https://news.yahoo.co.jp/articles/9a1d253bc68202b9e06eaba5f27c232c092ce557
【ワクチン開発の一時中止、渦巻く懸念の正体】 より
英製薬大手アストラゼネカが英オックスフォード大学と共同開発している新型コロナウイルスワクチンについて、同社は臨床試験に参加したボランティアに深刻な副作用が疑われる事例が発生したとして臨床試験を中断した。
アストラゼネカが開発しているワクチンは2021年初頭から1億2000回分のワクチンを供給することで日本政府と合意するなど、有望なワクチンとして期待を集めていた。既に治験再開の可能性も報じられたが、先頭集団にいた有望ワクチンに何が起きたのか。
折しも、ロシアのガマレヤ研究所が8月11日に、最終段階の臨床試験であるフェーズ3を経ずに、新型コロナウイルスに対するワクチンに承認を出し、欧米をはじめ専門家からの批判の議論が巻き起こっていたところだった。それもロシアのワクチンの安全性についての懸念が出ていたからだ。
続く9月8日には、欧米のワクチン開発企業9社の最高経営責任者(CEO)による合同声明が出た。ワクチンを承認するには、安全性を最優先にするよう求めたものだ。
この8月から9月にかけての期間には、このほかにもロシアのワクチンへの懸念を表明する数々の論説、疑念が持たれたロシアワクチンの臨床試験のデータが公開されるといった新しい動きも続いた。これら最新の報告も踏まえ、世界で渦巻く安全性の懸念の正体について考察する。
■ 安全性の課題はいまだ解決せず
筆者は継続的にワクチンについて伝えてきており、ワクチンをめぐる懸念は研究論文や論説の中で一通り報告されているのを確認してきた。最近の報告も含めて、あらためてこれまで報告されてきた課題を見る。そうすることで、アストラゼネカのワクチンに持ち上がった懸念の理由も読み取れると考えている。
ワクチンをめぐっては、大きくは有効性と安全性の問題がある。
有効性については、2つの点から懸念がある。まず一つは、うまくウイルスを無効化できるかどうかの点だ。新型コロナウイルスは、いが栗のような球形をしており、トゲをうまく応用したワクチンが多くなっている。
このトゲは「スパイクタンパク質」と呼ばれ、ほとんどのワクチンがこの“部品”を利用している。病原体の一部を身体に送り込み、それに対する免疫反応をウイルスに感染する前に持たせるというものだ。ただ、ウイルスの持っている部品には、ほかにもNタンパク質やMタンパク質などがあり、これらの応用はまだ検証中の段階。スパイクワクチンがうまくいかない場合の次の手が求められている。
次の有効性の課題としては、ワクチンの運び屋の問題だ。ワクチンのタンパク質を体内に送り込む運び屋に複数の選択肢があり、それが有効性と関係する可能性が指摘されていた。
今回のアストラゼネカのワクチンでは、運び屋としてチンパンジーのアデノウイルスというウイルスが使われていた。ウイルスなのに大丈夫かと思うかもしれないが、増殖能力がないので、安全であると見なされている。ただ、身体は異物と見なすので、このアデノウイルスを攻撃して無力化しようとする。ワクチンが機能する前にこうした運び屋への迎え撃ちがあれば、ワクチンの有効性が削がれる可能性が指摘されていた。
一方で、安全性の問題は、ワクチン自体が身体にとって有害かどうかが根本的な問題になる。これはウイルスに感染する以前の問題として、ワクチンを接種するだけで体調を悪化させたりすれば、そもそも使うことはできない。それは前提として検証していく必要がある。
その上で、ワクチンには独特な抗体依存性感染増強(ADE)の問題も指摘されてきた。これはワクチンによって導かれた抗体が増えることで、かえってある種の白血球にウイルスが感染しやすくなって、感染症がむしろ悪化してしまう問題だ。これは繰り返し海外の研究でも強調されてきたところで、まだ何らかの結論は出ていない。
