http://www005.upp.so-net.ne.jp/nakky/hana/11-hototogis.htm 【11月の花――ホトトギス】
プロログ
このページは、ほぼ一年前の『つれづれ日記』の巻頭(日付は、そのページの月末)『おりおりの花』に載せた我が家の庭の花の話題を再編集したものです。この原本である『つれづれ日記』は、あくまで『日記』であって『花の章』とは性格が違うので、内容的に特性や栽培方法などについてはほとんど触れていなかったため、これに手入れの方法なども加筆してここ『花の章』に移し、充実することにしたものです。また、『つれづれ日記』は原則、6か月から最長11か月でネット上から削除することにしているため、折角の花の記事が勿体ない、と頂戴したメールにも動かされた次第です。ただし、これまでのとおり、発行した過去(大抵は1年前)の『つれづれ日記』を編集する形になりますので、重複する部分があることをお断りしておきます。
そこで今回は、昨年 2011年12月3日版『つれづれ日記』の中の『おりおりの花――11月』(2011年11月30日分)に掲載した『ホトトギス』に加筆、復活させることにしました。
ホトトギスの概要
あなたは『ホトトギス』と聞くと、先ず何を思い起こしますか――。
――『テッペンカケタカ』と啼くといわれる、あの、鳥のホトトギスでしょうか、それとも徳富蘆花の小説『不如帰』でしょうか、それとも正岡子規が主宰した俳句雑誌でしょうか。
しかし、ここは『おりおりの花』のページ。ここで紹介する『ホトトギス』は当然、花の仲間です。ちなみに、鳥の名前を借用した植物は少なくありません。例えば、一番多そうなのが(全部調べたわけではないので悪しからず)スズメ(雀)で、『スズメウリ(雀瓜)』『スズメノエンドウ(雀野豌豆)』『スズメノカタビラ(雀の帷子)』『スズメノテッポウ(雀の鉄砲)』や『スズメノヤリ(雀の槍)』など10種あまり。ツバメ(燕)も多くて『ツバメズイセン(燕水仙)』『ツバメオモト(燕万年青)』そして『ヒエンソウ(飛燕草)』は別名『チドリソウ(千鳥草)』でもあります。ツバメとチドリと両方を貰って当人?も戸惑っているでしょう。ツル(鶴)は『オリヅルラン(折鶴蘭)』『マイヅルソウ(舞鶴草)』など。カラスも『カラスザンショウ(烏山椒)』『カラスウリ(烏瓜)』など多い方でしょう。そのほか『ケイトウ(鶏頭)』『サギソウ(鷺草)』『ウグイスカグラ(鶯神楽)』、そして『オランダキジカクシ(阿蘭陀(和蘭)雉隠)』とは『アスパラガス(Asparagus)』の異名で、『カモガヤ(鴨茅)』も『オーチャードグラス(orchardgrass)』の方が通りがいいでしょう。クジャクソウ(孔雀草)は先月のこの章(17)アスターで説明した『シュッコンアスター(宿根アスター)』でした。
ところが、鳥の名そのものズバリの植物は、このホトトギス一種だけらしいのです。そのホトトギスも別名をトキドリソウ(時鳥草)とかケイキャクソウ(鶏脚草)とかいうそうですが、『時鳥』は鳥のホトトギスの異名なのでいいとして、ホトトギスがニワトリの脚に化けるのはいかがなものかと思います。
ところで、実は、ホトトギスの花期は本来9月から10月の秋口。誕生花も11月はありません。鳥のホトトギスの方も、山口素堂の句『目には青葉 山時鳥(ほととぎす)初松魚(がつお)』とあるように、初夏の鳥です。したがって、今月11月になってここに登場するのは月遅れ、ということになります。ところが近年の異常気象続き。玄関前の古木、梅(2011年3月1日付け日記『折々の花――2月』、あるいは『花の章』2012年2月1日付け『今月の花(9)』参照)の下草になっている当家のホトトギスは、特に一昨年は10月には開花せず、11月に入ってもグズグスと開いて、ついに、この花の特徴の一つである花弁の反り返りがないまま良い花が咲かず、切り捨てられてしまいました。そして昨年は更に遅く、開花は11月末になりました。今年は10月末に咲きましたが花数が少なく、みじめです。というように、この花、結構、気候の変化には弱いのでしょうか。
