプのRNAであることに注意します。
さらに1977年には、転写されたRNAはそのままタンパク質に翻訳されるのではなく、イントロン(intron)部分を取り除き、エキソン(exon)部分をつなぎあわせる、スプライシング(splicing)の処理が、高等生物では広く一般的に行われていることが見いだされました。つまり、高等生物の遺伝子はゲノム上で一般に分断されており、核内でRNAへの転写とスプライシングが行われ、核の外に輸送されたメッセンジャーRNAをもとにタンパク質への翻訳が行われるのです。これはセントラルドグマの情報の流れに反するものではありませんが、RNAの転写後処理という重要なステップを、もちろんセントラルドグマは予期していませんでした。また、より限定された生物種の範囲ですが、転写されたRNAが削除以外に挿入・置換の変更を受けるRNAエディティング(editing)も見つかっています。RNAの転写後処理はゲノムから遺伝子への情報発現の分子機構として、進化的意味が隠されているようです。
https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/cloning/cloning-learning-center/invitrogen-school-of-molecular-biology/rt-education/reverse-transcription-basics.html【逆転写:概説】 より
発見
元来、分子生物学におけるセントラルドグマは、まず DNA が RNA に転写され、次にその RNA がタンパク質に翻訳される、というものでした。しかし 1970 年代、二つの研究チーム、1 つはウィスコンシン大学のハワード・テミン率いるチーム、もう 1 つはマサチューセッツ工科大学のデビッド・ボルティモア率いるチームが、それぞれ別々にレトロウイルスと呼ばれる RNA ウイルスの複製に関与する新しい酵素を同定したことでそれまでのセントラルドグマに異議が唱えられることになりました [1,2]。これらの酵素は、ウイルスの RNA ゲノムを相補的な DNA (cDNA) 分子に変換し、宿主のゲノムへと組み込ませることができます。これらは RNA 依存性DNAポリメラーゼであり、逆転写酵素と呼ばれます。なぜなら、セントラルドグマである DNA から RNA への流れとは対照的に、これらは RNA をテンプレートとして cDNA 分子へと転写するからです (図1)。1975 年、テミンとボルティモアは逆転写酵素の同定という先駆的な功績によってノーベル生理学・医学賞を受賞しました [3] (同時にレナート・ドゥルベッコも腫瘍ウイルスに関する研究で受賞しています)。
Figure 1. Current understanding of the flow of genetic information includes reverse transcription.
生物界における役割
逆転写酵素は、ウイルス、細菌、動物、植物を含む多くの生命体で同定されてきました。これらの生命体における逆転写酵素の一般的な役割とは、RNA 配列を、ゲノムの別の領域に挿入できるcDNAに変換することです。逆転写反応の例を (図 2) に示しています。
レトロウイルスの増殖: 例えば、ヒト免疫不全ウイルス (HIV) 、モロニーマウス白血病ウイルス (M-MuLV) 、トリ骨髄芽球症ウイルス (AMV) など [1,2]。
レトロトランスポゾンと呼ばれる可動遺伝因子による真核生物の遺伝的多様性 [4]。
テロメアと呼ばれる染色体末端の複製 [5,6]。
細菌におけるマルチコピー 1 本鎖 DNA (msDNA) と呼ばれる染色体外 DNA/RNA 複合体の合成 [7,8]。
図 2.生物学的システムにおける逆転写酵素の役割。(A)ウイルスの RNA は、宿主ゲノムへの組み込みを目的として逆転写されます。(B)レトロ転移においてはRNA中間体が、ゲノムの他領域に挿入するためにDNAコピーへと逆転写されます。(C) テロメラーゼ逆転写酵素 (TERT) は、真核生物の染色体末端の伸長と維持のために、RNA をテンプレートとして使用します。(D) 細菌において逆転写は、マルチコピー 1 本鎖 DNA (msDNA) 形成の中間ステップとなります。
アプリケーション
逆転写酵素は、生物学的システムにおいて機能的な役割を担う一方で、RNAを研究するための重要なツールとしても役立ちます。逆転写酵素を利用した最初の分子生物学的実験の一つは、細胞や組織由来 mRNA の DNA コピーライブラリの構築に向けた cDNA の作製でした [9,10]。構築した cDNA ライブラリは、ある時点において活発に発現している遺伝子群を知るため、あるいはその機能を調べるために利用されます。
発現している遺伝子群を調べる上で cDNA ライブラリの作製は重要ですが、存在量の少ないRNAを調べるという点で課題が残りました。この課題はその後、少量の遺伝子断片を増幅する技術であるポリメラーゼ連鎖反応 (PCR)の発明によって解決されました。PCR と組み合わせた逆転写反応、すなわち逆転写 PCR 法 (RT-PCR) は、遺伝子発現レベルが極微量なRNAの検出を可能にすることから、circulating RNA やRNA ウイルスの検出の他分子診断における癌関連融合遺伝子の検出にも新たな道を開きました [11-13]。
また cDNA は、未知の RNA をハイスループットに解析するためのマイクロアレイや RNA シーケンシングといったアプリケーションにおいても、テンプレートとして役立ちます [14-17]。(逆転写のアプリケーションを参照してください。)
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