■ ロシアワクチンの安全性の懸念の根は同じ
ロシアの早期承認を受けて、欧米で指摘された安全性の懸念もこうした点にあった。
著名科学誌の英『Nature』では、ロシアが承認を出した8月11日、速報の中で「データが不足している。抗体依存性感染増強のほか、ワクチンによって喘息のような免疫反応による問題が起こる可能性がSARSの実験的ワクチンで判明していた」と指摘していた。
同様に著名医学誌の英『BMJ』でも8月13日に抗体依存性感染増強の問題を指摘。「少人数での試験で抗体依存性感染増強が起きても影響は小さくとどまるが、大規模な接種を始まってから現象が起こると影響が甚大になる」と懸念を示した。その上で、米ソ冷戦の時代の宇宙開発競争で、ロシアが地球周回軌道に初めて乗せた人工衛星の名前から、ロシアのワクチン「スプートニクV」が名付けられているが、自国の利益誘導にワクチンを利用すべきではないとのコメントを紹介していた。宇宙開発のような命の危険をさらす挑戦を、ワクチンと重ねているのは、安全性の懸念が出ている中では皮肉とも言える。
さらに、同じ『BMJ』は本誌コメントとして8月24日に3つの問題を挙げていた。まず、フェーズ3が行われずに承認され、フェーズ2まで健康なボランティアを対象としているが、病気を抱える人を対象とした検証が十分に行われていない点。これまで健康な人では見えなかった、思わぬワクチンの悪影響が及ぶ可能性があるという問題だ。次に、改めて抗体依存性感染増強の問題を指摘した。さらにワクチン接種が広がらない可能性も挙げている。この報告では、欧州の調査では19%が接種を受けるか不明と答え、7%は拒絶すると答えていたという。4人に1人が消極的という実態だ。拙速な承認はこの流れを強めると指摘していた。
■ 中国のワクチンの有害事象には重いものも
今回、一時停止になったアストラゼネカとオックスフォード大学が共同開発するワクチンについては8月15日に著名医学誌の英『Lancet』で初期のフェーズ1/2の中間報告がなされている。この中ではワクチンの安全性は確認されていたと報告されていた。この試験は、新型コロナウイルスのワクチンと髄膜炎菌結合型ワクチンを比較するもので、一部は、2回の接種を受けていた。
これまでの同様の試験と共通するが、体の反応という点では新型コロナウイルスのワクチンは出やすいと報告されていた。今回も、症状は解熱鎮痛薬で軽減できたが、接種部位の痛み、発熱、冷感、筋肉痛、頭痛、けん怠感が比較対照のワクチンよりも多く報告されていた。重い有害事象はなかったものの、接種を受けた人が反応のしやすさを過度に心配するケースはあるかもしれない。
タイプこそ違うものの、中国のカンシノが開発するワクチンとロシアのガマレヤ研究所が開発するものはアストラゼネカと同様にアデノウイルスを使っている点が共通している。
中国の研究グループは初期のフェーズ2の結果を論文にしており、新型コロナウイルスのワクチン接種を受けた人のうち約7割で有害事象が報告されたと記述しており、用量によっては9%で重い有害事象が報告されたとしていた。
英国グループと似たようなワクチンでも状況が違っているのは気がかりだ。
直ちに命にかかわるものではないものだが、重い有害事象には発熱、皮膚の痛み、腫れ、頭痛、呼吸困難などがあった。これは接種を受けた本人にとっては場合によっては問題として大きく受け止められる可能性はある。
BMJで指摘されていたように、ワクチンの接種対象がよりもともと病気を持っている人に広がったときには、影響が大きく出る可能性も否定できない。
■ 安全性不安による接種忌避は本末転倒
ここまで論文で報告されてきたデータから見ると、アストラゼネカとオックスフォード大学が共同開発するワクチンで起きたと見られる一時停止につながった問題は、ワクチンそのものの有害事象によるものに加えて、ワクチン接種後、新型コロナウイルスに感染したことによる感染増強の可能性もある。今回の問題には脊髄炎症という報道もあるが、「再開する」と報じられているので、これまで報告されていない有害事象がおきたものの、許容範囲だったということなのではないか。
