バリ島の叙事詩 マハーバーラタ

https://www4.hp-ez.com/hp/scene-aty/page91  【バリ島の叙事詩2 マハーバーラタ】より

バリ島には様々な伝説や神話がありますが、ワヤンでは、「マハーバーラタ」が主題となり、バリ島舞踊のケチャでは、「ラーマーヤナ」が描かれています。この両叙事詩のうち、マハーバーラタのあらすじと登場人物をご紹介します。

 長めのあらすじですが、経緯や伏線、出来事をしっかりと押さえてあります。

 登場人物のエピソードとクルクシェートラの戦いについては別なページで紹介します。両方読んだら、あなたもきっと本を読みたくなります。

contents

叙事詩2 マハーバーラタ 

『マハーバーラタ』は世界3大叙事詩の1つとされる(他の2つは、イーリアス、オデュッセイア)。『ラーマーヤナ』と並び、インド2大叙事詩の1つでもある。サンスクリットで書かれ、全18巻。聖書の4倍にあたる。

 物語はパーンダヴァ王家とカウラヴァ王家の争いを軸に進められ、物語の登場人物が誰かに教訓を施したり、諭したりするときに違う物語や教典などが語られるという構成であり、『バカヴァッド・ギーター』は著名な部分で、宗教上、特に重視されている。成立年代は一般に、紀元前4世紀頃から紀元後4世紀頃とされる。

〇 叙事詩 マハーバーラタ Mahabharata

「マハーバーラタ」のあらすじ

主な登場人物

・ビーシュマ Bhisma -- クル国の宰相で長老。シャーンタヌ王と川の女神ガンガーの子。父のため妻を持たず、王位も継承しないことを誓う。五王子、百王子、両方にとっての大叔父。大戦ではクル軍。女は絶対に殺さないという誓いを立てている。

・ガンガー Ganga -- 川の女神。シャーンタヌ王との7人の子を川に流したが、8人目の子ビーシュマはシャーンタヌ王にとがめられて生かす。

・シャーンタヌ王 Santanu -- クル国の王。パーンダヴァ・五王子、カウラヴァ・百王子の曽祖父。

・サティヤヴァティー Styavati -- ガンガーをなくした後のシャーンタヌ王の后。パーンダヴァ五王子の祖父・ヴィチトラヴィーリヤ王の母。聖仙(りし)パラーシャラの愛を受け、体臭を芳香に変えてもらう。水の精の子ども。

・ヴィチトラヴィーリヤ王 Vicitravirya --シャーンタヌ王の子。ビーシュマの異母弟。子供のないままに夭折する。

・聖仙ヴィヤーサ -- サティヤヴァティーと聖仙パラーシャラとの間の子。母に請われ王家の血を絶やさぬため、ヴィチトラヴィーリヤ王の2人の后に子を授ける。折々に五王子の前に現れては導く。「マハーバーラタ」の作者ともいわれている。

・アンビカー -- ヴィチトラヴィーリヤ王の后。ドリタラーシュトラの母。聖仙ヴィヤーサ から子を授けてもらう際に、二度目は下女とすり替わった。

・アンバーリカー -- ヴィチトラヴィーリヤ王の后。パーンドゥの母。

・パーンドゥ王 Pāndu -- ドリタラーシュトラ王の異母弟。兄が盲目のため王位につく。五王子の父。クンティー、マードリーの夫。森の狩りで聖仙が姿を変えていた鹿を仕留め、呪いをかけられて死ぬ。

・ドリタラーシュトラ王 Dhrtarastra -- 盲目の王で優柔不断。パーンドゥ王の異母兄。百王子の父。甥の五王子を百王子とともに育てるが、実子ドゥルヨーダナの讒言を常に受け入れてしまう。

・ヴィドゥラ Vidura -- ドリタラーシュトラの母、アンビカーの下女と聖仙ヴィヤーサの子。身分の違いにより、王子にはなれず、ドリタラーシュトラ王の相談役となった。パーンダヴァ兄弟のゆくすえを案じ、五王子の危機の際には情報と助言をよこす。道徳の神ダルマの生まれ変わり。

・ガーンダーリ Gandhari -- ドリタラーシュトラ王の后。百王子の母。信仰厚い彼女に神から百人の子が授けられた。盲目の夫、ドリタラーシュトラ王を軽んずることのないように、自らも黒い布で目隠しをして夫と暮らした。

・シャクニ -- 百兄弟の叔父。サイコロ賭博の名手。ユディシュティラから賭博で全てを巻き上げる。ドゥルヨーダナが五王子に対する悪巧みをする際には、ドゥフシャーサナ、カルナと共に欠かせない存在。大戦ではクル軍。

・ドゥルヨーダナ Duryodhana -- カウラヴア百兄弟の長男。ビーマとは幼い頃からの確執があった。クル国の王位継承を確実なものとするため、従兄弟である五王子の追い落としを図る。大戦ではクル軍。棍棒戦の達人。名の意味は征服されざるもの。

・ドゥフシャーサナ Dushasana -- 百王子の次男。兄ドゥルヨーダナに忠実で、パーンダヴァ五王子に対して兄が行った数々の策略に深く関わった。サイコロ賭博の際には、賭に負け奴隷とされたドラウパディーを、人前にもかかわらず身ぐるみをはごうとして、ビーマに復讐の誓いをたてられる。名の意味は支配し難きもの。大戦ではクル軍。

・クンティー Kunti -- パーンドゥ王の后。ヤドウ族の長シューラ王の娘。養父はクンティボージャで父の従兄弟。兄ヴァスデーヴァはクリシュナの父。呪文によってパーンダヴァ五王子の上から三人を身ごもり、マードリー亡き後五王子を育てる。

・マードリー Mādri -- パーンドゥ王の后。マドラ国の姫。夫に願い、もう一人の妃、クンティーの呪文により双子を授かる。呪いをかけられて死んだパーンドウ王を追って殉死する。

・ユディシュティラ Yudhisthira -- パーンダヴァ五王子の長男、母はクンティーで、道徳、正義と法の神ダルマの子。名の意味は堅忍不抜。大戦ではパーンドゥ軍。

・ビーマ (ビーマセーナ)Bhima -- 五王子の次男、母はクンティーで、風神ヴァーユとの子。名の意味は恐るべし。怪力の大食漢、狼腹と呼ばれる。大戦ではパーンドゥ軍。

