秋の薬草・薬木

https://www.hmaj.com/medicine_autumn.html  【秋の薬草・薬木】 より


秋の薬草 カラスウリ :ウリ科生薬名:王瓜根(オウガコン)・土瓜根(ドカコン)

キカラスウリ:ウリ科生薬名:栝楼根(カロコン)

カラスウリの花は日没後から開花し、翌朝、日の出前には萎みます。私たちには目立たない花になった理由は、受粉のため夜行性の大型のスズメガを引き寄せるためであると考えられています。8、9月ごろに、花弁の先が糸のように細く切れ込んだ白い花を咲かせ、晩秋には雑木林や垣根の木に巻き付いてぶら下がっている楕円形の朱赤色の実をよく見かけます。

カラスウリの命名には諸説があって、「烏が好んで食べるから」(新井白石説)」は、「烏が食べているところを見たことがない」との異論が出て、それではと「赤い果実が樹上に長く残るのは、烏がたべのこしたから(牧野富太郎説)」は、少し説得力にかけます。

一方、中国伝来の朱墨の原料である卵大の辰砂に似ていることから、唐朱瓜(カラシュウリ)が転じてカラスウリになった、との説が納得できるかと思えます。

肥大した根を乾燥させたものを「王瓜根(オウガコン)」といい、発熱や熱性の便秘、黄疸、利尿、閉経、母乳の出の悪い時に用いる外、すり潰してデンプンを取りだし、葛粉のように用いたり、救荒食糧として保存したりします。

種子は、母乳の出の悪い時に用いますが、妊婦には禁忌です。

果実は直接皮膚にすり込み、ひび、しもやけなどの肌荒れ防止に使います。

カラスウリによく似た植物にキカラスウリがあります。カラスウリと同様に、6月〜9月にかけての日没後から開花し、翌日午前中から午後まで開花し続けます。花は白色か、やや黄味がかった白色で、花先は糸状になり、カラスウリよりも太く、果実は9〜11月頃には黄熟します。

秋から初冬に根を掘り出し乾燥したものを栝楼根(カロコン)といい、催乳、排膿、鎮咳、解熱、止渇を目標に漢方に用いられています。また、天花粉(天瓜粉)の原料として使われています。

カラスウリを詠んだ句に夜に咲く花の句は見当たらず、ほとんどが赤い実を詠んでいます。

溝川や水に引るる烏瓜    一茶

蔓切れてはね上がりたる烏瓜  高浜虚子


秋の薬草 オミナエシ:オミナエシ科生薬名:敗醤(ハイショウ)

オミナエシは、『万葉集』に

「秋野爾あきののに 咲有花呼さきたるはなを 指折およびをり 可伎数者かきかぞふれば 七草花ななくさのはな 芽之花はぎのはな 呼花葛花おばなくずばな 瞿麦之花なでしこのはな 姫部志をみなへし又また藤袴ふじばかま 朝顔之花あさがおのはな」

と山上憶良が詠った秋の七草のひとつです。『万葉集』には十四首、『古今和歌集』には十七首が詠まれ、『源氏物語』などの平安時代の文学にもよく登場します。中でも、能楽『女郎花』(おみなめし)は、小野頼風とその妻の話で、頼風に捨てられたと誤解した妻が川に飛び込んで自殺。妻を墓に埋めると、そこに女郎花が生え、頼風が近づくと、女郎花は風で逃げ、離れるとまた元に戻る。それを見て妻が自分を拒絶しているのだと思い、妻と同じ川に飛び込んで自殺する。恋慕に沈んだ男女の地獄の有様を謡う夢幻能です。女郎花の花言葉は「はかない恋」。

オミナエシは日本、朝鮮、中国などの東アジアに分布し、秋の日当たりのよい山野に、三、四ミリほどの小さい黄色い多数の花を咲かせます。姿はほんのりとした佇まいですが、全草は少し異臭があって、乾燥すると醤油の腐った臭いがすることから、生薬名として「敗醤」の字があてられました。

敗醤には成分として、イリドイド配糖体のモルロニシド、ビロシド、ロガニン、サポニンなどが含まれ、抗菌、鎮静作用が確認されています。民間では消炎、解熱、排膿、浮腫などに使われてきました。また、精油が含まれるため、血行を良くし、鬱血(瘀血)を解消させる効果もあります。