今回の開発中止が発表される前は、個人的にはロシアのガマレヤ研究所の研究グループが著名医学誌の『Lancet』で発表した論文の結果に注目していた。ロシアの研究グループは安全性を確認したと報告しており、接種部位の痛み、体温の上昇、頭痛などが確認された重いものはないと説明していた。だが、欧米が懸念を示すように、安易な接種拡大は好ましくないように見える。
これまでの論文報告を参考にしていくと、安全性の検証は引き続き慎重を期すべきだ。BMJが指摘するように、慎重さを欠いて、接種を忌避する人が増加することがより問題となり得る。
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/19238/ 【アストラゼネカの試験中断、ワクチン開発の行方は】2020/09/10 より
英アストラゼネカは9月9日、開発中の新型コロナウイルスワクチンの臨床試験を一時中断したことを明らかにした(ロイター)
[ロンドン ロイター]英アストラゼネカが、有害事象の発生を受けて新型コロナウイルスワクチンの臨床試験を中断した。実用化の遅れが懸念される。
英オックスフォード大とワクチンを共同開発しているアストラゼネカは9月9日、独立委員会が安全性データをレビューするために臨床試験を一時的に中断したことを明らかにし、試験のタイムラインへの影響を最小限に抑えるよう取り組んでいるとの声明を発表した。
有害事象が確認された被験者は、横断性脊髄炎と呼ばれる稀な炎症性疾患を発症したと報じられている。アストラゼネカは、詳細は検証中で、最終的な診断は確定していないとしている。
米国立衛生研究所(NIH)のフランシスコ・コリンズ所長は9日、米上院委員会の公聴会で、ほかにも同様の事例がないか確認を進めていると語った。
アストラゼネカはすでに、世界各国に30億本近くのワクチンを供給することで合意している。これは、ほかのどのワクチンプロジェクトよりも多い。
同社はまた、被験者が神経系の症状を呈し、7月に臨床試験を一時的に停止したことも確認した。この被験者は多発性硬化症と診断され、独立委員会はワクチンとの関連性はないと結論付けた。
英国のマット・ハンコック保健長官は、今回の試験中断が開発プロセスを後退させるかどうかについて「必ずしもそうではない。アストラゼネカによる検証を見極めたい」と語った。
通常のアクション
英国の規制当局は、試験の早期に再開できるかどうか判断するため、情報の収集と分析を急いでいる。英国免疫学会のダグ・ブラウン会長は「人が病気になる理由はさまざまだ。開発チームは今、有害事象の原因が何であり、それがワクチンと関連があるのかを詳細に検討している」と述べた。
フィナンシャル・タイムズは関係者の話として、アストラゼネカが来週はじめにも試験を再開する可能性があると伝えている。同社は試験の再開時期についてコメントしていない。
英国での試験は、5歳から70歳以上の1万2000人以上を対象に5月から行われている。米国での後期試験は、3万人の登録を目標に先週開始。ブラジルと南アフリカでも臨床第3相(P3)試験が行われており、日本でも初期の試験が始まった。ロシアでも試験が計画されていて、全世界で5万人の登録を目指している。
韓国は、国内企業が参加する同ワクチンの供給について、詳細を把握した上で製造計画を検討するとしている。保健省のユン・テホ氏は、このような臨床試験の中断は「さまざまな要因が相互に影響し合うため」珍しいことではないと述べた。
ドイツのルーコケアはアストラゼネカと同様のワクチンを開発しているが、まだ早期段階で、大規模試験に入れば安全性の問題が出る可能性が高いことに同意した。同社のミハエル・ショールCEOは「2万人に接種するとすれば、いずれかの時点で重篤は有害事象が発生するのは当然だ。ワクチンとの関連性が明確に否定されれば、試験は継続される」と指摘。「炎症などの免疫関連疾患は、特に精査の対象となるだろう」と付け加えた。