・アルジュナ Arjuna -- 五王子の三男、母はクンティーで雷神インドラとの子。弓矢の名手。聖仙ヴィヤーサの助言により、カウラヴァ軍との戦いに備えて、神々の武器をもらい受けるために苦行し、無事務めを果たす。聖仙ナラの生まれ変わり。名の意味は銀の輝き。大戦ではパーンドゥ軍。

・ナクラ Nakula -- 五王子の四男。双子の兄で、母はマードリー。太陽神の双子の息子、医術の神アシュヴィン双神との子。色黒の貴公子。王国では財政でユディシュティラ王を助ける。大戦ではパーンドゥ軍。

・サハデーヴァ Sahadeva -- 五王子の五男。双子の弟で、母はマードリー。色白の貴公子。王国では行政でユディシュティラ王を助ける。大戦ではパーンドゥ軍。

・ドラウパディー Draupadi -- パンチャーラ国の姫。ドローナに国半分を奪われたパンチャーラ国王ドルパダが、ドローナを倒せる男子がほしいと祭祀を行い、兄ドリシュタデュムナとともに授けられた。パーンダヴァ五王子の共通の妻。女神ラクシュミーの生まれ変わり。

 ドラウパディーが生まれたとき、神の声が響き「将来この女性によってクシャトリヤ(武士階級)は滅亡に瀕し、神々はその目的を遂げるであろう」と予言した。

・ドリシュタデュムナ dhrstadyumna -- パンチャーラ国ドルパダ王の息子で五王子の妻ドラウパディーの兄。ドローナを倒すために生まれてくる。ビーシュマを倒すために女から男に生まれかわったシカンディンの兄。クルクシェートラの戦いではパーンドゥ軍の総司令官を務める。

・シカンディン Sikhaṇḍi -- 前世はビーシュマが義理の弟ヴィチトラヴィーリヤの妃として獲得したカーシ王国3姉妹の姫、長女アンバー。好きな人がいると告白して返されたがそのシャールヴァ王子は拒絶し、ビーシュマの妃になることも叶わなかった。ビーシュマに復讐するために苦行し、次世ではシカンディーニとして、パンチャーラ国ドルパダ王の子として生まれ、男シカンディンとして育てられた。夜叉ストゥナーと性を取り替え、男となった。大戦ではパーンドゥ軍。

・ドローナ Droṇa -- 武術の師匠で軍師。自分を辱めたパンチャーラ国王(子供の頃共に学んだ)を見かえすためアルジュナ他の弟子たちにパンチャーラ国を攻めされ打ち負かし、北半国を我が物にする。大戦ではクル軍。

・カルナ Karṇa -- 五王子とともにドローナの弟子。母はパーンドゥ王に嫁ぐ前のクンティーで、太陽神スーリヤとの子。生まれた赤子は捨てられて、アンガ国の御者夫婦に拾われて育てられた。ドゥルヨーダナに仕え、大戦ではクル軍として五王子と戦う。

・クリシュナ Krsna -- ヤドゥ族の王子。五王子の母クンティーは叔母にあたる。五王子のよき指南役。聖仙ナーラーヤナ、ヴィシュヌ神の生まれ変わり。大戦では五王子側につき、戦意を無くしたアルジュナに「バカヴァッド・ギーター」を説き励ます。

 神々から、神や聖仙に災いをなす者や羅刹を倒し、そしてクシャトリヤ(王族・武士階級)に壊滅的打撃を与える密命を帯びている。

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・パーンダヴァ Pandava -- 五王子。「パーンドゥの子ら」という意味。

・カウラヴァ Kaurava --「クルの子孫たち」を意味し、100人の王子を指す。

・クル国 --ユィディシュティラ、パーンダヴァたちが住む都が「インドラプラスタ」。ドリタリーシュトラ王とカウラヴァ、ビーシュマ、ヴィドゥラが住む都が「ハースティナプラ」。文中のクル軍はカウラヴァ側の軍を指す。

・バラモン --インドのカーストの最上位である司祭階級。文中では、修行僧とみていい、苦行者、聖仙なども司祭。その中で、聖仙(リシ)は特に、神話・伝説上の聖者あるいは賢者達のこと。サンスクリット語で「賢者」を意味する。インド神話では、ヨーガの修行を積んだ苦行者であり、超能力を体得した超人。

・御者(スータ) --馬を操る者ではあるが、王などが信頼する人に任せることが多い。クル国大臣サンジャヤもドリタラーシュトラ王の御者。大戦の際にはアルジュナの御者はクリシュナである。

・羅刹(らせつ) --ラークシャサ。インド神話の悪鬼。よい種族もあるという。「ラーマーヤナ」のラーヴァナも羅刹。

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クルタ・ゴサ バレ・カンバンのマハーバーラタの壁画

■宰相ビーシュマのおいたちと誓い

 バラタ王の子孫のクル族は、代々クルクシェートラを治め、ハースティナプラの都に住んでいた。

 国王シャーンタヌは、人間の姿になった女神ガンガーに一目惚れし、「私のすることに口出しをしない」という条件のもと、ガンガー女神と結婚する。

 ガンガーは生まれてくる子供を次々と河に流してしまう。ガンガーが8番目の子供を河に流そうとしたとき、遂に我慢しきれなくなり、「どうしてそんな残酷なことをするのか」と怒ってしまった。ガンガーは自分の正体を明かして、それぞれの子はヴァス神たちの生まれ変わりであり、神の元に返したのだといい、8番目の子供と共に約束を反古にしたシャーンタヌ王のもとを去った。

 ガンガーはその数年後に再びシャーンタヌ王の前に現れ、少年となった8番目の子供を返した。これがデーヴァヴラタ、後のビーシュマである。

 ガンガーがいなくなった後、シャーンタヌ王はサティヤヴァティーという体から芳香のする美しい女性と結婚しようと思った。しかし、漁師の長であるサティヤヴァティーの父は、「娘の子が王位を継げないのであれば、嫁にやる事はできない。」という条件を出した。

 シャーンタヌ王にはガンガーとの間にできていた息子デーヴァヴラタが文武両道に秀で、理想的な王位継承者として期待していたため、王はサティヤヴァティーとの結婚に踏み切ることができなかった。

 父の悩みを知ったデーヴァヴラタは、自らの王位継承権を放棄し、王国の将来に禍根を残さぬため、生涯の不婚を誓う。この困難な誓いの後、彼はビーシュマ(恐るべき者)という名で呼ばれるようになる。