さて、ホトトギス(杜鵑草)の名は、漢名が『油点草』とあるように、若葉や花にある紅紫色の斑点(油点)が鳥のホトトギスの胸羽毛にある模様と似ていることに由来するようで、何とも『和風』だと感じさせる日本人好みの魅力あふれる山野草として、古くから人気の高い花です。ただし、シロホトトギスと呼ばれる斑点のない種もあるので、必ずしもこの油点がホトトギスの目印にはならないようです。
なお、鳥のホトトギスは平安時代以降『郭公』の字が当てられますが、これは本来カッコウであって、変な感じです。これはホトトギスとカッコウがよく似ていることからくる誤りによるものと考えられているそうですが、いやはや、日本語って、難しいですね。
さて、前置きが長くなりましたが、ホトトギス類はユリ科ホトトギス属の半耐寒性宿根多年草で、19種が知られており、いずれも日本を初め朝鮮半島、台湾、中国中部など東アジアからインドにかけて、日当たりの薄い山野の林や林縁、崖や谷の岩場や斜面、低地の湿った場所などに群生します。その中で日本は、北海道西南部、新潟県、それに関東以西の本州太平洋側を中心に、四国、九州に、変種を除いて13種の固有種が自生していて、何といってもその固有種の多さからホトトギス類は日本の特産種と見なされているようで、海外からも種子の引き合いが多いのだそうです。
代表種である『ホトトギス(Tricyrtis hirta (Thunb.) Hook)』は新潟県から関東以西に分布し、ホトトギス属の総称として使われることもあるようです。とはいえ、『ホトトギス』の名で流通しているものの中にはホトトギスとタイワンホトトギス(台湾杜鵑草)との間の交配種が多数あるので、買い求めるときには注意が必要です。ホトトギス類は園芸用としての改良品種の少ない花ですが、タイワンホトトギスは丈夫で、よく枝分かれし、沢山の花を付けるので、ホトトギスとの間に多くの交配種が作られているのです。園芸品種として家庭の庭などで普通に見かけるものの多くは、このタイワンホトトギスとその交雑種が40種類ほど、そして山中でよく見かけるヤマジノホトトギスとホトトギスの3種のようです。
このタイワンホトトギス。沖縄島が野生個体分布の北限となっていて、植物地理学上大変に貴重な種なのだそうですが、もともと個体数が少ない上に園芸用などに採集されて減少しているのは残念なことです。このほか、多摩丘陵では自生のものは数十年前から確認できていないなど多くの種が自生地の各地で激減し、絶滅危惧種として環境省レッドリストに載っているものは10種を超えることを強く認識して欲しいと思います。国内に自生するホトトギス類の仲間とレッドリストについては、ページ後半『日本産ホトトギス』の項をご覧下さい。ホトトギスとヤマジノホトトギスは絶滅危惧種には指定されていませんが、決して手を触れないようにしてください。
日本固有種であるホトトギスは、古来から様々な文書に登場し、すでに万葉集にも見ることができます。園芸種としても古くから栽培されていますが、ただ、簡単に雑種を作りやすく、種子を蒔くと親株とは違った感じの花を付けることもあるそうで、山野で自生しているものと花屋さんで売っているものとでは色柄が違うことがあるようですから、買い求めるときは信用できる店で品種の確認をしてからにしましょう。
ホトトギスの形態
【特徴と性質】
ホトトギスは、ホトトギス類の代表種なので、ここでは特記しない限り主として、これについて述べます。
ホトトギスは、湿り気が多く、夏の直射日光の当たらない、半日陰の涼しい場所を好みます。とても丈夫ですが乾燥が一番苦手なのです。当家では梅の下草として植えたのに蔓延(はびこ)り過ぎて、少し困惑気味です。毛が密生した高さ60~90cmほどの茎は根元が虚弱体質で、あまりシャキッとは自立せず、多くは直ぐに地面に横になってしまう横着者揃いで、軽く引っ張るだけでポッキリと折れますが、これは地上部だけの話。横浜では冬場は地上部が枯れますが、白くて太い根は残って比較的浅い土中を網の目のように張り進み、どんどん増えて行って周囲の植物を駆逐します。根気よく整理しないと簡単に増え、ホトトギスだらけになる恐れがあります。根っこまで取らないと旺盛な繁殖を止められませんから、鉢の場合は直ぐに根詰まりし、水切れで葉が枯れ上がったり、葉先が枯れ込んだりし易いようです。