シミアンウイルス
アストラゼネカのワクチンは、アデノウイルスを使って新型コロナウイルスの遺伝子を送達し、免疫反応を促す。同様のアプローチは、中国のカンシノやロシアのガマレヤ研究所、米ジョンソン・エンド・ジョンソンによっても追求されている。
ロシア初の新型コロナウイルスワクチンとして承認されたガマレヤ研究所のワクチンを支持する人からは、ガマレヤ研究所がヒトのアデノウイルスをベースにしているのに対し、アストラゼネカはチンパンジーのアデノウイルスを使っていることに注目している。ロシア政府系ファンドのトップであるキリル・ドミトリエフ氏は「ヒトのアデノウイルスを使ったプラットフォームは、ほかの新しいプラットフォームと比べて安全性が高く、研究もなされている」とロイターに語った。
アストラゼネカがベクターとしてチンパンジーのアデノウイルスを選択しているのは、ヒトアデノウイルスへの過去の暴露によって、免疫がベクターを攻撃するリスクを回避するためだ。
アストラゼネカの決定は、ほかの試験にはさほど影響を与えていないようだ。インド血清研究所は、アストラゼネカのワクチンの試験は進行中で、何ら問題に直面していないと述べた。モデルナも電子メールで出した声明で、進行中のワクチンの試験に「何らかの影響があるとは認識していない」としている。
新型コロナウイルスワクチンを開発している欧米の製薬企業は8日、科学的な安全性・有効性の基準を支持し、プロセスを急がせようとする政治的な圧力には屈しないと宣言した。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-09-09/QGEGNDT0AFB801 【アストラゼネカのワクチン試験中断は脊髄の問題-NIH所長】 より
試験の参加者1人に疾患が生じ、安全性データ検証するため試験中断有害事象は脊髄の炎症を起こす神経障害である横断性脊髄炎と所長
米国立衛生研究所(NIH)のフランシス・コリンズ所長は9日の上院委員会で、英アストラゼネカが新型コロナウイルスワクチンの臨床試験を中断したことについて、「脊髄の問題」が理由だと証言した。
ワクチン開発で先行しているアストラゼネカとオックスフォード大学は試験の参加者1人に疾患が生じ、安全性データを検証するため試験を中断した。
英アストラゼネカ、コロナワクチン試験中断-原因不明の疾患
コリンズ所長は上院厚生教育労働年金委員会で、問題となっている有害事象は脊髄の炎症を起こす神経障害である横断性脊髄炎(TM)だと指摘した。アストラゼネカの検証でこの有害事象がワクチンと関連していることが分かれば、既に製造されたワクチンは全て廃棄されるとも語った。
コリンズ所長は「まず安全性を重視しており妥協はしないとわれわれが語るのを聞けば、誰もが安心するはずだ」とした上で、「これは1件の有害事象に基づき、それがワクチンと関係があるかないか分からないが、何か懸念すべき証拠があれば直ちに中断し、確認するという慎重なアプローチの最善策だ」と述べた。
アストラゼネカのパスカル・ソリオ最高経営責任者(CEO)は9日午前に投資家に対し、英国の女性1人にTMと呼ばれる神経系の疾患が発現し始めたため同社のワクチン試験は全世界で中断されたと説明した。
アストラゼネカの広報担当者ミシェル・メイセル氏によると、ソリオCEOは今回の症例で最終的な診断は出ていないとした上で、より多くの検査が行われるまで診断は確定しないと述べた。メイセル氏は発表資料で「こうした検査が今後、独立した安全性委員会に提出され、有害事象が検証されて最終診断が下される」とした。
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