 ビーシュマはサティヤヴァティーを父王シャーンタヌのもとへ連れ帰り、結婚させた。二人の間にはチトラーンガダーとヴィチトラヴィーリヤという2人の王子が生まれた。

 シャーンタヌ王の死後、ビーシュマは生涯王位につくことを放棄していたため、チトラーンガダーが王位についた。ところが、チトラーンガダーは戦争で死んでしまい、後継ぎがいなかったので、弟のヴィチトラヴィーリヤが王となった。

■カウラヴァの百王子の父とパーンダヴァ五王子の父

 ヴィチトラヴィーリヤ王が子どものないままに夭折する。ビーシュマの継母であるサティヤヴァティーは、ビーシュマに誓いを棄てて王位につき、ヴィチトラヴィーリヤの2人の妻を娶って子を授けることを要求したが、ビーシュマはこれを固辞した。すると、サティヤヴァティーはシャーンタヌ王との結婚以前の子に、聖仙ヴィヤーサがいることを明かした。

 血統を絶やさないためヴィヤーサが呼ばれ、アンビカーからはドリタラーシュトラが、アンバーリカーからはパーンドゥが生まれ、アンビカーの下女からはヴィドゥラが生まれた。

 兄のドリタラーシュトラは盲目だったため、ヴィチトラヴィーリヤ王の死後は弟のパーンドゥが王位についた。

 ある日、パーンドゥ王が狩りに出かけ、交尾中の鹿を射た。ところがその鹿は聖仙が変身した姿であり、死ぬ間際に聖仙はパーンドゥに「おまえは妻と交わったら死ぬ」という呪いをかけた。パーンドゥは出家しビーシュマに王国を任せ、2人の妻たちと共に森の中で隠棲生活を送った。

 パーンドゥは未だ息子にめぐまれていなかった。2人の妻クンティーとマードリーは、呪いのためパーンドゥとの子供を作ることができなかったため、クンティーが若い頃会得していた、神々の子を授かる呪文・マントラを唱えて子供を身篭った。

 クンティーの子が、ユディシュティラ、ビーマ、アルジュナ。マードリーの子がナクラ、サハデーヴァである。彼らがパーンダヴァ五王子と呼ばれた。

 ある春の日に浮かれていたパーンドゥは妻のマードリーと交わってしまい、たちまち死んでしまった。第一妃として王と共に死ぬというクンティーに対して、五王子をともに育てられるのはあなただといって、マードリーは王の火葬に際して自らも共に焼かれることを願った。

 

 パーンドゥ退位後、盲目の兄ドリタラーシュトラが即位する。

 ドリタラーシュトラは妃ガーンダーリとの間に百人の息子と一人の娘をつくり、その長男はドゥルヨーダナといった。これがカウラヴァの百王子である。

 ドリタラーシュトラ王はユディシュティラが一族の第一番目の後継者であり、我が子ドゥルヨーダナは彼の次の王になれるだろうかと臣下に訪ねた。弟ヴィドゥラは、ドゥルヨーダナが生まれた時に不吉な予兆があり一族を滅ぼす者だといい、殺すことを進言したが王にはできなかった。

■五王子の試練の始まり

 パーンドゥの火葬の後に、王と共にいた苦行者たちは残された彼らの行末を相談し、遺骨とクンティー、五王子を連れて象の都ハースティナプラに向かった。この時、長男のユディシュトラは16歳だった。

 ドリタラーシュトラ王は、クンティーに育てられたパーンダヴァ五王子を引き取ってカウラヴァ百王子と共に養育した。

 五王子は全ての遊戯において百王子を凌駕し、特に体が大きく力が強いビーマに、百王子はねじ伏せられた。

 ドゥルヨーダナは謀略によって、ビーマをやっつけてやろうと決意し、ビーマの隙をうかがった。縛って川に突き落としたり、毒蛇に噛ませたり、食物に毒を入れたりしたが、ビーマは全て問題にもしなかった。

 学術・武芸においてもパーンダヴァはカウラヴァに優り、両者の間に対立が芽生える。

 ビーシュマはドローナをクル族の武術師範とし、多くの王子がドローナから武術を習っていた。ドローナは王子たちが武術を習得したので披露したいと、ドリタラーシュトラ王に申し出た。

 その御前試合では、アルジュナが卓越した武技を示した。そこに共に武術を学んでいたカルナが現れ、アルジュナが行った技を全てやってのけた。

 二人は一騎討ちすることを望んだが、立会人クリパは「作法では王族どうしでないと決闘はしない、カルナに氏素性を名乗りなさい。」といった。御者(スータ)の子であるカルナには戦う資格がない。それを聞いたドゥルヨーダナは、戦う資格としてカルナが育った国、アンガ国の王位を与えた。

 一騎討ちは日没のために行われなかったが、この贈り物に何で応えたらよいのかというカルナの問いに、ドゥルヨーダナは永遠の友情と答えた。

 民たちが、次の王はパーンドゥ王の長男ユディシュティラがいいといっているのを聞いて、妬んだドゥルヨーダナは父にパーンダヴァを遠ざけるように進言した。パーンダヴァへの衆望に不安を感じていたドリタラーシュトラ王はユディシュティラにヴァーラーナーヴァタの都に住むように勧めた。

 ドゥルヨーダナは、急ぎロウ(ラック。虫の分泌する天然樹脂)を塗り込めた家を造りそこに住まわせて、パーンダヴァを焼き殺そうと計画した。

 叔父ヴィドゥラは悪巧みを察知し、ユディシュティラに警告のことわざを伝えた。新しい家をみたユディシュティラは策略に気付いた。ヴィドゥラが使わした穴掘り人夫を使い、密かに地下道を掘って逃げ道を作り、自ら家に火をつけて逃げ出した。ドリタラーシュトラ王たちは嘆き悲しみ、五王子たちの葬儀を行った。

 逃げだした五王子と母クンティーは、森で疲れて眠ってしまった。そこにいたビディンバという羅刹(らせつ)がパーンダヴァたちを食おうとした。

 羅刹の妹ビディンバーは、兄の言いつけで様子を見に行ったが、一人起きていたビーマを見て、自分の夫にしようと心に決め、最高の美女の姿になりビーマを口説いた。そこにやって来たビディンバはビーマと戦って打ち殺された。

 ユディシュティラはビディンバーの願いを聞きいれ、ビーマとの日中だけの結婚を許した。ビディンバーはビーマの子を産み、ガトートカチャと名付けられた。その羅刹の子は、実はインドラ神がカルナと戦わすために創造したのであった。