【形 態】
ホトトギスの草丈は60cm~1mほど。全体に軟毛が密生した茎は弱く、自分ではあまりシャキッとは立ちません。茎は普通は枝分かれせず、直立に立ち上がるか斜めに伸び、場所や地域によっては弓なりに垂れることもあります。
花の割に大きめの葉は表面に毛が生えていて、長楕円形から披針形で葉柄がなく互生し、基部は心臓形で茎を抱きます(上の写真)。
根は白く太く、地中に浅く網の目のようにめぐらされていて、根で増えていきます。
花期は9~11月で、花序は頂生または茎の上部の葉腋ごとに枝を分岐し、長い花梗の上に直径3~4cmほどの星の形の花を1~3個ずつ付けます。その年に大きく成長した株は多くの花を付けるようです。ホトトギスを初め、上向きに咲く種が多いですが、ジョウロウホトトギス(上臈杜鵑草)の仲間のように釣鐘型の花を下方向に向け下垂して咲くものもあります。
ホトトギスの花は雌雄同花だそうで、細い花披片は6個。噴水の形に開いた漏斗状の花弁の内側には6本の雄蕊があり、その中央から太い花柱(雌蕊)が剥き出しに高く飛び出す特徴的な形をしています。その雄蕊は、開花初期は花柱に張り付いたように一体になっていて、一見、見当たりません(上の写真)。花が熟して花弁が反り返り、虫が密を求めてやってる頃に雄蕊も花柱から離れて外側に反り返り、やっ来た虫の背中に葯や柱頭が触れやすくなる仕組になっています(右の写真)。花柱の先端は深く3裂して外側に開き、更に柱頭が2つに裂けています。花被片の基部は丸く膨らんで蜜を溜めていて、学名の根拠になっています。
花弁の外側は白色で、内側は白地の全体に紅紫色の斑点を散らして上向きに咲きます。この斑点が、鳥の『ホトトギス』の名を貰った由来の花柄です。右の写真の花は一つの花の中に二つの花柱を持つ珍しい奇形です。
ホトトギスの花は4日間咲きますが、チャボホトトギス(矮鶏杜鵑草)のようにたった1日しか咲かない種もあります。
花色は、ホトトギスは白地に紅紫色の斑点を散らしますが、その他、白やピンク、黄色の種によっては斑点のないもの、あるいは薄く少ないものがあります。
【科・属名と学名】
ホトトギスはユリ科ホトトギス属の多年草で、学名は Liliaceae tricyrtis hirta。属名の『Tricyrtis』はギリシャ語の『treis(三つ)』と『cyrtos(曲がる)』の組み合わせで、『三つのこぶがある』『3萼(がく)片の基部が膨らむ』という意味だそうです。つまり、花の基部に三つの『距(きょ)』があって、3枚の外花被の基部が袋状に曲がっていることだとか。距(きょ)というのは花びらや萼(がく)が変化した突起状の部分で、中は空洞になっています。『hirta』は『短い剛毛のある』ということのようですが、ちなみに、茎や葉にあるこの『毛』は種によって場所や向き、硬さ、長さなどに特徴があり、種を見分けるのに大切な要素となっています。
ただ、ユリ科の花だといわれても、その花の形からは納得するのに多少抵抗がある感じですが、これがユリの仲間であることは、英名を『Toad lily』つまり『ヒキガエルのユリ』、ということで納得しましょう。でも、その頭に『日本』を冠して『Japanese toadlily』と呼ぶとなると、多少どころか、非常に抵抗がありませんか。『Toad』には転じて『厭な奴』という意味合いもあるからです。いくらホトトギスが日本特産とはいえ、これはひどいでしょう。
【花言葉と誕生花】
花言葉は『秘めた思い』『秘められた恋』『永遠』『永遠に貴方のもの』『秘めた意志』など、一途なものばかり。9月12日、10月9日、10月18日の誕生花です。
【ホトトギス伝説(花)】
