https://dot.asahi.com/wa/2018030100066.html?page=1 より
ちょっと待て! そんなところでカッとしてどうする!? グー(こぶし)で机を叩いたり、後先をかえりみずにグググーとアクセルを踏み込むな! その代償はどれだけ大きいことか。怒りは「技術」でコントロールだ!
あおり運転(前方の車に激しく接近したり、幅寄せしたりする行為)などが含まれる「ロードレイジ」が今、社会問題化している。感情的で危険きわまりない運転による事故・トラブルがあとを絶たないからだ。
「ロードは道、レイジは激怒。運転中にキレて暴力的な行動をとることを総称して『ロードレイジ』と呼んでいます。アメリカではロードレイジの加害者に対してはアンガーマネジメントを受講するよう、裁判所命令が出ることもあります。それだけ車の運転と怒りの感情には深い関係があると考えられているのですよ」と語るのは、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介さんだ。そもそもアンガーマネジメントとは何か。
「“怒り”をコントロールすることです。怒らないことがアンガーマネジメントだと考えていらっしゃる方もいるようですが、それは大きな間違いです。怒りは人間が生まれつき持っている感情ですから、なくす必要はないのです。それにもかかわらず“怒ることは悪いこと”と思い込んで、怒りを自分の内側にふつふつとため込むと、心身の不調につながってしまいますよ」
【怒りをため込む人チェックリスト】
□嫌なことがあると、心の中で自分や相手を責める
□怒りを爆発させ、相手との関係を壊したことがある
□暴言を吐いて、後悔したことがある
□気になることを相手に言えずモヤモヤする
□「なぜこんなことで悩むのか」と自信がなくなる
上にある「怒りをため込む人チェックリスト」(作成・日本アンガーマネジメント協会)をやってみよう。
「この5項目のうち、ひとつでもチェックがつくようでしたら、要注意です。怒りは無理に抑えてはいけません。ただ相手に自分の真意がわかってもらえるように、上手に自分のリクエスト(要望)を伝える方法を覚えることです。これはスポーツをしたり料理をしたりするのと同じこと。どんな人間でも『訓練すること』によって、ある程度の技術は身につけられます。人間、そうそう性格は変えられませんよ。でも“技術”というものは、やる気さえあれば習得できるのです」
ああ、心に響く天の声。やはり人間、カッとしてグー(こぶし)を握りしめたり、グーッとアクセルを踏み込むリスクは断ち切っておきたいもの。では具体的にどんなことをすれば?
「実は上手な怒り方には6つのルールがあるのです。これをいつも意識しながら、反復練習して、身につけていくことですね」
まず自分のリクエストはシンプルに、明確に伝える。
「たとえば自分が購入した商品に不具合があったとき、『不愉快だ、どうしてくれるんだ!』と言っても、何にもなりませんよね。『修理してほしい』『取り換えてほしい』等、自分が何を求めているかを相手に具体的に伝えるクセをつけましょう」
そして怒るときには、“私”を主語にして伝える。
「『おまえはお父さんの気持ちがわかってない!』は、相手を責める言葉です。これでは相手は心を閉ざしてしまうかもしれません。相手の権利も尊重しながら自分の感情や意見や状況を伝えるには、『お父さんはとても心配したんだよ』と、自分を主語にすることです」
また、「前もそうだったけれど」「何度も言っているけれど」等、過去を持ち出す言葉を使うのもNGだ。
「目の前の出来事だけでなく過去の話も持ち出されれば、相手は『なぜ今更そんな話をするのか』と不信感を抱くだけです。また過去を持ち出す言葉以外に『いつも』『絶対』『必ず』といった、自分の怒りを強調するような言葉もNGワード。
『靴下、いつも脱ぎっぱなしじゃないの!』と怒っても、相手には『いつもじゃないよ』という反抗心が生まれるだけ。『靴下は脱いだらきちんと洗濯かごに入れてね』と、自分の気持ちは“その場”で余計な感情を抜きにして伝えましょう」
そして“程度言葉”ではなく、正確な表現を使う。
「『書類をしっかり確認して』『子供をちゃんと見ておいて』等、普段の生活の中で程度言葉は頻繁に使ってしまいますよね。でも“しっかり”や“ちゃんと”という程度言葉は人によって基準が違いますから、トラブルのもとになりがちです。互いに基準がわかるようにするには、6W(When〈いつ〉、Where〈どこで〉、Who〈誰が〉、Whom〈誰に〉、What〈何を〉、Why〈なぜ〉)と3H(How to〈どのように〉、How many〈どれだけ(数量)〉、How much〈いくら(金額)〉)で伝えることです。自分が望んでいることは、誰でもわかる表現で伝えることが大切なのです」
低いトーンでゆっくり話すことも必要だ。興奮するとついつい高いトーンで早口で話してしまいがちだが、それを聞かされる相手はうんざりしてしまうだけだ。
「自分が興奮しているなと感じたら、普段よりも低い声で話すように心がけましょう。相手にはちょうど聞きやすいトーンになるはずですよ。また怒りを伝えるときに、腕組みは禁物です。腕組みは相手を拒否するような態度ですから、相手にイライラが伝わってしまいます。互いに不快な思いをせずに話を進めていくには、意識して冷静さを演出することです」
そしてもうひとつ大事なこと。それはその時々で言うことを変えないことだ。
「たとえば会社で『毎日自分のデスクは整理整頓』『遅刻はしない』など、職場を管理する側として何か方針があったとしましょう。その方針を守らなかったときに怒られるのは、相手も納得がいくと思います。しかしあるときは怒られない、あるときは怒られる、と態度がぶれてしまうと、ただの“気分次第で怒る人”と思われてしまいます。怒るなら、話に一貫性を持たせて」
たとえば「待ち合わせ場所には10分前に行ってスタンバイしておく」といった方針があるなら、それを繰り返し相手に伝えることは問題ない。時間に厳しい人だという印象は持たれるかもしれないが、そのルールがぶれなければ、周囲にはわかりやすいので、人からは信頼される。以上の6つのルールを意識しながら、怒りのコントロールを日々反復練習していく。そうすれば、怒りに振り回されることも少なくなり、人生の効率もアップする。
「怒りというものは人生を破壊しかねません。それは肝に銘じておきましょう。怒りによってとっさに発した言葉が、それまで積み上げてきた人間関係、信頼関係、キャリアをすべてゼロにしてしまう可能性もあるのですから。日々アンガーマネジメントしながらも、ストレスがたまってきたら、軽めの運動や趣味の世界で発散することです」
アンガーマネジメントの観点からすると、グチややけ酒によるストレス解消はNGだ。なぜか?
「グチは口にするたびに怒りを思い出し、嫌な記憶を脳に定着させてしまうからです。嫌な思いは自分から再現しないことですね」
【上手な怒り方・6つのルール!】
1.自分のリクエストをシンプルに、明確に伝える
2.「あなた」ではなく、「私」を主語にして伝える
3.過去の話題を持ち出さない。「前も」「いつも」はNGワード
4.程度言葉で伝えず、6W3Hで具体的に伝える
5.低いトーンでゆっくり話す
6.その時々で言うことを変えない
(エディター・赤根千鶴子)
0コメント