http://toolate.s7.coreserver.jp/kinoko/fungi/aleuria_aurantia/index.htm 【Aleuria aurantia (ヒイロチャワンタケ)】 より
台風で発生した鉄砲水がタイワンアリタケの発生坪を崩壊させてしまいました。 被害の様子を見ようと訪れると、崩れた斜面に何か見覚えのある色合いの丸い物体が。 地味に久し振りの出会いとなった子嚢菌類「緋色茶椀茸」です。 各種林内地上に発生しますが、個人的には撹乱地を好むように感じることが多いです。 随分昔に見て以来だったので、今回しっかりと観察することにしました。
道路工事直後の林道脇や、自然に崩れた林縁部斜面などの遷移が起きた場所に良く出ます。 そうでなくとも下草や腐植の多い場所にはあまり出ないようです。
要らない気もしますが、一応拡大してみました。 基本的には椀形ですが、成長するとこのように縁部が地面に貼り付くように皿形になります。 でもまぁぶっちゃけ特徴は和名にもなっている見事な原色オレンジでしょうね。 野外で見付けると人工的すぎてプラスチックか何かだと思っちゃいます。
世界中に分布する汎布種なので大したこと無いだろうと思いつつ顕微鏡観察してみました。 ただこの思いは良い意味で裏切られることとなるんですけどね。 子実層面を見るとオレンジ色の色素は子実層面に集中していることが分かります。
子嚢と側糸は色が濃すぎて良く分からない!
と言うことで切り出してみました。子嚢は内部に子嚢胞子8個を一列に生じます。 特徴的なのは側糸で、内部にかなりの色素を内包しています。 側糸が分岐しているように見えますが、これはただ重なっているだけ。 糸状の側糸は隔壁を持ち、先端部だけが顕著に肥大する性質があります。
油浸対物レンズを用いて側糸を拡大してみると、隔壁と色素の粒子が観察しやすいです。 色素を内包する側糸は色々見ましたが、本種の色濃さは上位に食い込むんじゃないかな?
側糸先端を拡大してみました。 先端部だけ妙に膨らんでおり、径が9μmと側糸そのものの3倍ほどの太さになります。 でも正直さっきから胞子の凄まじさに意識が向いちゃってます。そう、もうお分かりですよね?
私も知らなかったんですが、本種は非常に魅力的な形状の胞子を持っているのです。 子嚢胞子は基本楕円形で2つの油球を両端付近に内包しています。 ここまでは子嚢菌類の胞子あるあるですが、本種は表面に規則的な網目状隆起を持っています。 オオシトネタケを彷彿とさせる外見ですね。
もしやと思いコットンブルーで染色してみたら、目の前に衝撃的な光景が! 何と網目状隆起部が濃く染まり、青い網目模様が浮かび上がったのです! う、美しい!正直普通種だと思ってナメてましたスンマセン。 良く見ると胞子の一端だけ網目が長く伸びるみたいですね。
毒は無いようですが、味も香りも特に無いので食用価値無しのようです。 ただ一部では彩りが鮮やかと言うことで海外とかだと利用する方も居られるようですね。 先述の通り風味は皆無なので、あくまでも飾り付け用だったり味付けたりしてるみたいですが。
初発見は雨の山道。走行中に不自然な色合いの物体に気付いたのが最初でした。 この頃はデジカメの性能も悪く、デジイチデビューしてからこのフィールドには行っていません。 今でも元気にしているんでしょうかね?
その後何度も同じ場所を訪れたのに一度も出会うことが無かったヒイロチャワン。 近辺でも似たような大群生を発見したので、広範囲に分布していると思われます。 てかこの個体ヒノキの根元から出てるんですよね。・・・どうなってんのコレ?
本種は何ヶ所か安定して発生するポイントを押さえているので、出会うのは簡単です。 ここは廃道脇のスペース。車で走っていても分かる大群生で一番のお気に入りですね。
普通の人ならプラスチックゴミかミカンの皮だと思うんじゃないでしょうか? 地味な色合いの自然の中に生えているとあまりにも彩度の高い姿にビックリします。 そのせいか写真写りが悪く、いっつも色補正かけないと自然な色になりませんね。
沢に近いので水分を多く含んだみずみずしい子実体です。右に小さな幼菌が出てますね。 タイワンアリタケが壊滅したのは残念ですが、何となくコイツに慰められた気がします。 諦めずに捜索は続けますけどね!
https://kitakaruizawa.net/rika/2014_0809-051-chawantake.pdf#search='%E5%AD%90%E5%9A%A2%E8%8F%8C%E9%A1%9E%E3%81%AE%E8%83%9E%E5%AD%90%E7%B7%8B%E8%89%B2%E8%8C%B6%E6%A4%80%E8%8C%B8' 【「ヒイロチャワンタケ」】 より
かつては、生物は「植物界」と「動物界」の二つでした。私は高校でそう習いました。キノコも「植物界」に分類されていました。しかし、今は「菌界」という大きなくくりができました。その「菌界」に属するキノコは、大別して「担子菌(門)(しのうきん)」と「子嚢菌(門)(たんしきん)」があります。胞子の作られ方のちがいで分類されています。ごく大雑把にいうと、担子菌は細胞の外側に、子嚢菌は細胞の内側に胞子を作ります。子嚢菌のほとんどは、酵母やカビなど、観察には顕微鏡が必要なものばかりです。しかし一部大きな子実体を作る種類もあり、それが子嚢菌キノコです。フランス料理に欠かせないモリーユ morille(アミガサタケ)も、子嚢菌の一種です。
子嚢菌の仲間のキノコは、非常に変わった形のものが多く、その形状に合わせて、名称も面白いものが多いです。例えば、「ジャグマアミガサタケ(蛇熊網傘茸)」「ヘラタケ(箆茸)」「テングノメシガイ(天狗の飯掻)」などです。何となく姿が想像できますよね?
その子嚢菌キノコの一つに、ヒイロチャワンタケ(緋色茶碗茸)があります。地面から直接、鮮やかなオレンジ色の子実体が生えてきます。キノコにつきものの「柄」もありません。小さいうちは完全な茶碗型で、中に雨水がたまっていることもあります。生長すると、ぐにゃぐにゃになって、「ヒイロカミザラタケ(緋色紙皿茸)」に変身します。
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