では、この花に、なぜ鳥の『ホトトギス』という名が付いたのでしょう。それについて、ホトトギスにまつわる伝説をここで少し紹介しましょう。ホトトギス伝説は鳥の方にもありますが、ここでは花の方です。鳥と花が同じ名だと、ややこしいですね。
鳥のホトトギスの方は、口の中が赤いため、『啼いて血を吐く』といわれるほど激情的に鳴き続けますが、ホトトギスに関する伝説や迷信は、漢の古典に由来するものが多いのだそうです。でも、この話を始めると長くなるので、ここでは花の方について紹介します。
さて、花の方のホトトギスには『弟恋しの花』という伝説があります。
――山奥のあるところに、貧しい中にも仲良く暮らしていた兄弟がいました。ところが突然、兄は病から失明してしまいます。心やさしい弟は、少ないながらも兄には美味しいものを食べさせたくて、自分は兄の残した骨や木の皮を食べ、そのことを兄に知られて心配をかけまいと隠していました。
すると兄は、そんな弟を、
「オレの目が見えないのをいいことに、隠れて美味しいものを食べているんだろう」
と疑い始め、ある日、とうとう兄は短刀を弟の胸に突き刺してしまいました。
そのとき、飛び散った血が兄の眼に入り、兄は光りを取り戻したのです。そして、光を取り戻した兄の目が見たものは、痩せ衰えて枯れ木のようになった弟が木の皮を噛んでいた姿でした。
兄はこんなになってしまっていた弟を抱きしめて悔やみ、
「おとと(弟)こいし 弟恋し」
と泣き叫び、嘆くうちに、魂が抜けて鳥になってしまいました。それでも枯れ枝に止まって喉から血を吐きながら「弟恋し」と鳴き続けるうちに、血に染まった羽がはらはらと落ち、ホトトギスの花になりました――
――とさ。オシマイ。
でも、このお話、なぜホトトギスという名になったのかは説明されていませんし、他にも少し、疑問もあるのですが。
ホトトギスを咲かせよう
ホトトギス類は日陰を好み、耐寒性も強く、狭い場所でもよく育つ栽培の容易な山野草です。地味な花ですが、庭の花壇、木陰や池の縁、グランドカバー、鉢やプランター、水栽培、渋い鉢や腰高の鉢で床の間やテーブルの上に飾るなど、多様な楽しみ方ができるでしょう。
山野草として古くから馴染みが深く、種類によって多様性があって、花を見られるのも秋ばかりか夏8月に咲くものもあるなど、品種を集める楽しみもありますが、栽培の難易度はそれぞれ異なるので注意しましょう。
【購入のポイント】
ホトトギス類は、最近では比較的安価に購入できるようになったとはいえ、どこの花屋さんでも扱っているほどではないようです。店で入手できるものは実生や挿木などで育てられたものですが、さほど多くの品種を求められるほどでもないので、一つずつ、根気よく集めましょう。通信販売で求めることもできますが、できれば花の咲いている時期に山野草の専門店を見て歩き、ご自分の目で確かめながら好みのものを少しずつ集めることをお勧めします。栽培難易度の高い品種もあるので、秋の展示会で即売会があれば相談したりして購入するのが一番です。何よりも、ご自分の好みや鑑賞目的に合わせて、正しい品種を選ぶことができるからです。
【植え付け場所】
庭植えの場合は横にかなり広がってはびこるので、そのつもりで植え場所を決めることをお勧めします。
性質は品種によってやや異なりますが、一般に夏の乾燥と暑さには弱いので、湿り気の多い半日陰の風通しのよい涼しい場所を選んで植えれば丈夫に育ちます。先ず、3~7月頃までの生育期に日陰で育てると茎が間延びして、だらしなくなるで、良く日に当てると、しっかりとした丈夫な株に育ちます。それ以後、特に夏の強い日射しは有害ですから、夏場は葉焼けを防ぐためにも半日陰になる場所がいいでしょう。乾燥させると葉先が枯れ込みやすくなります。そのような理想的な場所がなければ、遮光などで工夫することになります。特に、栽培難易度の高い品種では、夏の暑さにどう対処するかが栽培の大きなポイントとなります。秋以降は乾燥させなければ日当たりに置いてもかまいません。
