亀葉引起(甲信山薄荷) Chirping

https://sanyasou.club/portfolio/%E4%BA%80%E8%91%89%E5%BC%95%E8%B5%B7%E3%81%97%E3%80%80%E3%81%8B%E3%82%81%E3%81%B0%E3%81%B2%E3%81%8D%E3%81%8A%E3%81%93%E3%81%97/ 【亀葉引起し かめばひきおこし】より

[学 名] Plectranthus kameba

                シソ科/属名:ヤマハッカ属

[花 期] 8~10月

[草 丈] 60cm〜100cm

[生活型] 多年草

[生育場所] 山地の林の中

[分 布]  東北地方の南部から中部地方

茎は四角で下向きの毛があり、高さ60~100センチになる多年草

葉には長い柄があり対生、広楕円形、葉縁には三角状の鋸歯があり、長さ5~8センチ、先端が3裂して中央の裂片が長い

花は8~10月、茎頂に円錐花序に青紫色の唇形花を多数つける

花は、上唇は3裂、下唇は2裂、雄しべ4本、花後子房が4個に分裂した果実を結ぶ

また、引起こしの名の由来は、昔々、真言宗の開祖になる空海が山地を歩いていると、修験者が倒れていた。それを見た空海は、そばに生えていた、ヒキオコシの葉のしぼり汁を修験者の口に含ませた。

修験者は、たちまち元気になり、起き上がり、また修行に向かったという、ヒキオコシの名の由来がある 


https://ameblo.jp/marie-sarah/entry-10706271261.html 【69話 Roi des harengs ~ 人魚伝説 ~】より

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BGM付物語り:【 too little too late 】

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「マリナさん!」

突然に烈火の如く私に叫んだ蘭子さん。

一瞬、誰の事を言っているのかわからなかった。

『はっ、はいっ』

私の声は裏返り発生音もなんだかおかしい。

「弾上家の一番風呂は若様でごぜぇますだ!

山神様からの安泰のご利生を願って、若様に亀葉引起の一番風呂を堪能して頂いているのです」

ホコホコと湯気が上がる蘭子さんが更に熱気を放つ。

『山神様の…噛めば、一押し?』

私が意味がわからなくて仰け反りながら返事をすると。

「か・め・ば・ひ・き・お・こ・し!でごぜぇますだ。

スゥッとする風呂にマリナさんも入りなさったし、お茶も飲んだでしょ」

蘭子さんは両手の拳を胸の前で力強く振る仕草をする。

『甲信山薄荷(コウシンヤマハッカ)っていう日本のミント』

彼女の躯体は揺れて大きく波打ち続けた。

蘭子さんの二重顎がプルプルと振動して、真っ赤な赤鬼と化した。

「あれは山神様の万能生薬で、ありがたぁい延命草でごぜぇますだ!」

『ひっ』

甲信山薄荷とは、葉の形が亀に似ていることから「別名:亀葉引起(カメバヒキオコシ)」と言われている。

由来は真言宗開祖である空海が、修行中に山道で出会った瀕死状態の修験者に、甲信山薄荷の煎じた茶葉湯を病に伏した修験者の口に含ませた所、たちまち回復をしたということから、甲信の山薄荷は病人が起死回生を「亀葉引起:噛めばひき起こす」という万能生薬として、甲信の山神様の延命草として古えより語り継がれている。

はぁぁと腰に手を添えて大きく溜息をつくと、キラーンと私をどんぐり眼が見据えた。

その威力たるもの恐ろしいぐらいの眼力で私の額に冷や汗を浮かべさせた。

「マリナさんにはお教えしなければならない事がたくさんありますです…女性としての礼儀作法に立ち振る舞い…」

指を一本ずつ折って私の足りない部分を数え出す。

『ごめんなさい、普段から適当にしてしまっていて…根が物臭さで…』

力なく笑いながらこたえる私に、さらに首を振りながら溜息をつく蘭子さん。

「中学を卒業したと同時に独立した事は聞いておりますです。

立派なことです、若様も見習う部分です。なかなかそんな事はできません。

ですがマリナさんには根本的な部分、母親からの教育が足りてないですだ!」

今度は私の目がどんぐり眼になってしまった。

確かに私は家出同然で漫画家を目指した。

だからこそ思春期の娘が母親から受けるべき教育が足りていない。

否、年端も行かぬ子供なのに、自惚れの驕りでその機会を切り捨てたのだ。

そのしっぺ返しが今さら返ってきている事にやっと気付けるようになった。

弾上家に来てからは、お世話になる身として当然お手伝いをしたくてキッチンに立ってはみたものの、その時点で私のスキルを蘭子さんは手に取るように把握した。

母から受け継ぐ池田家の味や掃除などの日常的な知識と経験、常識が乏しい事が如実に現れた。

事実、保険や貯蓄に冠婚葬祭などの仕来たりなど、日本人として、また社会人として当たり前の事を私は知らなさすぎた。

「高校に行きながら、実家で漫画を描け!」と言う家族に、当時15歳だった子供の私は大人ぶって『私はもう大人よ!一人で充分にやっていけるわ!』と豪語し、引き止める家族を振り切って家を出たものの、今となっては常識をあまりにも知らなさ過ぎる事を恥ずべき事だと感じる時がある。

後からHow to本やネットなどで調べはするものの、その場限りの知識として得ただけで実践の経験がなく、結局そのまま忘れてしまい、まったくといっていいほどなんにも身に付いていなかった。

たった数回のお手伝いで蘭子さんは私の足りない部分を見抜いていた。

思春期になったからこそ母から享受される大切な事を、家を飛び出したことによって学ぶ機会を放棄したのを今さらながらに後悔したのだ。

漫画家になる夢だけを叶えるために家を飛び出したので、それ以外の事は安易に考えていた。

『私の取り柄はこの元気印の笑顔だもの!これでなんとかなるわ!

それに私にはあの黒いバインダーの全国の友達が味方についている!』

とここまで来てしまった。

「この蘭子、姫(ひい)さんの侍読(教育係)としてのおつとめ、きっちりとさせていただきますだ。

マリナさんの笑顔や心は全ての人を幸せに導く力があります。それをもっと磨きましょう蘭子と一緒に」

グイッと蘭子さんの顔がドアップになって私はおののいた。

-ジトウ…って何?聞いたらまた蘭子さん興奮しちゃうしなぁ-

「マリナさんいいですね!」

『はいっ』

私は背筋をピンッと伸ばして蘭子さんに返事を返したのだった。

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