句集「一陽来復」

http://ni-nin.com/modules/?p=507  【記念号「澤」・句集「一陽来復」】 より

『澤』七月号創刊八周年記念号   主宰・小澤 實

『澤』は毎年記念号の大冊(426ページ)を発行しているが、その都度テーマを持っている。前回は俳壇の若手特集だったが、今回は田中裕明特集。写真・書簡・に続き第一句集『山信』の複刻版。しかもこの句集は限定10部しか制作されなかったものだから、複刻版は貴重な資料となる。はじめてその句集が手書きの句集だったことも知った。

   新聞紙破れ鬼灯赤くなる

   我知らぬ人より母が柿もらひ

   日のあたる机に石榴割れてあり

それと小澤實選の裕明作品二百句。裕明俳句の鑑賞・評論で239ページを使う保存版である。結社誌というと内部に向けての発信が多い中、稀な見識を発揮した記念号。

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中戸川朝人 第四句集『一陽来復』

    風邪の衣をつまみ運びに末子たり

    去りし背のいつまでもある黄沙かな

    桃つつむ気泡しろがね瀬音殖ゆ

    ひれ酒やうしろ戸に服噛まれゐて

    花茨川底は地の傾きに

    手をまはす幹より木霊土用波

    虫売の縄張ることをはじめけり

文学の描写力を発揮した一集。


http://taka.no.coocan.jp/a5/cgi-bin/cgi-binmail/ddiary/arc/dd200809.html 

[ 句集 一陽来復 中戸川朝人第四句集 管見 ] より

過日 八月二十一日 横浜 山手 増徳院にて 林火27回忌が行われた。

法要も済み 卒塔婆を抱えながら 墓所へめいめい向かったのであるがその途次 属目として林火忌の暑ささうさうこんなもの  良一 を得たのであるが それを宮津さんに耳打ちしたら即座に 朝人に こんな句があるよと下記の句を挙げた。

褒められしやうに涼しき林火の忌

推測するに 宮津さんの記憶の端に この句があったのは「褒められしやうに涼しき」あたりであろう。

どんな芸でもそうであるが 師が弟子を育てるのに やたら褒めて育てるということはない。大いにケナして自成を促すのである。

そんな念が両者に共通していて 当句を引用することになったのであろう。

林火忌はともかく暑い。当集にも 掲句以外に林火忌の句が2つある。

林火句碑灼けてその後を責めらるる   林火忌のこの涼しさを諒とせず

以下は当集からの共鳴句

大年の星夜の病衣みづいろに       はなびらをおとすゆあみてきし肌

一本の柿のすべての柿すだれ       大根干すための樹形と納得す

木枯や揉まるる首根掴まれて       足岱を履く長病みて足詰りしか

勇み駒盃にふくるる屠蘇を酌む      流木はまだ川のもの冬の波

名水の汲みどきは朝かきつばた      手入れよき林左右に鮎の川

日本穢れこれでもかこれでもかの暑さ   夏越ぼんぼりこんな大きな星ありしか

すたれたるずいずいずつころばしみぞれすぐ   このあたりの者煙管出す枯峠

かなかなや用向きごとに銭小分け     あたらしきつよき水脈藻の花に

その群れと別の大きなしやぼん玉     たびびとに茶そば茶だんごあたたかし

明日にも咲く牡丹に隣り句碑建てり    仔犬寝てぬひぐるみ寝て子の昼寝

*エイ走る追風帆(スピンネーカー)風孕み   兩靴の大きな少女合歓の花

桃つつむ気泡しろがね瀬音殖ゆ       いつたんは炎天に出て追ひ越しぬ

寡婦二人その子六人花野往く        金木犀初花流破風造

厚物咲おいらん道中通しけり        筆の彩振つて落してすみれ描く

先頭ははや傘使ふ春しぐれ         朧夜のつらねらんたん階下まで

トランポリンの宙にこどもらこどもの日   商へる白川砂も梅雨のもの

私雨溺れしむ蜂歩み出す          二の橋に別の滝音あらはるる

白ら息のゆたかな答へ貰ひけり       消防のホース遅日の磴に干す

みどりさすじゆうぶんねむりたる手足    地境に小流れ迅しじゆずこ玉

年の火に旧稿小分けして被す        蛇出づる首のあたりの尾を抜きて

雨粒の宙に数見え座禅草          塗畦に生きゐしものの爆ぜて発つ

ポンプ井戸汲み蚊柱を高くせり       田を起す寺も社も山に退き

この人とゐれば霽れ出す樟若葉       月の出や桟橋はまだ濡れてをり

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