冬が近付くと地上部分が枯れます。関東から西の平地や暖地では特に防寒対策をする必要はありませんが、凍結の恐れがあったり寒冷地では、できるだけ凍ることがないように腐葉土をかぶせたり、敷き藁を敷くとよいでしょう。
鉢植えの場合は、乾燥させないように注意し、鉢も乾燥しにくいものを選びます。夏は日陰に移動するか遮光しましょう。寒さには比較的強いので室内に取り込む必要はありませんが、凍結の恐れがある場合は軒下などに移動させ防寒をするといいでしょう。
【植え付け・植え替え】
地植えの場合は、上記のような条件を満たした適地であれば放置してかまいません。
鉢植えでは、1~2年に1回程度、根がつまり気味になったと思ったら春に芽が伸びてくる前、3月頃に植え替えをします。葉が枯れ上がったり葉先が枯れ込んだりし始めたら植え替えの信号です。
用土は、水はけと水保ちを同時に要求するので、市販の山野草用の土か、自分で作る場合は赤玉土3、山砂4、桐生砂3の割合で混ぜて使います。富士砂や軽石があれば、それでも結構です。要は、多孔質の砂を何種類か選ぶことです。若干の腐葉土を混ぜる人も多いようですし、ミズゴケだけを使用する人もいます。これらは自分の経験と好みでできた成果でしょう。
鉢から株を取り出したら根を広げ、新芽だけを植え付けます。あまり深植えにならないよう気を付けます。
植え替え直後に十分灌水し、以後、周年(冬でも)水切れに注意します。
コンパクトにまとめたいときは4~5月に下葉を4~5枚残して切り詰めるといいそうですが、わたしはやったことがないので、効果は分かりません。
【水遣り】
乾燥に弱いので、特に夏場は水切れしないよう注意しましょう。水やりと同時に周辺にも水をかけてやると乾燥と温度の上昇を抑える効果があります。露地植えの場合は夏以外はあまり気にしなくてもいいかもしれませんが、鉢植えでは水切れしやすいので気をつけましょう。
春から秋までは1日1回、冬はほぼ休眠状態ですので控え目に2~3日に1回程度が目安ですが、土の状態や気象その他で一概にはいえませんから、植物の顔色を伺いながらやります。昔から『水遣り三年』といいます。これも大切な『修行』の一つなのです。
【肥料】
露地植えの場合は、春先に緩効性肥料を少量与えます。油粕のような窒素肥料を与えすぎると葉や株ばかり茂って、花が咲かないことがあるので注意します。鉢の場合は、生育期の春から秋にかけて月に一回程度の緩効性化成肥料か、週1回程度カリ分の多い液体肥料を施すといいでしょう。
真夏と、地上部が枯れたあとは与えません 。
【病害虫】
当家の経験では病害虫が発生したことがありませんが、春先からアブラムシや、ナメクジ、カタツムリ、ヨトウムシなど葉を食害する害虫が発生するそうなので、捕殺するか誘引食毒剤を散布しましょう。株元にオルトラン粒剤を撒いて予防することも効果的でしょう。
切り口などからウイルス性の病気が侵入することがあるそうで、この場合は治る見込みがないので、他の植物に移るのを防ぐために焼却など処分することになります。
【殖やしたいとき】
株分け、挿し芽、実生(タネ蒔き)で増やすことができます。
株分けは簡単で確実ですから、植え替えも兼ねてするとよいでしょう。大きくなって増えた新芽を根を付けて分ければよく、もっとも手頃な方法です。芽は手で優しく引っ張って、1つずつに分けます。ハサミを使って切り離すことは避けた方がいいでしょう。切り口に薬剤を塗るなどの保護も必要ありません。
挿し芽は葉を3~4枚付けて茎を切り取り、下の方の葉を2節ほど取り除いて土に挿します。株分けや挿し芽はいずれも、品種が継続するので安心です。挿し木の時期は6月中旬~下旬です。
種子の採取は簡単です。花後、実が黄色くなったら摘み取り、薄い褐色の薄皮に包まれた細かな種子を取り出して直か撒きします。5mmほど覆土して十分に水を与え、その後は水を切らさないように管理すれば、翌春に発芽するので、後は生育に伴い植え替えをしていけば秋には開花し始めるでしょう。
ただし、ホトトギス類は雑種ができやすいので、実生からの苗はどのような性質のものか分かりません。しかし、素晴らしい新種かできるかも知れないし、それが楽しみならばお勧めです。ただし、意図して交雑するのではなく、やたらと雑種を増やすことは良いことではないことは心得ておいてください。
