蘿衣(霧藻、松羅) Usnea

http://mino-sigaku.la.coocan.jp/page200.html  【申尾がせの謎】 より

滋賀県犬上郡多賀町保月には112の小字があります。その中の一つが小字<申尾がせ>で

す。 読み方は<サルオガセ>。

40年前に帯広市に住んでいました私にとっては聞き覚えのある名前です。阿寒の山に入ると

エゾ松、トド松の枝に、色といい形といい、とろろ昆布を架けたのではないかと思われるものが、あちこちに見られた。バスガイドさんの説明ではこの植物が付くとその木はいずれは死んでいきますとの事であった。幽霊屋敷のくもの巣のような雰囲気があり、きっとそうであろうと思われた。同じ阿寒山系である層雲峡でも、羅臼でもみたような気がする。

釧路の友人に電話をしてみた。日ごろ、極普通に見ているためか、高い所にあるためか、

この植物についての詳細は知らないとの事です。人の手入れが行き届いているところでは発

生しないようで、帯広などでみられるカラ松には付かないそうです。

北海道でも高地にあるので、寒い所の植物であるが、その植物がなぜ滋賀県の保月で地名

としてのこっているのか不思議に思いました。保月にサルオガセが無かったら地名として残らなかったでしょう。サルオガセという言葉は私の頭の中ではカタカナで収まっていたため、本州にはないものと思っていました。

手始めに、辞書を繰ってみました。        

《猿麻?》サルオガセ属の地衣類の一群。全長0.2~1m。糸状でトロロ昆布に似ると以下説明

は続く。植物図鑑なども併せてみると別名に、松苔・末都乃古介・松羅・雲垢・霧草・霧藻・猫尻尾などが一杯あり、日本語の表現の豊かさに感心させられます。

古い書物では和名抄・本草和名・延喜式などにその名が記されている。寄生する木はぶなや

針葉樹が主ではあるが、温帯から寒帯の多湿の山地に群生とあるから、古くから本土にも存

在したことがわかります。乾かして松羅といい利尿剤としたことが分かっています。

保月という集落は鈴鹿山地を越えて美濃へ行く街道沿いにありますが、街道筋には峠のとこ

ろの「五僧」少し、下って「保月」、少し下って「杉」という集落があります。角川日本地名辞典に記されている事柄を記しますと

 地名   年代   戸数   人口   田   畑   山地   小字数

 五僧  1880   11     54    0   3 町  112 町   31

 保月  1880   65     301   1 反  26 町  194 町  112

 杉   1695   796     79   6 反  12 町  188 町   31

保月は人口が多いが、田、畑は少ないので、他のものから収入を得ていたことになります。 

直接に行って調べていませんが、もう一つのデーターがあります。

地名  薪   炭    牛蒡    桑葉    麻綛   苧綛   米

 五僧   6120斤                     4石

 保月  12500斤  1005貫  2 669貫   5000

 杉   3438斤                 1200  4.5石

保月が五僧の6倍の人口があるにも関わらす゛、生活が成り立ったのは桑葉と麻綛の収入に

あると思われます。 麻綛・苧綛は両方とも《おかせ》と読むようです。紡いだ糸を巻きつける器具を綛といい、その綛に麻、苧を巻きつけたもののようです。これを《おかせ》と言って、製作していたようです。サルオガセのオガセの部分が解明されたことになります。 しかし、前の部分のサルが解明されません。

麻綛が関係ないとすると利尿剤の《松羅》がやはり、本筋と言うことになります。

こちらのほうも残念ながら、保月で利尿剤が作られていたという資料は見つかっていません。

五僧は近江・美濃の国境をなす鈴鹿山地の峠に位置し、又彦根地方より伊勢参りの間道とし

ての交通もあり、木賃宿もあったので、薬を作っていた可能性はある。中世から近世にかけ

て、近江商人たちの茶荷物の世話をする権利を有し、茶1本に付き、5厘を受け取っていた資

料は存在するが、《サルオガセ》を扱っていた資料は無い。

結論 どうして《申尾がせ》という小字地名が残ったかは不明です。

どなたか ご存知でしたら 教えてください。


http://naturelog.main.jp/plants327.html  【深山にふさわしい地衣類サルオガセ】より

サルオガセ科サルオガセ属の地衣類で、漢字で書くと「猿尾枷」。霧藻とも呼ばれるようにガスがかかる深山によく似合う。亜高山帯に生える針葉樹の枝から垂れ下がるので、ヤドリギのように寄生しているようにも見えるが、あくまで着生であり、サルオガセによって木が枯れることはない。また生きている枝よりも枯れた枝を好むとも聞く。日本にはナガサルオガセやヨコワサルオガセなど、40種ほど知られているようだが、似ている種類が多く、地衣類の詳しい図鑑でもない限りも同定は難しい。

サルオガセ科ヤマヒコノリ属のヤマヒコノリ( Evernia esorediosa )もサルオガセにちょっと似ているが、こちらは垂れ下がらずに幹上で樹枝状に分岐する。

登山道に枝付きのサルオガセが落ちていた。拾い上げてみると、細かく分岐しながら長い糸状になっているのがわかる。同行者に持ってもらって撮影/北アルプス・乗鞍高原(左)。カラマツの枝から垂れ下がるサルオガセ。遠目に見ると、まるでとろろ昆布のようだ/長野県富士見町・入笠山(右)

同じサルオガセ科に属するヤマヒコノリは樹枝状に分枝して垂れ下がらない/栃木県日光市・奥日光