 生き延びた五王子と母は、エーカチャクラの街のあるバラモンの家に隠れ住んでいた。

 ある時、バラモンの家族が嘆いているわけをクンティーが聞くと、バカという羅刹に食べ物と人身御供を差し出さなくてはならないという。クンティーはその役をビーマにやらせ、ビーマはバカと戦い成敗した。

 あるバラモンからパンチャーラ国のドルパダ王が娘のドラウパディーの婿選びの弓の競技会※をするという話しや経緯を聞き、五王子たちはパンチャーラ国へ向かった。(※スヴァヤンヴァラ:王女が自ら花婿を選ぶ)

 ガンジス河畔の聖地に差し掛かった時、川で遊んでいるガンダルヴァ(半神)の王チトララタと争いになり、アルジュナは火神の武器アーグネーヤにより打ち負かした。チトララタは許しを請うとともに、五人の兄弟に百頭ずつガンダルヴアの駿馬を贈った。それから、五王子はチトララタが紹介したダウミヤの隠棲所へ行き、最高のヴェーダ学者であるダウミヤにパーンドゥ家司祭の職を引き受けてもらい、一家にとってのこれからの展望に明るい兆しが見えた。

■パーンダヴァとドラウパディーの結婚

 パンチャーラ国で催された弓の競技会には、各国の名立たる王子たちが参加し、ドラウパディー姫を手に入れようとした。カウラヴァの百王子も参加していたし、そこには、五王子と共にカルナもいた。ただ、弓の名手カルナは、姫から「その御者の子は望まぬ」と言われ弓を引くことはなかった。

 参加者は巨大な鉄製の弓を用いて5本の矢を的に命中させなければならなかったが、誰も弓を引き絞ることさえできなかった。そこで、バラモン僧に扮したアルジュナが挑戦し、弓を軽々と持ち上げて5本の矢を命中させた。ドラウパディーはアルジュナを夫に選び、その首に自ら花輪をかけた。

 婿選びの弓の競技会に参加していた王族たちは、姫がバラモンを選んだのは王族に対する侮辱だと騒ぎ立て、ドルパダ王を殺そうとしたが、アルジュナとビーマがそれに立ちはだかった。

 アルジュナが家にドラウパディーを連れ帰り、母のクンティーに「素晴らしいものを持ち帰りました。」と報告すると、クンティーは托鉢して施物を集めてきたものと勘違いし、兄弟で等しく分かち合うようにといった。

 ユディシュティラは、ドラウパディーを見ている兄弟たちの顔を見て、そうすることが仲違いせずにすむと考えて、ドラウパディーは五王子の共通の妻となった。

 弓の競技会を見に来ていたクンティーの甥であるクリシュナと兄バララーマは、パーンドゥ家を訪ね、みなが生きていたことを喜んだ。

 パンチャーラ国王ドルパダは、かつてドローナが差し向けたために戦ったアルジュナの力を認め、アルジュナに姫を与えたいものだと考えていた。王は、息子のドリシュタデュムナにバラモンたちの後をつけさせて、五王子に違いないと確信して、次の朝改めて王宮に招いた。

 ドルパダ王は、ドウラパディーが五王子共通の妻となることを知り、道義に外れるのではないかと心配したが、聖仙ヴィヤーサが現れ王に姫の前世を語り、王は納得して五王子との結婚を祝福した。

 パーンダヴァたちが生きていることを知った百王子の長男ドゥルヨーダナは、再び計略を用いて五王子を殺そうとしたが、ビーシュマらに説得されたドリタラーシュトラ王は、五王子を帰国させて王国の半分を与えることにした。

 王と百王子はハースティナプラを治め、五王子の長男ユディシュティラは王となり、辺境の地カーンダヴァプラスタに兄弟とともに素晴らしい都を作りあげ、インドラプラスタと名付け首都とした。ビーシュマ等の命によりパーンダヴアは他国を攻めクル国の領土の拡大に力を尽くした。

 パーンダヴァには、他の兄弟が妻ドラウパディーと二人だけで室にいる時はけっして部屋に入らないという結婚の規定をつくった。ある時、アルジュナが民の訴えにより盗賊を倒すためには、弓を取るためにそれを破らざるを得なくなった。盗賊を倒した後に、ユディシュティラが止めたにもかかわらず、約定どおり12年間の巡礼に出た。

 旅が終わりに近づいた頃、ヤドゥ族の従兄弟・クリシュナと会い彼の家を訪れた。アルジュナはクリシュナの妹スバドラーを見そめ結婚し、インドラプラスタに帰国した。スバドラーはアビマニュという息子を産んだ。クリシュナは国に戻らず、アルジュナといっしょにアビマニュに武芸の技を仕込んだ。

 クリシュナとアルジュナがヤムナー川に遊びに出かけた時、そこに光り輝くバラモンが近づいた。

 そのバラモンは火神アグニであり、火神の務めを果たすためには、カーンダヴァの森といっさいの生類を燃やして食べることが必要だといった。その森にはインドラ神の友人の竜が住んでいて火の神がいくら燃やしても、インドラ神が雨を降らせてじゃまをするのだった。

 アルジュナは火神の頼みを遂行するためには、強力な弓と無尽の矢の入る箙(えびら)、そして最高の戦車が必要だといった。火神はそれを調達してアルジュナに渡し、クリシュナには神の武器である円盤・チャクラを渡した。

 アルジュナとクリシュナは燃えさかる森から逃げようとする生物を殺し、インドラ神の妨害と神々との戦いにも屈しなかった。

 インドラ神は二人の戦いに満足し願いを叶えようといい、アルジュナはインドラから全ての武器を得たいと願い、インドラ神はその時がきたら与えるだろうといった。

 森の火災からマヤという阿修羅がアルジュナに助けられた。マヤ(魔族の偉大な技術者)は二人に御礼をしたいといい、クリシュナはユディシュティラにふさわしい集会場をつくるように望んだ。マヤは十四ヵ月かけて、人間界には他にない集会場を造った。

 完成した集会場にナーラダ仙が現れ、ユディシュティラに王のための政策を説き、ラージャスーヤ祭・皇帝即位式を行えと助言した。

 ユディシュティラは、ラージャスーヤ祭を行う是非について顧問官や弟たちの意見とクリシュナの考えを聞いた。クリシュナは、マダカ国王のジャラーサンダが征服した国の王を多数人質にしているので、彼を討伐し、王たちを解放しなくては世界皇帝になることはできないといった。