【毒性と薬効】
若葉を天麩羅や和え物、お浸しなどにして食べられると聞いたことがありますが、わたしは何か、食べる気にはなれません。この植物が食べられるかどうかについては不明とされ、薬効や毒性についても確かな文献がありません。
日本産ホトトギス
ホトトギス属は大きく4つの節(グループ)に分けられます。
第1のグループは黄色の釣り鐘型の花冠を持つジョウロウホトトギス節で3種が、第2のグループは上向きに黄色の花を咲かせ茎に毛があるキバナノホトトギス節で4種が属しますが、この二つの節は日本固有種だけで構成されます。
第3のグループは上向きに白色の花を咲かせ、茎に毛の出るホトトギス節で5種が属しますが、日本には2種しか見られません。第4のグループは白あるいは黄色の花を上向きに咲かせ、茎に斜め下向きの毛の出るヤマホトトギス節で7種からなり、うち4種が日本に分布しています。
これらの種の中には地域固有種も多くありますが、園芸用の盗掘が後を絶たず、また鉱物採取やダム建設、道路敷設などの開発で絶滅が危惧されています。山野を訪れて自然を満喫するのはいいことですが、決して山野草などに手を出さないよう気を付けましょう。
各節(グループ)に属する日本産のホトトギスは次のとおりです。
(1)ジョウロウホトトギス節(日本固有種のみ3種)
・ジョウロウホトトギス(上臈杜鵑草)Tricyrtis macrantha Maxim.または T.macranthopsis
高知県に自生。上向きの蕾が開花時には下向きの釣鐘型に。黄色い花被の内側に赤紫の細斑。
絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)
・キイジョウロウホトトギス(紀伊上臈杜鵑草)Tricyrtis macranthopsis Masamune
和歌山県・奈良県に自生。鈴の形がホトトギス離れした感じの丸い黄花。
絶滅危惧IB類(EN)(環境省レッドリスト)
・サガミジョウロウホトトギス(相模上臈杜鵑草)
Tricyrtis ishiiana (Kitagawa & T. Koyama) Ohwi & Okuyama
神奈川県の一部に自生。 ジョウロウホトトギスに似るが小型の黄花。
絶滅危惧IB類(EN)(環境省レッドリスト)
(2)キバナノホトトギス節(日本固有種のみ4種)
・キバナノホトトギス(黄花杜鵑草) Tricyrtis flava Maxim.
宮崎県に自生。ユリに似た黄花で赤紫の細斑を散らす。絶滅危惧II類(VU)(環境省レッドリスト)
・チャボホトトギス(矮鶏杜鵑草) Tricyrits nana Yatabe
東海地方から九州にかけて自生。草丈10cm以下で小型。ユリに似た黄色の花弁長さも2cmほど。
・タカクマホトトギス(高隈杜鵑草) Tricyrtis ohsumiensis
鹿児島県大隅半島の固有種。キバナノホトトギスに似るが色はやや薄い黄花。
準絶滅危惧(NT)(環境省レッドリスト)
・キバナノツキヌキホトトギス(黄花の突抜杜鵑草)Tricyrtis perfoliata Masamune
宮崎県尾鈴山にのみ自生。黄花に赤褐色の細点が少し入る。
絶滅危惧IA類(CR)(環境省レッドリスト)
(3)ホトトギス節(5種からなるうちの2種)
・ホトトギス(杜鵑草) Tricyrtis hirta (Thunb.) Hook.
代表種。新潟県以西に分布。花は白地に紫斑。
・タイワンホトトギス(台湾杜鵑草) Tricyrtis formosana Baker
沖縄島、西表島、および台湾に自生。
ホトトギスの花色を全体的に薄くした感じ。斑点が多く花弁の奥にオレンジ色の斑紋。
絶滅危惧IA類(CR)(環境省レッドリスト)
(4)ヤマホトトギス節(7種からなるうちの4種)
・ヤマホトトギス(山杜鵑草) Tricyrtis macropoda Miq.
