ゲシュタルト療法

https://www.ja-gestalt.org/gestalt/ 【ゲシュタルト療法とは】より

ゲシュタルト療法は、1950年代アメリカ西海岸(エサレン研究所)にてパールズ夫妻によって築き上げられた心理療法です。「ゲシュタルト」とは、思考・感情(精神)・身体を「統合」すると言う意味を示しています。それまでの心理療法のように学問的に分析や解釈をするのではなく、人間としての存在に重点を置いて、「今、ここ」で起きていることに焦点を当てるところに特色があります。ファシリテーター(カウンセラーや、セラピストと言う言葉を使いません)はワーカー(クライエント)と同じ人としての存在として、ワーカーに寄り添っていきます。主な技法としての「エンプティチェアー」(空の椅子)は、その他の多くの療法にも現在使われるようになってきています。

 「哲学主義、実存主義、実験主義」とも言われるゲシュタルト療法は、とにかく体験してみないと、ここでゲシュタルト療法とは何か?を伝えることには限りがあります。全国各地に本学会に所属している団体、「登録団体」があるので、この本学会サイトのメニューバーにある「登録団体情報」から「登録団体紹介」を参考にして最寄りの会場で、あるいは、トップページに記載されている【ワークショップ情報】で紹介されている会場で実際にゲシュタルト療法を体験してみることをお勧めします。


https://www.ja-gestalt.org/gestalt/tetugaku/ 【ゲシュタルト療法の哲学的背景】より

ゲシュタルト療法は、人が「自分らしく生きる」こと、自分にとって最良の「選択」が「自由」にできる自分自身でいること、そして、自分の周囲の人々や環境と好ましい「関わり」を持つ自分自身になることを目指す心理療法である。その哲学的背景を現象学、実存主義に置いている。

実存主義の祖とされる、S・キルケゴール(1813年-1855年)は代表的な著書『死に至る病』で、「真理は人間が自分自身で行動を表すときのみに存在する」として、自分自身でいないことは、まさに「死に至る病」としている。

ゲシュタルト療法に最も重要なことは、ファシリテーターが、クライエントの真の主体性と向き合い、クライエントと共に「あなた自身が、あなた自身を生きる」ことを歩んでいくことをサポートしていくのである。なぜなら、それが「あなたの真実」だからである。

F・ニーチェ(1844年-1900年)の、かの有名な言葉に「神は死んだ」があるが、すでに作られた価値観である善悪、常識、など社会規範ではなく、自分自身を生きるのだと述べている。それは「他人の視線」に操作されず、本当の自由を勝ち取ることが重要とされる。

M・ブーバー(1878年-1965年)の哲学は「対話の哲学」と言われる。私たちは、日常生活で人や物事と第三者的な「それ」と関係を持つことが多いが、「我-それ」という関係ではなく、「我-汝」という立ち位置を持ってこそ、精神的存在としての奥深いところで触れ合うことが出来る。「我-汝」の関係性はゲシュタルト療法の柱の一つである。徹底的に自分と向き合い、ただ一つの存在としての魂と、クライエントという一つの魂の向き合う真に水平(平等)な関係を実践する。

J・サルトル(1905年-1980年)の「実存は本質に先立つ」と云う言葉は、それまでの(主に西洋文化の)思考を180度転換させたともいえる。たとえば「長男に産まれたから家を継ぐ」など、それまでのように人のあり方を先行させるのではなく、人間存在は自由であり、自分が自分の人生を選択することを説いている。

これらの影響を受け、ゲシュタルト療法の始祖F・パールズらは、「今ここ」の実存として人を見る。

後に、パールズ夫妻はクルトゴールドシュタインの研究所で出会うが、ローラは実存主義の他にも現象学も学んでいて、ここから彼らは現象学の影響を強く受ける。

現象学を開いたE・フッサール(1859年-1938年)は、そのものの「存在」と「現象」を分析研究する立場である。キーワードとなるのは「現象学的還元」と呼ばれ、それは<われわれは世界の中に共にいるのでこれに気づくことは難しい。この共犯的関係(共にいること)を拒否することで、外から眺め、常識や諸確信(自然的態度)を横に置いて向き合い>他者との間に立ち現れる「現象」をみていく態度をとる。そこに立ち現れている様々な事柄はそのモノ以外の何者でも無い。従ってその観点から、ファシリテーターは、「エポケー」(判断停止)つまりあらゆる先入観をよそにおいて、「地平化」(クライエントのどの言動すべてをも同じ比重としてみる)することをすすめていく。そこで、あるがままに見る練習の一つとして「3領域の気づき」などを行う。