 クリシュナ、アルジュナとビーマがマダカ国に行った。三人はバラモンの身なりをしてジャラーサンダ王に会い「王を倒しにきた。三人の中から戦う相手を選べ。」とクリシュナはいった。ジャラーサンダ王はビーマを指名した。二人の戦いは十四日目にビーマの勝利で終わった。ジャラーサンダ王が殺された後、三人は幽閉されていた王たちを解放し、ラージャスーヤ祭への援助を依頼した。

 すべての王を招待してラージャスーヤ祭が行われた。ハースティナプラ(ドリタラーシュトラ王の都)からもドリタラーシュトラ王、ビューシュマ、ドローナ、ヴィドゥラ、ドゥルヨーダナたち百王子も招待され、祭式の係も務めた。盛大な祭式が終了し、ユディシュティラは世界皇帝の地位についた。

 しかし、「ラージャスーヤ祭を挙行した場合には、世界の破滅をもたらす争いが起こるかもしれない。」という聖仙ナーラダの予言がユディシュティラの頭によぎった。

 祭式の招待客が帰国した後も、ドゥルヨーダナとその叔父シャクニだけが集会場に滞在していた。ドゥルヨーダナは集会場をゆっくりと見て回った。

 その際に床が水晶の面の場所で、水と思い自分の衣をたくし上げたり、今度は池を水晶面と思い水に落ちたり、透明な扉に額をぶつけたりして、召使いやパーンダヴァたちに笑われた。

 ドゥルヨーダナは祭式に集まった諸王の贈り物の財宝やりっぱな宮殿、ユディシュティラの栄達を見せつけられ己の惨めな思いを強くした。

■サイコロ賭博と森への追放

 ドゥルヨーダナはパーンダヴァの繁栄を見て嫉妬に苛まれていた。そこで母ガーンダーリの兄、叔父シャクニの入れ知恵でユディシュティラをサイコロ賭博に誘い賭けで打ち負かし、武器に頼ることなく全てのものを巻き上げてしまおうと考えた。

 ドリタラーシュトラ王はヴィドゥラに相談したりして、乗り気ではなかったが、ドゥルヨーダナのたっての頼みに負け、ユディシュティラに使者を出してサイコロ遊びに招待した。クシャトリア(武士階級)のしきたりでは、サイコロ遊びの招待は断ることはできないことになっていた。また、ユディシュティラ自身、下手ではあったのだがサイコロ遊びが好きだった。ドリタラーシュトラ王は、インドラプラスタに負けないりっぱな集会場を急ぎ造ることを命じた。

 多くの観客を集めて、ユディシュティラに対して、賭け手はドゥルヨーダナ、しかし対戦相手はサイコロ賭博の名人であるシャクニという賭博が始まった。ユディシュティラはシャクニに負け続けた。

 王の弟ヴィドゥラは賭博を止めさせないとクル族が滅ぶことになるとドリタラーシュトラ王に訴えた。

 シャクニの詐術は、ユディシュティラから財宝、王国、五王子自身、妻ドラウパディーに至るまですべてを巻き上げてしまった。百王子の次男ドゥフシャーサナは、生理中で部屋にこもっていたドラウパディーを無理矢理観覧者の前に引きずりだして奴隷女とあざ笑った。ドゥルヨーダナに仕えていたカルナも追随し、五王子とドラウパディーの着物をはぎ取れといった。ドゥフシャーサナがドラウパディーの衣に手をかけると次から次に衣が現れた。それを見たビーマは、戦いにおいてドゥフシャーサナの胸を切り開いてその血を飲んでやると誓いを立てた。

 ドゥルヨーダナの弟の一人のヴィカルナは、サイコロ遊びを見ていた王や重臣たちに、このような行いはゆるされるものではないと訴えた。

 勝ち誇ったドゥルヨーダナはドラウパディーが見ている前で左の腿を露わに見せ、奴隷女としてかわいがってやると暗示した。ビーマは、戦いでドゥルヨーダナの腿を棍棒で砕いてやると大声でいった。

 王の弟ヴィドゥラのいさめとドリタラーシュトラ王へのドラウパディーの必死の訴えにより、王は一旦は勝負がなかったこととし、五王子は王国と自分達およびドラウパディーの自由を取り戻すが、そのままではおけないドゥルヨーダナが王に頼み込み、再度サイコロ勝負を強いた。

 「敗者は、12年の間森に隠れ住み、13年目は誰にも知られずに暮らして初めて帰還できる。13年目を無事終えたら王国を返す。」という条件で行った2回目の勝負にも、ユディシュティラは負けてしまう。

 パーンダヴァとドラウパディーは森へ追放されることになった。老いた母クンティーはヴィドゥラの家に残った。

パーンダヴァはカーミヤの森まで進んだ。叔父ヴィドゥラは自分の意見を聞こうとしない兄王と仲違いし、カーミヤの森に来て、パーンダヴァに時節を待つようにと告げた。ドリタラーシュトラ王は弟が出奔したことに驚き、あわててヴィドゥラを呼び戻した。

 カーミヤの森に多くの友人が訪ねてきて、このような事態になったことに憤慨し、かつ励ました。クリシュナはアルジュナの妻、妹のスバドラーとその息子アビマニュを連れて自国に戻った。ドリシュタデュムナも妹・ドラウパディーの息子たちを連れて自分の都へ立った。友人たちはそれぞれ帰ったが、多くの苦行者たちはパーンダヴァと共に次の森に行くことを願った。

 パーンダヴァは森林地帯をさまよい、聖地を巡礼し、聖仙たちから教えを受け、様々なできごとを経験する。その間、アルジュナはヴィヤーサ仙の助言による兄の命を受け、来るべき戦いに供えて神々の武器を授かるため聖地ヒマーラヤへ赴いた。そこで、苦行者の姿のインドラ神に会い、神々の武器を得るためにはシヴァ神に願えと助言された。

 アルジュナがシヴァ神を探している時、山岳民の狩人と同時に猪を射る。二人は口論から戦いになり、アルジュナはまったく歯が立たなかった。その狩人はシヴァ神であり、パシューパタという武器と神弓を授かった。そしてアルジュナは、父インドラ神に天国に連れて行かれ、神々から多くの武器を得てその使い方を学んだ。一方、残された兄弟とドラウパディーはアルジュナに少しでも近づこうと神々の住む山を目指した。

