http://iptclinic.com/ipt/%E6%91%82%E9%A3%9F%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E6%91%82%E9%A3%9F%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E5%9B%9E%E5%BE%A9%E5%88%9D%E6%9C%9F%E3%81%AB%E5%8F%96%E3%82%8A%E7%B5%84%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%84%E3%81%8F%E3%81%93%E3%81%A8/ より
摂食障害からの回復初期に取り組んでいくこと
摂食障害の治療は、「自分の心の中を振り返り気持ちを感じてみること」、「何が起きたのかを明確にして対処の仕方を変えること」に取り組むことから始まります。
しかし、長いこと摂食障害症状(乱れた食行動)を使って自分の気持ちを感じないようにしてきた患者さんにとっては、自分の心の中で何が起こっているのかを見つめることは、「奥底にある未知のものへの恐怖、根本の存在自体が脅かされる感覚」で、崩れ落ちるような不安感にとらわれてしまいますよね。
そのときに、「摂食障害の部分」は巧妙な言い訳を思いついてくれます。
この治療は自分に合っていない、治療者と合わない、この治療で良くなるとは思えない、仕事の都合がつかないので治療に通えない、などの欺瞞や猜疑心です。
『8つの秘訣』の著者で、自身も摂食障害から回復した経験を持つキャロリン・コスティンさんも、回復への道を歩き始めたときの不安について述べられていますよね。
何かの出来事がきっかけになって、心の中に自分には価値がないという考えや気持ち、ほかの人から何と評価されるかについての恐れ、期待に十分応えられないのではないかとの怖れが浮かんできます。
そうした考えから、次にはとても強い恐怖や自信のなさ、自分自身への猜疑心などが生まれてきて、あっという間に摂食障害の考え方が舞い戻り、体重が減るのは問題だという点を忘れて逆に「体重さえ減らせば問題は解決する」と信じ込んでしまうのです。
そのきっかけは別に大層なことでも、珍しいことでもなく、日常的なものでした。
しかし、自分の中に感情を秘めたままなんとかして「自分の方法」で対応しようとする習性があったので、そうした小さなきっかけからでも、結局何度でも同じ行動を繰り返してしまうのでした。
コスティン他『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店
摂食障害症状のきっかけになる出来事は、対人関係に関するものだけではないのです。むしろ対人関係とはまったく関係のない、日常的な体験が症状のきっかけになることが多いのです。
たとえば、職場で同僚がてきぱきと電話対応をこなしていたとか、休日に街で仲むつまじいカップルを見かけたとか、仕事が忙しいはずのパートナーが精神的に安定しているように感じたとか、その程度なのです。
その体験の瞬間に、どうして自分はできないのだろう、あの人に較べて自分は…などの「自分はダメだ」の考えが生まれ、その考えに体が反応しネガティブな感情が生まれます。
このネガティブな感情に対して、さらに追い打ちをかけるように「こんな気持ちになっている自分はダメだ」との考えが生まれ、摂食障害のスイッチが入ってしまいますよね。
摂食障害から本当に回復するためには、理解を深めるだけでは足りません。
大切なのは、何が起きているかではなくて、何かが起きたときにそれにどう対処するかということです。
回復するためには、心の奥にある思考や気持ちにもっと健康的な方法で対処できるようになる必要があります。
(中略)
気持ちに関しても、まずはありのままを認識し、しばしそのままにして、それからしっかり感じられるようになります。
コスティン他『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店
三田こころの健康クリニック新宿では、この取り組みを【自分との関係を改善する(心の状態の変化についての気づき)】、【行動の仕方を改善する(感情・考え・情動のコントロールについての気づき)】と呼んで、対人関係療法による治療で一番大切なプロセスと説明していますよね。
しかし、治療に取り組み始めたばかりの頃は、それまでの「慣れ親しんだ対処の仕方(マインドレスな自動操縦状態)」を変えていくことがすごく苦しく感じられるだけでなく、「なかなかうまくできない」と遅々とした変化に焦りを感じてしまいますよね。
でもそれも自然な感じ方なのです。
摂食障害から回復しようとするときには、病そのものからくる感情に取り組むだけではなくて、挑戦につきものの一般的な感情に耐えなければなりません。
何かに挑戦するときには、失敗する怖さや、結果がどうなるかが予測できない怖さが伴うものです。こうした恐れからは不安感がたくさんかき立てられるでしょう。
(中略)
たとえ行動を変えることができていなくても前に進み続けているときもあるということを、ぜひ忘れないでください。
目標を達成するために、何回でも同じことに挑戦しないといけないときがあります。そういうときは、挑戦し続けるだけでも、回復のとても大切な過程に取り組んでいることになります。
あきらめないで続けているだけで、ちゃんと取り組んでいることになるのです。
コスティン他『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店
同じようなことをジョンストン先生も説明してくださっていますよね。
克服への道のりを歩み続けていると、その歩みの遅さにやる気をなくしてしまうこともあるかもしれません。自分の進歩を証明する物理的な証拠ばかり探して、外見や食行動の変化がすぐに見られないと、どこにも進んでいないように思えてしまいます。
しかし、自分が達成してきたことは感情や心の領域にあって、物理的な領域にはまだ現れていないということを理解しなければなりません。物理的なものは時間とともに現れてくるのです。
ある建物が造られようとしている街の通りを歩いていると想像してみてください。
毎日毎日、何ヶ月もの間、通り過ぎるたびに空っぽの敷地を目にします。そしてある日突然足場が組まれ、あっという間に大きなビルが建ちます。まるで一晩で建てられたかのように思えるのです。
乱れた食行動を克服するプロセスもこんなふうに進みます。
長い間何も起こっていないように思えたり、何も進歩していないように思えても、実際にはたくさんのことが起こっています。ただ、見えない領域で起こっているだけなのです。
ビルの建設のように、準備をし、新しく長持ちする構造を支える基礎を設計したり、作ったりするには、長い時間がかかります。
乱れた食行動の原因を理解することで基礎が敷けて、人生で次々とやってくるストレスに立ち向かううえでのスキルを発達させることができると、やがて食べ物との新しい関係もできてきます。
ジョンストン『摂食障害から回復するための素敵な物語』星和書店
摂食障害から回復されたある患者さんは、この部分にすごく勇気づけられと話されていたんですよ。
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