他に、M・ハイデッガー(1889年-1976年)、M・メルロ=ポンティ(1908-1961年)からは、人間存在を「世界-内-存在」つまり、「われわれはこの世界に投げ込まれた存在とする」や、「あらゆる人間的活動の母体は現象的身体であって」「人間の身体は感覚の共同体<ゲシュタルト>である」ゲシュタルト療法が、身体性を重視するのは「身体はこころの表現として表れる」ので、言葉だけではなく身体の声を聞くなど、身体性を重視する。

以上、現象学・実存主義の一部を紹介したが、ゲシュタルト療法を行うものとしてさらなる研鑽を深めてほしいものである。


https://www.ja-gestalt.org/gestalt/history/ 【ゲシュタルト療法の歴史と現在】より

ゲシュタルト療法は、1950年代にフレデリック(フリッツ)&ローラ・パールズ夫妻、ポール・グッドマンらによって生み出されました。パールズ夫妻はもともと精神分析医でしたが、1947年に出版した「自我、飢餓、そして攻撃性」で精神分析と決別し、1951年出版の「ゲシュタルト療法-人間性の活力と成長-」によってゲシュタルト療法を世に送り出しました。

ゲシュタルト療法の生成は、精神分析、ゲシュタルト心理学、実存主義・現象学、東洋思想などの影響を受けています。フリッツはフロイト派のライヒから教育分析を受け、彼の「有機体的自己統制(organismic self-regulation)」や「筋肉の鎧(muscular armor)」などの考え方に大きな影響を受けました。

また「ゲシュタルト」という言葉は、「形の全体像」「統合された全体」を意味し、「地と図」と共にゲシュタルト心理学が生んだ概念です。

また実存主義・現象学から「今・ここ」の「気づき」など、さらに禅や道教から「無」や「陰陽」の思想を取り入れています。

フリッツは、天才的に直観が優れた人で、これらを〝右脳的〟にブレンドしてゲシュタルト療法を臨床的に確立しました。ところが彼は〝左脳的〟な人ではなかったので、これを理論的・体系的に整理することに力を注ぎませんでした。それをしたのは、妻のローラと、ポール・グッドマンです。

1952年には彼ら主催の勉強会が発展してニューヨークに、さらに1954年にはクリーブランドにゲシュタルト研究所が発足しました。その後、全米各地に、そして今では欧米を中心に世界中にゲシュタルト研究所が開設されています。

1960年代、フリッツはラジオの定時番組を持つなど時代の寵児的な活躍を見せ、多くの場でゲシュタルト療法のデモンストレーションを行いました。この頃の彼のワークは短時間で劇的な結果を生む〝瞬間芸〟的なものでした。その結果、様々な意味で矛盾と誤解が生じ、ゲシュタルト療法から人々の心が離れて行きました。「グロリアと3人のセラピスト」のビデオには、この頃のパールズが収録されています。

1970年のフリッツ没後、ローラやイザドア・フロム、ポルスター夫妻などの着実な努力により、ローラの言う「体験的、実存的、実験的」な療法としてのゲシュタルトが徐々に再評価されるようになりました。

現在のゲシュタルト療法の柱は、実存主義・現象学、「我-汝」の関係(M. Buber)、場の理論(K. Lewin)、変容の逆説的な理論(A. Beisser)です。これらをベースに「体験的、実存的、実験的」である限り、そして他の手法と混合させない限り、それがゲシュタルト療法であるという考え方に基づいて発展を続けています。

最近ではエンプティーチェアを使わない「関係対話療法」が欧米で盛んになりつつあり、また企業組織のコンサルティングにもゲシュタルトの手法が活用されるようになってきています。


https://www.ja-gestalt.org/gestalt/approach/ 【ゲシュタルト療法の理論とアプローチ】より

1.ゲシュタルト療法とは何か

ゲシュタルト療法は、他者との、あるいはコミュニティでの、そして環境全般とのコンタクト(接触)を改善するというゴールをもった、プロセス的、関係的(relational)心理療法です。

