http://marori.blog.shinobi.jp/%E7%BE%8E%E8%A1%93%E3%83%BB%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E3%81%AA%E3%81%A9/%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%8B%E3%82%BF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%8B%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%A5%E3%83%A0%E3%81%AA%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%83%A1%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%A2%E3%83%AA より
髑髏の描かれたこのなんとなく怖い絵は何でしょうか?
これは静物画の一種で、「ヴァニタス画」と呼ばれます。ヴァニタスとは「虚しさ」という意味です。16、17世紀、特にオランダやネーデルラントで流行しました。
ヴァニタス画の中には髑髏の他に沢山の静物が置かれています。本、楽器、時計、ろうそく、煙草、地球儀、贅沢品…。これらには一つ一つ意味が込められていて「この世の虚しさ」や「時間の無常」、「人生の儚さ」を見る人に伝えようとしています。
そう、ヴァニタス画はただの絵ではありません。私達が文字を読んでその文章を理解するのと同じように、道路標識や信号で私たちが道でどう振るまうべきか分かるように、絵の中に描かれたものを“読む”ことによってメッセージを受け取ることが出来るのです。
では、静物に込められた意味を1つ1つ見ていきましょう。
髑髏 … 「死ぬってことを覚えておけ!」<死>の象徴です。
時計・砂時計 … 「時間は人に死をもたらす。」絶えず流れる<時間>を表します。
パイプ…「人生はたばこの煙のように霧散する」
花…「枯れない花は無い。人間もまた。」
ろうそく…「命の炎はいつかは消える。」
貝に入れたシャボン玉とストロー…「あっという間にもろく壊れる。人のように。」
これらは<儚く消えてしまう人生>を表します。
お金… 「お金は天国に持っていけない。」<富>の象徴です。
羽飾りの帽子 … 「おしゃれをしても人は死ぬ。」<名声>や<虚栄>の象徴です
楽器 … 「音はその場に留まることは出来ない。音楽の楽しみもこの世だけのこと。」<楽しみ>の象徴です。また、煙草の煙や花と同じ意味も持っています。
本 … 「勉強したって死からは逃れられない。」<学問>の象徴です。
地球儀 … 「このように、世界はとても移ろいやすい。」<世界>を表します。
この他にも、壊れやすいガラスや陶器の容器にも「儚さ」を込めることが出来ます。そして贅沢品には「贅沢も今のうち」という意味があり、武器や防具は「物理的な力も死には敵わない」という意味を持ちます。
つまり、富、名声、栄誉、知識、力、愉楽、そういったものを全て髑髏が打ち消してしまうのです。
また、髑髏が枯れた植物の冠を被っていたり、絵の中にパンやぶどう酒が置いてあったりする場合は、キリスト教的な意味が追加されていることもあります。すなわち、俗世の生活は儚くいずれ終わるのだから、祈りと信仰の世界に生きなさい、ということです。
おわり。
しかし、ここには書いていないけど、ヴァニタス画って絵画としては格の低い「静物画」に、高尚っぽい意味を適当に乗っけて、道徳を重んじる知識人気取りな奴(得てして金持ちに多い)にも売ろう、なんてかなり俗な意図も大いにあったりして。
現実をそのまま写したリアルな絵は、それだけで人を喜ばせますが、現実を単純に模倣するだけでは知的でない、というのが昔の発想。現代で、ただそのまま机の上を写した写真が芸術かどうか、判断に迷うような感覚でしょうか。きっとそんな写真が壁に飾られているのを「鑑賞」したら、皆「これは何を我々に伝えようとしたのか。その意図は?」と考えるに違いありません。
「ただの絵」の中に何かしらの意味、含蓄を読み取りたい、と思うのが人情というもの。どうせお金を掛けるなら、無意味なものより有意義なものを。それも真面目な意味があると、真面目な人間に見えて、格好いい。
画家は画家で、好きなものや、技術の高さを披露できるものを適当に何か描くよりは、含蓄がある絵の方が格好良くみえるからって、流行した訳ですが。
見た目は真面目な絵ですが、当時の人間がどれだけ真面目に捉えていたかは、いまや分かりません。
生涯私の最も愛する絵たるハルスの「髑髏を持つ若者」も「羽飾りの帽子でお洒落した若者もいつか死ぬ」って意味に見えますが、…ハルスはそんなこと立派なこと考えていないだろうなぁ、というのがまろりの考え。
フランス・ハルス<髑髏を持つ若者(ヴァニタス)>
描くのが難しい正面顔、しかも表情豊かな笑顔、腕の極端な短縮法、デッサンと等価の巧みな筆捌き、そんな高度な技術をアピールしつつ、売れるからって理由で描いたんだろう…あの人は。
↑大好きなこの人の紹介がてらに少しこの絵だけからは読めない部分を解説すると、人の表情を描き分ける、というテーマはこの時代のオランダで流行した画題で、人の顔をクローズアップして描くという構図は、画家の親方が弟子の教育&親方プロデュースの売り絵作品を弟子に量産させる手本に使う一方で、画家の腕前を堪能できるものとしても人気でした。 中でも笑顔は難易度が高く、かのレオナルド・ダ・ヴィンチもちょっと難しいな、と思っていたようです。下手すると、とても不気味に描けてしまいます。
ハルスの笑顔はずば抜けて上手く、レンブラントやフェルメールの笑顔と比べてみても、ハルスの方が自然で、概念的でない。
0コメント