 インドラ神は神々からもらった武器により、魔族を退治するようにアルジュナに命じた。アルジュナはインドラ神の戦車に乗り、インドラ神の御者マータリとともに神々に対抗する魔族を平らげた。

 インドラ神から帰るべき時がきたと告げられ、アルジュナはインドラ神の天上車に載り、兄弟と妻ドラウパディーの待つカイラーサ山に戻った。

 森で暮らしているパーンダヴァを見て蔑みたいと考えたドゥルヨーダナは、牧場視察の名目で軍勢を引き連れて出向いた。その地で、ガンダルヴァ・半神たちと交戦になり捉えられ、パーンダヴァに救けられる。ドゥルヨーダナは恥ずかしさのあまり自殺しようとしたが、悪魔の励ましで思いとどまりパーンダヴァを征服することを心に固く誓った。

 ドゥルヨーダナは、ユディシュティラに対抗するため、ラージャスーヤ(皇帝即位式)を行うことを考えついた。しかし、王家付司祭はユディシュティラが生きている限り、ラージャスーヤは無理だとされ、代わりにそれに匹敵するヴァイシュナヴァという祭祀を挙行することで我慢した。

 パーンダヴァが庵にいない時に、結婚式に出席するためにカーミヤの森を通りかかったシンドウ国の王ジャドラタが、ドラウパディーを見そめ、妻になれといって強奪した。追いかけてきたビーマとアルジュナに軍勢は粉砕され、ジャドラタ王は髪を剃られて放免された。ジャドラタ王は復讐のために非常に激しい苦行をし、シヴァ神に「戦場でパーンダヴァを食い止めたい」と願った。シヴァ神は「アルジュナ以外の4人を食い止めるだろう」と聞きいれた。

 カルナの元に、アルジュナの父インドラ神がバラモンの姿で来て、僧に対する施しとして、生まれた時から身体に着いている耳飾りと鎧を求めた。カルナは、父スーリア神から忠告を受けていたのだが、バラモンに施しをするのは自分の信義だとして、不死身の証となるこれらを体から引き剥がし、その代償としてインドラ神から投げるとけっして外れることのない必殺の槍を受け取った。

 火を起こすために使う火ぎり棒を鹿に奪われたというバラモンの頼みによりパーンダヴァは探しに出かけるが、湖の水を飲み次々と倒れてしまう。弟たちを探すユディシュティラの前に夜叉が現れ、問答を強いた。ユディシュティラは全て答えて弟たちを救う。夜叉はユディシュティラの父ダルマ神だった。ユディシュティラは、素性を知られずに最後の13年目を過ごせるようにと願い、ダルマ神は「かなえるだろう」と約束した。

■五王子と百王子の戦いを前にして

 追放13年目に森での暮らしを終え、パーンダヴァはマツヤ国のヴィラータ王のもとに身を寄せ、王の宮廷で召使いとして働いた。ユディシュティラはサイコロ遊びの師匠。ビーマは料理人。アルジュナは踊りと音曲の師匠。ナクラは馬飼い。サハデーヴァは牛飼い。ドラウパディーは王妃の侍女となった。

 ところが、追放の期間があと1ヶ月で終わるという時になって、王妃の弟キーチャカ将軍がドラウパディーに懸想し、ビーマに殺されるという事件が起きた。将軍がいなくなったことを幸いに、ドゥルヨーダナはトリガルタ国と共にマツヤ国に攻め込んできた。

 アルジュナを除くパーンダヴァはヴィラータ王と共にマツヤ国の戦士として戦い、牛を奪いにきたトリガルタ軍を粉砕し捕虜にされたヴィラータ王を救った。その後にクル軍が攻めてきた。マツヤ王子ウッタラが踊りの師匠となっているアルジュナを御者として、単身で乗り込んだ。クルの軍勢を見て、王子は怖くなり引き返そうとしたが、アルジュナは王子を御者にし、クル軍に打ちかかった。

 あの弓取りはアルジュナに違いないと、ビューシュマが追放の期間を改めて数えたが、既にその期間は過ぎていた。アルジュナは単騎でクル軍を撃退した。

 一夜明けて、ヴィラータ王の前に正装したパーンダヴァとドラウパディーが現れて、王に正体を明かし、パーンダヴァとマツヤ国は同盟を結ぶこととなった。

 ヴィラータ王は、マツヤ国をユディシュティラに引き渡し、娘のウッタラーをアルジュナに与え、アルジュナは息子アビマニュの妻として受けとった。

 パーンダヴァとクリシュナは結婚式に招かれた諸国の王と今後どのようにすべきか協議し、和戦両用の構えとして、まずクル国に使者として司祭を送り、サイコロ賭博の際の約定にもとづいて取り上げられた領土インドラプラスタの返還を求めた。それがダメなら5つの村でもよいとまでいった。

 両陣営で戦争の準備が進められる。いずれにも深い関わりのあるクリシュナは、無腰の自分か軍隊かを両陣営に選ばせ、アルジュナは自分の戦車の御者にクリシュナを選び、ドゥルヨーダナはクリシュナの軍勢を選んだ。

 クリシュナはパーンダヴァ軍の軍師となり、自らは武器を使わないことを誓った。兄バララーマはいずれの味方もしないことを宣言し巡礼に旅立った。

 クル国もドリタラーシュトラ王が戦を避ける方策はないかと、大臣サンジャヤを使者として遣わした。サンジャヤの報告にビーシュマやドローナがパーンダヴァの軍勢にはかなわない、戦わず講和して領国を返すべきといったが、ドゥルヨーダナは勝てないわけがないと戦いを選ぶ。

 妻ドラウパディーの国、パンチャーラ国やマツヤ国はパーンドゥ軍に味方し、トリガルタ国、カリンガ国、シンドゥ国などはクル軍に味方することになった。

 パーンダヴァの双子の母、マードリーの兄であるマドラ国王シャリヤは、ドゥルヨーダナの策略により、クル軍に加勢することになった。シャリヤ王がパーンダヴァに詫びに来た時に、ユディシュティラはカルナとアルジュナの一騎打ちの際に、もしカルナがシャリヤ王を戦車の御者にした場合は力を貸してほしいと頼んだ。

 クリシュナが、戦いを避ける道を探ろうと最後の交渉にクル国に出向いた。ドゥルヨーダナはビーマ、ドローナ、ヴィドゥラ、聖仙らの説得にも心を変えようとはせず、断固として領土の返還を拒絶した。父である王はまったく無力であった。