オミナエシ(女郎花)の仲間に白い花をつけるオトコエシ(男郎花)がありますが、このオトコエシから調製されたものを白花敗醤として用いています。

秋の薬木 ナツメ:クロウメモドキ科生薬名:大棗(タイソウ)

ナツメは南西アジア~南ヨーロッパを原産地としている低木から小高木の落葉樹です。5月ごろに葉の脇に淡緑色の小花を密生させ、秋には楕円形の、はじめは淡黄色で熟すと暗赤色の実を付けます。

ナツメの名は、「夏に芽が出る」という説や「夏梅(ナツウメ→ナツメ)」や「夏実(ナツミ→ナツメ)」由来のものなど諸説あります。茶道具の抹茶を入れておく棗(ナツメ)はこのナツメの実に似ていることから名付けられました。

熟した果実は生食したり、干して菓子などの材料として用いられていますが、漢方薬の生薬「大棗」として通経、利尿、関節炎、腰痛の効能があり、また生姜と組み合わせで、免疫力を高めたり副作用の緩和などを目的に多くの処方に配合されています。

ナツメの葉に含まれるジジフィンという物質には、甘みを感じなくする作用があります。葉をしばらく噛んだ後に砂糖などの甘味成分を含んだ食物を食べても甘みを感じません。舌の先にある甘みを感じる味蕾の甘味受容体の働きを阻害するからです。従って、甘味食品への食欲減退効果が期待されます。

「祇園の鴉愚庵の棗喰ひに来る」という正岡子規の句がありますが、「棗多き古家買ふて移りけり」の句もあり、病床の子規には「ナツメ」が必要だったのかもしれません。


秋の薬草 キキョウ:キキョウ科キキョウ属生薬名:桔梗根(キキョウコン)

万葉集に山上憶良が詠った秋の七草の歌があります。

「秋の野に咲きたる花を指折りてかき数ふれば七種(ななくさ)の花。萩が花、尾花、葛花、撫子の花、女郎花、藤袴また朝貌の花」

当時はキキョウを「あさがほ」と呼んでいました。

キキョウは東アジアに自生する多年草です。観賞用に栽培されることも多く、白花、八重、錦、二重、紋など多くの品種が知られています。

桔梗の読みの「ききょう」は「きちこう」が転じたものです。桔梗の木偏を取ると「吉更」となり、「さらに吉」となることから好まれ、明智光秀、柴田勝家、大田道灌、加藤清正などが桔梗紋を家紋として用いています。

キキョウの根にはプラチコジンというサポニンが含まれています。一般にサポニンの水溶液は消えにくい泡を作る性質があって、その適量は気管の痰を出やすくすることから、去痰・鎮咳や排膿の生薬として使われてきました。

但し、多量服用すると、悪心、嘔吐を催すこともあり注意が必要です。

また、太くて白いキキョウの根は流水中に十分さらしてあくを抜き、外皮を取りされ、漬物や山菜として食されます。


秋の薬草 オケラ:キク科生薬名:白朮(ビャクジュツ)

オケラは本州、四国、九州及び中国東北部の南部、朝鮮半島に分布し、日当たりのよい山野に自生する多年草です。9~10月にかけて、枝の先端に白頭状花を咲かせます。

京都の八坂神社には大晦日(おおみそか)から元日の朝にかけて神前に供えた削掛(ヌルデやニワトコなどの木片を薄く削って花のようにした祭具)と薬草のオケラを焚いて邪気を払い、参拝者はこの朮火(おけらび)を吉兆縄に移して、消えないようにクルクル回しながら持ち帰り、元日の雑煮をにたり、神棚や仏壇の灯明に移し、一年の息災を願う行事があります。

また、精油を含んでいることで、梅雨時に燻してカビとりにも用いられてきました。食用としては「山でうまいはオケラにトトキ、里でうまいはウリ、ナスビ」と謳われ、春の若芽は絶品の山菜です。

漢方で用いられる白朮は、このオケラと中国のオオバナオケラの根茎で、利水作用や健胃を目的に使用されます。

万葉には、ウケラ(古名)として三首、東歌として詠まれています。これらは忍ぶ恋歌で、オケラの花の物静かな風情によく似合っています。

恋しけば袖も振らむを武蔵野の うけらが花の色に出(づ)なゆめ

我背子を何(あ)どかもいはむ武蔵野の うけらが花の時無きものを


秋の薬草 キク:キク科生薬名:菊花(キクカ、キッカ)