関東以西の太平洋側および長野県に分布。花色の感じはタイワンホトトギスに似る。
・ヤマジノホトトギス(山路杜鵑草) Tricyrtis affinis Makino
北海道から九州まで分布。花弁が折れて反り白地に薄紫の斑点。
・セトウチホトトギス(瀬戸内杜鵑草) Tricyrtis setouchiensis Hr. Takahashi
近畿から中国・四国地方に分布。平開した花弁の下部が黄、花柱にも紫斑。
・タマガワホトトギス(玉川杜鵑草) Tricyrtis latifolia Maxim.
最も冷涼な環境に適応する種。北海道から九州にかけての冷温帯域に分布。
花弁が開ききらない感じの特異な形。黄色地に赤紫色の斑点。
上記合計13種。
その他、日本の固有種ではありませんが、環境省レッドリストにあるものが幾つかあります。
鳥のホトトギスの話
ところで、同族にあるヤマホトトギスなどという名前を聞くと、つい、先の山口素堂の俳句『目には青葉 山時鳥(ほととぎす) 初松魚(がつお)』を思い浮かべます。そこで、ついでに、鳥の『ホトトギス』の話もしておきましょう。
カッコウの仲間は自分では巣を作らず、ホオジロやモズなど他の鳥の巣に産卵して抱卵と育雛を委ねる、いわゆる『託卵(たくらん)』をすることで知られています。ホトトギスも同じカッコウ目カッコウ科の仲間でカッコウよりは小型で、山地の樹林に棲み、ウグイスがササや枯葉などで造った横長楕円形の巣の中に、ウグイスとそっくりのチョコレート色の卵を産み落として寄生繁殖するのです。ウグイスが通常は5、6個産む卵は、他に類のない濃い赤褐色をしていますが、ホトトギスの卵も託卵の都合上、同じ色柄をしています。
先の素堂の俳句から、ホトトギスは夏の鳥と思っている人もいるようですが、冬になると暖かい地方へ移動するものはいても、基本的には一年中日本で見られる鳥で、鳴き声は都会でもよく聞かれます。しかし概念的には、上の句にあるように初夏の風物になっているようで、日本文学、特に和歌に多く詠まれ、夏の季語になっています。
ホトトギスは昼も夜も啼きますが、わたしは夏の夜、風呂に入りながら、頭の上を啼きながら飛び去るのを聞くのが好きです。『八千八声 啼いて血を吐くホトトギス』といわれるほど強く、かつ繰り返し啼き続けるその声は極めて顕著で、『テッペンカケタカ(天辺駆けたか)』とか『トッキョキョカキョク(特許許可局)』などという『聞き倣(な)し』で知られていますが、わたしには『キョッ、キョキョキョキョ』としか聞こえません。ウグイスは、託卵のために自分の巣の近くをうろついているホトトギスの、この鳴き声を真似て、独特の『谷渡り』、特に最後の「キョキョキョキョキョキョ、ケッキョケッキョケッキョー」というフレーズを編み出したと専門家はいいます。このようにウグイスは仲間などの声を真似る習性があり、人為的には、競技会用に優れた鳴き声のウグイスの篭を隣に置いたりテープを聞かせたりして上達させることが行われています。
いやはや、つい、鳥の話が長くなって、すみませんでした。
エピログ
当家のホトトギスは、妻がどこかの誰かから頂戴してきたもので、当家の可成り初期の頃らしく、その方の名すら覚えていないそうです。でも、これまで30年以上、梅の下草として玄関前を飾ってくれ続けました――感謝。しかし実情は、毎年増え続けるので多少邪魔者扱いされ、妻から幾分目の敵にして始末されています。これはいかがなものでしょう。
ところで、繰り返しますが、ホトトギスの仲間には地域固有種も多いのですが盗掘などが後を絶たず、絶滅が危惧されています。山野を訪れて自然を満喫するのはいいことですが、絶対に山野草などに手を出さないよう気を付けましょう。
さて、前記した『ホトトギス伝説』ですが、このお話、どうも、もともとあった鳥のホトトギス伝説の後ろに花の部分を付け足した感じがしないでもありません。鳥のホトトギス伝説に、似たようなお話があるからです。わたしは原本を読んでおらず出所もわからず単なる受け売りなので申し訳ありませんが、時間があったら調べて、ご報告します。
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