ゲシュタルトセラピーは、内省よりもクライエントの動的な気づきを強調した、活動的な援助の方法です。

それは、クライエントの病気や病理よりも成長により焦点を当てている点で、核心的かつユニークです。私たちが焦点を当てるのは、現在進行中の、そしてライフサイクル全てを通しての成長、成熟における創造的調整(creative adjustment )とその促進です。ゲシュタルトはドイツ語で「良い形(good form)」あるいは「豊かな全体性(plump wholeness)」という意味です。

私たちが目指すところは、環境の中にいる生体機能(organismic function)としての気づきを高めることです。ゲシュタルトセラピストのトレーニングは、気づきや創造性を妨げるものに焦点を当てます。妨げるものを取り除き、自分の“自我”をクライエントと向き合うための道具として活用する道を拓くために、ゲシュタルトセラピストのための個人セラピーは不可欠と考えられています。

(アンセル・ウォルト Ansel Woldt Ed.D)

2.ゲシュタルト療法の理論とアプローチ

ゲシュタルト療法は、精神分析医フレデリック・S・パールズ(Frederick S.Perls)とゲシュタルト心理学者であった妻のローラ・パールズ(Laura Perls.)、ポール・グッドマン(Paul Goodman)らによって創られた心理療法です。パールズは彼の著『ゲシュタルト療法-その理論と実際-』で、ゲシュタルト療法は「いま―ここ」中心のセラピーである、と表現しています。

ゲシュタルト療法は、人間は外部の世界をバラバラな寄せ集めとして認識するのではなく、意味のある一つのまとまった全体像(ゲシュタルト)として構成し、認識するというゲシュタルト心理学の視点を基本概念にしています。ゲシュタルト療法の創始者であるF.S.パールズが影響を受けたのはフロイトの精神分析、ゲシュタルト心理学、実存主義、現象学と東洋の禅です。

~「気づき」のアプローチとは~

ゲシュタルトのアプローチとは、気づきを通して本来の自分を取り戻し、自己成長を促すことを目的としています。

気づきの3つの領域

人間がたえず心理的成長をするためには「気づき(自覚する)=アウエアネス」ということが大切な基本的アプローチとなってきます。パールズによれば、個人は3つの自覚の領域を持っています。ひとつは<自己の自覚>の領域です。これを内部領域の気づきと呼びます。二つ目は<中間の自覚>です。これを中間領域の気づきと呼びます。そして3つ目の気づきの領域は<世界の自覚>の領域です。これを外部領域の気づきと呼びます。

内部領域の気づき

内部領域の気づきとは、簡単に言えば「からだ」の気づきのことです。生命体は生きていくために自己のからだが必要なことに気づきます。例えば、水分が不足すると「水が欲しい」ことに気づき、酸素が足りなくなると「息苦しい」ことに気づき、また心や気持ちも同じです。私は「喜び」「怒り」、「悲しみ」、を感じていることに気づきます。

私たちの「からだ」は体と精神を分離しません。心にストレス感じている時は身体の筋肉も緊張します。逆に身体を硬くしていて「心だけリラックス」することは出来ません。心と体は一つだからです。

中間領域の気づき

中間領域の気づきは知的知識、思考世界の気づきのことです。人は進化の過程で脳の機能を飛躍的に発達させてきました。特に考えることが出来る動物となりました。思考プロセスは物事を善か悪か判断したり、合理的に判断したり、客観的に考えることに役立ちます。また過去の記憶を思い出したり未来のことについて想像することも出来ます。

しかし、現代人は知識に頼りすぎて自己を見失ってしまう傾向もあります。そのために3つの気づきの領域のバランスが大切になってきました。

外部領域の気づき

外部領域の気づきとは現実の世界にコンタクトすることです。内部領域で「空腹である」ことに気づき、中間領域の思考で「お昼を食べたい」と想像しても飢えは満たされません。現実に自己の5感覚(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)を使って食べ物(あるいはお店やスーパー)を見つけ、料理(あるい店に入って)を作り、口に入れて飲み込まないと空腹は満たされないのです。

コズミックホリステック医療・教育企画