 クリシュナはパーンドゥ軍に戻る前に、カルナに出生の秘密を話しパーンダヴァ軍に加わるように勧めた。カルナは実はクンティーがパーンドゥ王と結婚する前に、神の子を授かる呪文を試してできた子で、五兄弟の実の兄だった。カルナは、大戦争の結果を予期しながらも、裏切りではなくアルジュナと戦って名を残すことを選んだ。

 また、母クンティーも兄弟同士の戦いだけは止めさせようとカルナを説得した。しかし、カルナは不遇の時代に自分に目をかけてくれたドゥルヨーダナへの忠誠心から、百王子方・クル軍として戦うとの決意をクンティーに話し、ただし、五王子はアルジュナ以外の者は殺さない。私が勝っても殺されても、クンティーには5人の子は残るだろうと告げた。

 カルナは戦いを前に、ビーシュマが両軍の勇士を語った際に「カルナは大口を叩くがこれまで何度も戦場で逃げている。」と言われ、「ビーシュマが戦場にいるうちは共に戦わない。」と誓ってしまう。

 両軍はクルクシェートラでクル軍は西に、パーンドゥ軍は東に陣を構え対峙した。クル軍は11師団(約120万人)、パーンドゥ軍は7師団(約76万人)の軍勢だった。パーンドゥ軍の総司令官はドラウパディーの兄ドリシュタデュムナが、クル軍の総司令官は一族の長ビーシュマが務めることになった。

 いよいよ大戦が始まろうという時、パーンドゥ軍最高の戦士アルジュナは、突如戦意を喪失する。敵方に恩ある人々の姿を見つけたからだった。パーンダヴァ五王子・カウラヴァ百王子共通の大伯父ビーシュマ、同じく両者共通の武術の師ドローナなどである。二人とも心はむしろ五王子側にありながら、誓いや禄に縛られてクル軍として戦わなければならなくなっていた。

 アルジュナの戦車の御者をつとめていたクリシュナは、アルジュナに「道徳的義務を遂行する自分のダルマを果たすべきで、友人や知人の死で苦しんではならない。彼らは肉体の死によってその病んだ魂を純粋平和な世界へ開放することができるのだから」とバカヴァッド・ギーター(戦士の義務)を説き、アルジュナの戦意を回復させる。

 またユディシュティラは一人で敵軍の中へ赴き、総司令官ビーシュマや軍師ドローナに戦う許可を求めた。また、両師匠を倒すための弱点を教えてくれるように請うた。双方は戦いのルールを決めて守ることを約束したが、激しい戦いは憎悪を生みそれを許さなかった。

■同族同士の壮絶な戦い

 いよいよクルクシェートラの戦いは始まり、死闘が続く。聖仙ヴィヤーサが、ドリタラーシュトラ王の臣下のサンジャヤに、戦いの全てがわかる恩恵を与え、王は彼から戦況の一部始終を聞くことになる。

 戦闘10日目にパーンドゥ軍は、味方を次々に討ちはたすビーシュマを倒すために、シカンディンを先頭に立て、ビーシュマに総攻撃をしかけた。前の晩に五王子とクリシュナはビーシュマを訪ね、パーンドゥ軍が勝つためにビーシュマを倒す方策を聞きにいっていて、ビーシュマが教えてくれた方策で攻めたのだった。

 ビーシュマは、シカンディンの前世は自分に恨みを持つ女だったことを知っていて、矢を撃たなかった。シカンディンの矢とともに、その背後からのアルジュナの矢が身体中に突き立てられビーシュマは倒れた。

 ビーシュマが倒れると両軍の戦士がビーシュマのまわりに集まった。ビーシュマは戦争を中止し講和するように求めたが、ドゥルヨーダナは戦いを止めようとはしなかった。

 そして、ビージュマとは共に戦わないと誓ったクル軍の英雄カルナが参戦することになった。カルナは矢でできた寝床に横たわるビーシュマを一人訪ね、これまでの数々の無礼を詫びた。

 12日目、アルジュナがクル軍の特攻隊を倒すため、敵陣深く切り込み本隊から離れた。ユディシュティラを襲うドローナの固い陣形を切り開くため、アルジュナの息子アビマニュが突撃したが、後方の味方と離され、敵に囲まれて殺されてしまう。アルジュナは息子の仇として、アルジュナの救援隊を阻んだジャヤドラタを「明日の日没までに討ち果たし、できなければ生きてはいない。」と皆に誓った。

 13日目、クル軍は、アルジュナの誓いを聞き、シンドウ国の王ジャヤドラタを守る陣形とした。アルジュナは、仇の回りの軍勢を切り刻み、ようやく夕方に討ち果たした。

 ドゥルヨーダナは、仇を討たせてしまった総司令官ドローナを責める。ドローナは己の誇りを保つため、夜にかかわらず出撃した。それまでは双方日が落ちると戦いを止めていたが、こうして初めての夜戦になった。

 14日目、クリシュナは自軍を粉砕するカルナを倒すため、ビーマの息子羅刹のガトートカチャを差し向ける。

 ガトートカチャの幻術はクル軍を苦しめた。壮絶な戦いにより、カルナはアルジュナを殺すためにとっておいた一度しか使えないインドラ神の槍をガトートカチャに投げて殺した。クリシュナはアルジュナにとって災いとなる武器を使わせてしまったのだ。

 15日目、ビーシュマの後を継いで総指揮官になったドローナに対して、パーンドゥ軍はドローナの息子と同じ名の象を殺し「アシュヴァッターマンが殺された。」と放言した。ドローナはユディシュティラにそれを確認し、ユディシュティラも否定しなかった。ドローナは悲観し生きる意欲を失った。それでも、ドリシュタデュムナとの壮絶な一騎打ちは続いたが、ビーマの「バラモンであるあなた(ドローナ)が多くの人を殺して恥じないのか。ダルマ・法に背いている。」と言われ、ドローナが自ら武器を置いた座り込んだ時に、ドリシュタデュムナがその首をはねた。

 ドローナの息子アシュヴァッターマンは、父の復讐を固く誓い、ドローナの死により敗走したクル軍を引き返えさせた。アシュヴァッターマンはナーラーヤナという神的な武器を出現させ、パーンドゥ軍を燃やした。クリシュナが武器を鎮めるため「乗り物から降り武器を捨てよ」と指示し、ナーラーヤナの武器は効力を失った。