菊は昔から紋様とも深い関わりがあります。後鳥羽上皇(鎌倉時代)が好んで菊の意匠を用いたことから、皇室の紋として使われてきました。

今では、日本を象徴する花として菊が用いられています。パスポートや勲章、50円玉などに菊の意匠があしらわれています。

薬食の世界を見ますと、中国、熱帯アジアやヨーロッパなど多くの国々では、花を食材にする食文化がありますが、日本においてはあまり多くはありません。

その中で菊の花は、意外に食卓に載る花の一つです。

青森県八戸地方の特産「阿房宮」は鮮やかな黄色い花弁の苦みの少ない「菊のり」用の食用菊です。熱湯に酢を加えて、さっとゆでておひたしにしたり、天ぷらや味噌汁の具、和え物などに広く利用されています。

刺身の薬味として添えられている菊の花は魚毒を抑えるためのものです。

生薬の菊は「菊花(キクカ、キッカ)」と呼び、キクやシマカンギクの頭状花の部分を乾燥させて用います。

解熱、解毒、鎮痛、消炎薬として、感冒、発熱、悪寒、頭痛、目赤腫痛、視力の改善、目の充血、視力の低下、化膿性の炎症などに用います。

特に、目の疲れや熱を取るのに用いられ、視力減退や目のかすみに適用される「杞菊地黄丸(コギクジオウガン)」などの漢方処方に用いられています。

菊の香や奈良には古き仏達  芭蕉  菊折りて菊に埋まる日を思う  岡格子


秋の薬木 カキ:カキノキ科生薬名:柿蒂(シテイ)

柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺

法隆寺の茶店に憩いて、との前書きがあるこの俳句は正岡子規の代表句の一つですが、参詣の当日は雨であったことから、この句はフィクションだと考えられています。また、当時の子規の病状などから、法隆寺参詣を疑問に思う説もあり、諸説紛々の句ではありますが、この柿は大和名産の御所柿であると考えられています。

柿は日本の秋の味覚の代表的なものの一つですが、原産は中国の揚子江沿岸地域です。 元来渋柿だったものに改良を重ねてきたため、現在の甘い柿になっています。 花は5月の終わり頃から6月にかけて白黄色の地味な花をつけます。雌雄同株で4枚の萼(がく)には果実の成長ホルモンがあり、萼を傷つけると、大きな果実になりません。

薬用には、へたを柿蒂と呼び、しゃっくりの特効薬として使われています。丁子、生姜、柿蒂からなる漢方薬を「柿蒂湯」といい、中国宋の時代の済生方に「胸満、欬逆止まざるを治す」とあるのが出典です。

柿のへた以外にも、葉は柿茶として止血効果、血圧降下が期待され、干柿は止血に、干柿の表面に出てくる白い粉末は咳止め・咽喉痛に用いられます。


秋の薬草 リンドウ:リンドウ科生薬名:竜胆(リュウタン)

秋の七草のひとつに何故入っていないのかと疑うほど、リンドウは秋を彩るにふさわしい美しい花です。

リンドウ科は世界に約70属1100種以上の種があります。中でも薬用に使われる生薬の竜胆(リュウタン)は、トウリンドウ他1種で、その根及び根茎を用います。

同じ科には、センブリや西洋生薬のゲンチアナなどがあり、ゲンチオピクロシドと呼ばれる苦味配糖体が含まれています。

竜胆の名の由来は、熊の胆よりも苦いことから、竜の胆(胆嚢)のようだ、ということからきています。植物名の「リンドウ」は「リュウタン」が訛ったものです。別名の「笑止草(えやみぐさ)」は笑いが止まるほど苦いことからの呼び名です。

この苦みをもって、苦味健胃薬として、唾液・胃液・膵液・胆汁の分泌促進作用により、食欲不振、胃アトニ―、胃散過多症、腹痛などに用いています。

詩歌の世界では、リンドウは、秋の花というより冬の花として読まれることが多いのは旧暦だと、冬に属してしまうからかもしれません。

―うららけき 冬野の宮の 石段の 段ごとに咲く リンドウの花若山牧水 ―かきわくる ひと足ごとに 竜胆の 光りまたたく 冬のあさあけ北原白秋


秋の薬草 センブリ:リンドウ科生薬名:当薬(トウヤク)