 クル軍第三の総司令官カルナは、17日目にアルジュナの矢に倒れる。

 アルジュナとカルナの一騎打ちになった。カルナの御者はシャリヤ王(パーンダヴァの叔父)であった。戦いの中、カルナの戦車の車輪が土に沈み込んで動かなくなってしまった。そして、カルナは必死でマントラを思い起こそうとしたが、どうしても思い出せなかった。いずれも、過去のあやまちによって受けた呪いのせいだった。

 攻撃するのをためらうアルジュナに御者のクリシュナが矢を放てといい、アルジュナは遂に決意し、神の弓と矢でカルナの首を射落としたのだった。

 ドゥフシャーサナもビーマに殺され、その胸を切り開らかれた。

 18日目、クル軍第四の総司令官マドラ国王シャリヤがユディシュティラに倒された。カウラヴァたちの叔父シャクニもサハデーヴァに殺された。クル軍は総崩れとなりドゥルヨーダナは逃亡して湖に逃げ込んで隠れたが、パーンダヴァたちに見破られた。

 ドゥルヨーダナは森に陰棲したいと願ったが、ビーマと棍棒で戦うことになった。お互い一歩も譲らない戦いであったが、アルジュナがビーマにサイコロ賭博の屈辱を想い出させ、ビーマはドゥルヨーダナの左腿を砕いて倒した。かくして大戦はパーンダヴァ側の勝利に終わった。

 しかし、実は戦いはまだ終わっていなかった。ドローナの息子アシュヴァッターマンは瀕死のドゥルヨーダナのもとに来て、敵軍をみな殺しにすると誓い、ドゥルヨーダナは彼を軍司令官に任命した。復讐に燃えるアシュヴァッターマンが、数人の味方と共にパーンドゥ軍の陣営に夜襲をかけた。パーンドゥ軍は外出していたクリシュナ、五王子など以外はほとんど全滅してしまう。五王子の息子たちもすべて殺されてしまった。

 ドゥルヨーダナはアシュヴァッターマンの活躍に喜び、息を引き取った。

 パーンダヴァは、怒ってアシュヴァッターマンを探しだし攻め立てた。アシュヴァッターマンは一枚の葉からブラフマシラーストラを作りだし、パーンダヴァとクリシュナに放った。クリシュナはアルジュナに同じ物を放たせその武器の効果を絶った。アシュヴァッターマンは武器を回収できず、「パーンダヴァの子孫を根絶やしにせよ」とウパブラヴィヤ(マツヤ国の首都)に残っていたアビマニュの妻ウッターラの胎内に入り死産となったが、クリシュナがその胎児の命を救った。

 カルナの死後、母クンティーからカルナが自分たちの実の兄であったことを知らされた衝撃もあり、五王子は自分達の勝利の味の苦さに打ちのめされた。

 息子たちを失ったドリタラーシュトラ王とガーンダーリ妃は非嘆に暮れた。五王子がハスティナープラの都に戻ってきた際には、ドリタラーシュトラ王は、息子たちを殺したビーマを抱きしめ締め上げた程だった。(実は、クリシュナがビーマの代わりに鉄の像とすり替え難を逃れていた。)王と王妃は五王子を息子として受け入れたものの、ガーンダーリ妃は同族同士の殺し合いを止めなかったクリシュナに対して怒り、「36年後に彼の親族は互いに殺し合い、彼は森で不名誉な最後を遂げるだろう。」と呪った。

■勝利のはてに

 ユディシュティラは一応の勝利を収めたものの、心は晴れなかった。1ヶ月に渡って両軍の戦死者の葬儀を行い、ハースティナプラに戻って王位に就いた。瀕死だったビーシュマであるが、自らの死ぬ時を選べる特権があり、このとき死んだ。

 ユディシュティラは馬祀祭を行って罪を清め、前王ドリタラーシュトラを相談役として正しい法に基づいて王国を統治した。

 ところがユディシュティラ王の統治15年目になって、五王子にかしずかれ静かに暮らしていたドリタラーシュトラとその妻ガーンダーリも、やがて生への倦怠をおぼえ、世を捨てて森へ行く。五王子の母クンティーも二人に従った。そして、王の寵臣サンジャヤも。一行はしばらく修行の生活を送った後、山火事に巻き込まれた。ドリタラーシュトラはサンジャヤに逃げることを命じ、自らは火事の中に身を置き、そして三人は亡くなった。

 ユディシュティラの36年の統治が過ぎた頃、クリシュナの一族ヤドゥ族が同士討ちによって滅びたという知らせが五王子のもとに届く。

 クリシュナは、不吉な前兆を察知し、ガーンダーリの呪いを避けるため一族と聖地巡礼に出発していた。かの地で盛大な酒宴が行われ、勇士たちは口論を始め殺し合いとなる。クリシュナも息子たちを殺されて、回りの者をみな殺しにした。

 兄バララーマはヨーガにより魂が肉体を離れた。クリシュナは森に入り、ヨーガを始めたが、鹿と間違えた猟師に足のうらを射られてこの世を去った。

 五王子はかけがえのない指導者を失い、世の無常に打ちひしがれた。クリシュナの死を聞いたパーンダヴァには、もはやこの世に何の未練もなくなった。

 ユディシュティラは王国をアルジュナの孫パリクシットに譲り、弟たち、妻ドラウパディー、一匹の犬と共にヒマーラヤへ向かう。妻と弟たちは次々に倒れるが、ユディシュティラはただ一人生き残りメール山に達した。

 インドラ神が彼を迎えに来た。インドラ神は犬を棄てよと命じたが、ユディシュティラは自分を愛しているものは捨てておけないといった。それを聞いた犬はダルマ神の姿を現し賞賛した。ユディシュティラは神々に導かれ、生きたまま天界に上る。

 天国には弟たちがいなかった。弟たちが地獄にいるなら自分もそこに行くと進んだ。すると、弟たちの声が聞こえ、地獄が天国に変わった。すべてはインドラ神のつくった幻想であった。

 神々から地獄に身を置かせられるという、最後の試練をもちこたえ、ユディシュティラは天界のガンジス川に入り肉体から離れた。

 弟たち、ドラウパディー、カルナ、ビーシュマ、ドローナ、クリシュナなど懐かしい人々との天国での再会を果たした。そして、カウラヴァの百王子も皆天国に昇り、いっさいの怨恨から解放されてのどかに暮らしたのだった。