センブリは、ドクダミ、ゲンノショウコと共によく知られた日本の代表的な民間薬の一つです。10月頃、白い花びらの中央に紫色のすじが入る可愛い花を咲かせます。日本、朝鮮半島、中国の草原などの日当たりのよい所によく見られますが、日本以外には、あまり薬草として使われていません。

センブリは千回振り出してもまだ苦いことからの命名ですが、この苦さはリュウタン(竜胆:リンドウの根)の10倍苦いと言われています。まさに「良薬口に苦し」にぴったりと当てはまる薬草です。また、生薬名の「当薬」は「当(マサ)に薬」で、よく効果のあることを表しています。

センブリは、古く日本ではシラミやノミなどの駆除剤として用いられていましたが、江戸時代になって腹痛の妙薬として用いられるようになりました。

花・葉・茎・根のすべてが苦く、薬用には全草を用います。苦い成分は苦味配糖体のスウェルチアマリンで、主に苦味健胃薬として、胃痛・腹痛・食欲不振・下痢などに使用します。また、別の効用としては、毛根への刺激による発毛効果があります。


秋の薬草 ワレモコウ:バラ科生薬名:地楡(チユ)

ワレモコウは日本各地、朝鮮半島、中国、ロシア、ヨーロッパなどのユーラシア大陸に広く分布する多年性植物です。本邦では秋を代表する野草で、生け花にも使われています。

7月から10月にかけて、枝分かれした枝の先に、花弁のない濃い深紅のがく片だけの花を咲かせます。

生薬名を「地楡」といい、根茎を11月頃に掘り上げ、ひげ根を除き、水洗のあと、細根が取れるようになる3週間ばかり天日で乾燥して仕上げます。

地楡の成分として、タンニンのほか、サンギンソルビンなどのサポニンを多く含み、大腸菌、チフス菌などの細菌を抑制する抗菌作用があります。

2000年前の中国の薬物書「神農本草経」に、「味苦微寒、生山谷、主婦人乳痙痛、七傷、帯下痢、止痛、除悪肉、止汗、療金創」と書かれていて、「味は僅かに苦く熱をさまし、山野に生育し、女性の乳腺炎、処々の疲労、おりもの、止痛に用いる。肉腫を去り、汗を止め、切り傷を治す」などの効果がうたわれています。

ワレモコウを詠んだ歌2首。

―「吾亦紅 さし出て花の つもりかな」小林一茶 ―「吾木香 すすきかるかや 秋草の さびしききわみ 君におくらむ」若山牧水

歌中の「吾亦紅」は「我もまた紅なり」と己の姿をよく表現しています。一方、「吾木香」は「我も木香のごとし」とありますが、ワレモコウにはほとんど香りはありません。

なお、ワレモコウの花言葉は「感謝」「変化」です。


秋の薬草 クズ:マメ科生薬名:葛根(カッコン)

秋の七草のひとつ「クズ」は、山地や荒地に普通に見られる東洋の多年生植物です。茎が他の植物に巻きつき伸びてゆきます。巻きつくものがないときには、地を這って広がっていきますので、カバークロップとして利用されます。

アメリカでは、この性質を利用して、崖や堤の崩壊防止に導入されましたが、今では森林の周辺部に繁茂し、木を枯死させたりして大きな被害が出ています。

漢方薬「葛根湯」は、クズの根(葛根)が主薬の風邪薬です。葛根の主成分であるダイゼインには僧帽筋の緊張を緩める作用があり、肩こり症の人には有用な生薬の一つです。

初秋には葉の付け根から総状花序を出し、紫色の豆状花を多数つけます。この花を乾燥させたものは葛花(カッカ)とよび、二日酔いのクスリとして用います。

掘り上げた根を水洗いして、すりおろして粥上にし、布越しして繊維を除き、放置し上澄みを取り、この操作を数回行うと、底に白いでんぷんが得られます。これを乾燥したものが葛粉です。葛粉から作る葛湯は、風邪の初期に効き目があります。